Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第13夜

腹一杯



「難しい」と言った割に、二夜続けて食い物の話である。

腹つえ」と言われたら、どういう状態を想像するだろうか。「腹」が「強い」のである。
 こういう状態を、香川では「腹がおきる」、広島では「腹が太る」というらしい。*1
 そう、表題の通り、「腹一杯」の状態を指す。
「強」は「強(こわ)ばる」という使い方もすることだし、そうとっぴな表現でもあるまい。腹がパンパンに張っている状態を想像してもらえると、「強い」というのも、なんとなく雰囲気ではないか。

 ついでだから、他の地域の食い物絡みの表現を一つ。
 讃岐地方で「おまわり」と言ったら「おかず」のことである。これも、きちんと古語辞典に載っている由緒正しい言葉だ。
 見ての通り、ご飯の「まわり」に並んでいるから「おまわり」なのである。
 ついでに言うなら、数がたくさん並んでいるから「お数」である。

 で、何故に二夜連続で食い物の話かと言うと、秋田衆として、食い物の話が出たときに酒に触れないわけにもいかん、と思い直したからである。

 早速だが、「脛巾脱ぎ(はばきぬぎ)」。
「脛巾」というのは、昔の旅装束で、文字どおり脛に巻き付けた布であって、後の「脚半(きゃはん)」にあたる。
 で、これを「脱いだ」状態。
 で、今回のテーマは酒。
 正解は、「打ち上げ」である。
 元々は、文字どおり、旅から帰ってきてお疲れ様、怪我がなくて良かったね、という意味合いだったのだろうが、今では単なる打ち上げの宴会を指すようになった、そんなところだろうと思われる。*2

 鹿児島には「だれやめ」という言葉がある。これは「晩酌」の意味である。「だれ」は「だるい」「疲れ」で、これをやめるから、だそうだ。
 話を秋田に戻して、「宴会」だが。
 これは「呑み方」と言われる。
「呑む方法」とかそういうことではなくて、「宴会」「飲み会」自体を指す。晩酌などの個人的な行為ではなく、パブリックなニュアンスがある。が、オフィシャルとまではいかない。ホテルのホールで行われる業界の新年会は「呑み方」とは言えない。敢えて「呑み方」という場合、「なぁに、所詮はただの飲み会で、有益な意見交換などは行われない」と言ったようなマイナスのニュアンスが込められる。
「〜方」が、その行為を指す、というのは、意外に思うかもしれないが、実はそれ程珍しいことではない。戦争を扱ったドラマやなにかで「撃ち方やめ!」とかいうのを聞いたこともあるだろう。
 で、驚いたのは鹿児島でもこう言うらしい、ということ。発音こそ「のんかた」だが。他の例がないので迂濶なことは言えないのだが、すわ方言周圏論?!と思ってしまう。

 これは個人的な感覚かもしれないが、単に「酒」と言ったら「日本酒」を指す。いや、これでは説明が不完全だ。飲み屋で「酒くれ」と言ったら「日本酒が欲しい」という意味だ。と思う。
 以前、東京の飲み屋で「お酒ください」と言ったら、店員が怪訝そうな顔をしていた。俺の感覚がおかしいのか、秋田でしか言わないのか、その店員が間抜けなのかは不明だ。


注1:
 秋田以外の方言の話は、全て
@nifty の<全国ふるさと交流フォーラム>、「全国云いたい方言集」会議室で得た情報である。()

注2:
 DYO@gadget.ne.jp さんによると、
土崎方面では「笠納め (かさおさめ)」というらしい。
 これも雰囲気ですな。(970831 加筆)()



音声サンプル(.WAV)

腹つえ(13KB)
脛巾脱ぎ(15KB)
呑み方(12KB)


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shuno@sam.hi-ho.ne.jp