Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第14夜

腹が悪い



 今度は、三夜続いて「腹」の話だ。

 身体部位というのは、生活に密着したものだから、当然のように各地域でいろんな呼び方があるわけだ。とは言っても、医学の進歩によって (歴史的に) 最近見つかったものなどは、どうしたって漢字やカタカナを使った全国共通の呼び方になる。「東北では DNA のことを『くさりっこ』と呼ぶ」とか「秋田で『三半規管』と言ったら、足の薬指の第2関節を指す」というようなことはない。

腹わり
 直訳すると、表題の通り「腹が悪い」。
 意味は「不愉快である」。以前にとりあげた「好きでね」より強い。
 東京弁で言うところの「胸くそ悪い」であろう。「腹に据えかねる」という表現もある事だし。
 なお、「腹わり」と言っている場合、その人はかなり怒っている。少なくとも、その事に関してはからかったりしない方がよい。
 とは言っても「腹わり」というのは、どちらかと言えば、過去のことを述懐するときに使う表現で、現在のことに関しては使われない。「*俺、今、腹わりぞ (俺は今怒っているぞ)」とは言えない。「あったまきた!」というのとは違う。「なんと、あんたごどまで言わいで、腹わりも腹わり… (なんたって、あんなことまで言われて、頭に来るの来ないのって)」という風に、過去のことを述懐するのに使うことが多い。
 また、自分以外には使えない。「*部長、腹わりいんたよ (部長、怒ってるみたいだよ)」とは言わない。思わず口をついて出る表現、独白の時に使う表現であるとも言える。

なづぎ」。
 古語辞典を引いてみよう (以下、すべて『角川新版古語辞典』角川書店 1989。用例は割愛した)。
なづき【脳・髄】名 (1) 脳髄・脳蓋などの称 (2) 頭

げほ
 額 *のこと。
げほうあたま【外法頭】名 (1) 異形で大きな頭。さいづち頭。(2)(頭が大きいことから) 福禄寿の異称
 あたりが関係ありそうだが。
 子供など、かわいい額の場合、「げほっこ」なんて言ったりもする。

まなぐ」  考えるまでもなく、「まなこ」「目」。
 能代名物、大きな目で舌をベロっと出した絵柄の凧は「まなぐだご」と呼ばれる。
 他に、訛りのパターンとして「かかと」が「かがど」になる、というのもある。

 これくらいしか思い付かない。
 自分で使うのは「腹わり」と「げほ」くらいだ。
 俺の場合、身体部位は、ほとんど標準語語彙でなりたっているといっていいと思う。
 大変に残念なことではあるが。



注:ところで「おでこ」って漢字で書くと「お凸」なんですよ、知ってました? そんなに飛び出てますかねぇ。()


音声サンプル(.WAV)

腹わり(13KB)
なんと、あんたこどまで言わいで、腹わりも腹わり…(45KB)
なづぎ(13KB)
げほ(9KB)
まなぐ(9KB)
かがど(10KB)


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