今度は、三夜続いて「腹」の話だ。
身体部位というのは、生活に密着したものだから、当然のように各地域でいろんな呼び方があるわけだ。とは言っても、医学の進歩によって (歴史的に) 最近見つかったものなどは、どうしたって漢字やカタカナを使った全国共通の呼び方になる。「
東北では DNA のことを『くさりっこ』と呼ぶ」とか「
秋田で『三半規管』と言ったら、足の薬指の第2関節を指す」というようなことはない。
「
腹わり」
直訳すると、表題の通り「腹が悪い」。
意味は「
不愉快である」。
以前にとりあげた「
好きでね」より強い。
東京弁で言うところの「胸くそ悪い」であろう。「腹に据えかねる」という表現もある事だし。
なお、「
腹わり」と言っている場合、その人はかなり怒っている。少なくとも、その事に関してはからかったりしない方がよい。
とは言っても「
腹わり」というのは、どちらかと言えば、過去のことを述懐するときに使う表現で、
現在のことに関しては使われない。「
*俺、今、腹わりぞ (俺は今怒っているぞ)」とは言えない。「あったまきた!」というのとは違う。「
なんと、あんたごどまで言わいで、腹わりも腹わり… (なんたって、あんなことまで言われて、頭に来るの来ないのって)」という風に、過去のことを述懐するのに使うことが多い。
また、自分以外には使えない。「
*部長、腹わりいんたよ (部長、怒ってるみたいだよ)」とは言わない。
思わず口をついて出る表現、独白の時に使う表現であるとも言える。
「
なづぎ」。
古語辞典を引いてみよう (以下、すべて『角川新版古語辞典』角川書店 1989。用例は割愛した)。
なづき【脳・髄】名 (1) 脳髄・脳蓋などの称 (2) 頭
「
げほ」
額
*のこと。
げほうあたま【外法頭】名 (1) 異形で大きな頭。さいづち頭。(2)(頭が大きいことから) 福禄寿の異称
あたりが関係ありそうだが。
子供など、かわいい額の場合、「げほっこ」なんて言ったりもする。
「まなぐ」
考えるまでもなく、「まなこ」「目」。
能代名物、大きな目で舌をベロっと出した絵柄の凧は「
まなぐだご」と呼ばれる。
他に、訛りのパターンとして「かかと」が「
かがど」になる、というのもある。
これくらいしか思い付かない。
自分で使うのは「
腹わり」と「
げほ」くらいだ。
俺の場合、身体部位は、ほとんど標準語語彙でなりたっているといっていいと思う。
大変に残念なことではあるが。