Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第15夜

This Week's Dialog




Skit 1:都会の喫茶店にて
客A 「へば、コーヒー貰うがな
客B 「あ、おいも
客C 「おいも、おいも
店員 「申し訳ありません。当店では芋は扱ってないんですが

 標準語訳
男A 「じゃ、コーヒーを貰おうかな」
男B 「あ、俺も」
男C 「俺も、俺も」
店員 「申し訳ありません。当店では芋は扱ってないんですが」

解説
 ラ行は発音のためのコストが高い (発音が面倒くさい) ので、ア行に変化することが多い。ここでは 3 人とも「俺」を「おい」と発音している。不慣れな店員がそれを「お芋」と聞き違えた、という話である。


Skit 2:ロンドンの喫茶店にて
客A 「A Cup of Tea, please」
客B 「わも
 数分後、何事もなかったかのように、午後の紅茶を楽しむ 2 人。

解説
 秋田県北部から津軽にかけては、自分のことを「わ」という。このスキットでは、客Bが「俺にもコーヒーをくれ」という意味で「わも」と言ったのである。
 不慣れなイギリス人にはこれが "One more" に聞こえた。したがって、めでたく紅茶 2 人前というオーダーが成立したのである。この場合は、幸運な聞き違いといえよう。
 出典 『津軽弁・違る弁!(伊奈かっぺい、おふぃす・ぐう)』


Skit 3:某県のバスのアナウンス
落ちる人が死んでからお乗りください

 標準語訳
「降りる人が済んでからお乗りください」

解説
 どこの地域だか忘れてしまったが *、「降りる」を「おちる」、「済む」を「しむ」と言うところがあるんだそうだ。
 いつどこで聞いた話かも忘れてしまった。


Skit 4:京都の土産物屋にて
客A 「すいません、この『やばせ』ください」
店員 「あなたたち、秋田の人だね」

解説
 秋田市の官庁街「山王 (さんのう)」の隣に、県立体育館や市営球場などがある「八橋(やばせ)」という地域がある。
 聞いた話だが、これは土産物屋では有名な話らしく、すぐわかるという。これを聞いた修学旅行生がわざと間違う、という不毛ないたちごっこが繰り広げられているとか。本当かどうかは知らないが。
 それにしても、あの菓子は「八ツ橋」で「ツ」が入っているのだから、間違う方がどうかしている、という気はする。

 異なる言語が接触する場面では、こうしたすれ違いが常に起こっているわけである。
 笑い話ですめばいいけれども、昔は、方言を使って笑われたりさげすまれたりして、殺人事件にまで発展してしまった例もあるそうだ。
 違う、ということを認められない社会は、どこか歪んでいると思う。



注:秋田県大館市近辺らしい。()


音声サンプル(.WAV)

へば、コーヒー貰うがな(20KB)
おいも、おいも(14KB)


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