Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第140夜

サ変・カ変−秋田弁講座プロジェクト−




 みなさん、ご存知の通り「する」と「来る」は、それぞれが独自の活用をするので、
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「サ変」「カ変」と呼ばれて、特別扱いとなっている。
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 「する」の方は、「変更する」「感謝する」のように、上に名詞がくっついて、異様な
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造語力を誇る「サ変名詞」というカテゴリーも作っているが、「カ変」の方は、これ一
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つだけである。
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 普通、文法における特殊例というのは、長いスパンでは淘汰されてしまうから、一
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単語のみのカテゴリーが存在するというのは、「来る」がいかに重要な単語であるか
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を示している。英語の“come”が、三単現で“-s”、進行形で“-ing”がつく他は、現在も
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過去も過去分詞も“come”であるのと通じるものがあるかもしれない。


 まずは「する」の活用表。

する
 標準語秋田弁
未然 1 し-ない さ-ね
 せ-ぬ
未然 2 し-よう
未然 3 さ-れる さ-いる
連用 1 し-ますす(る)-す
連用 2 し-たい し-て
連用 3 し-た し-た
終止 す-る す(-る)
連体 す-る す(-る)
仮定 すれ-ば せ-ば
命令 し-ろ 
 せ-よ

 いつぞやの仮説に従って、未然形 2 はないことにしてある。
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 共通語が「しすせ」で変化するのに対して、秋田弁は「さすせ」である。共通点といえ
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ば、終止形と連体形だけか。「す(-る)」となっているのは、「る」が脱落することがある
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からである。「そうするか」が「そすが」になったりする。
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 受身・可能・自発の「れる・られる」は未然形 1 につく。サ変に限っては、「れる・られ
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る」に先行する時だけ別の形に変化するので、これを便宜的に「未然形 3」とした。
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 連用形も同様に 3 つにわけてある。これも、「す」に先行する連用形は終止形や連
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体形と同じ形である、という仮説に従っている。
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 「されない」は音便化を起こして「さいね」になる。この、可能の意味を担った「れる」
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の否定形を禁止に使う、という話はいつかした。「そんたごど さいねよ」は「そんなこ
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とをしちゃ駄目よ」という意味である。
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 なお、サ変名詞も、この形に従う。
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 標準語では「察する」「信ずる」などもサ変動詞として分類されているが、秋田弁では、
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「する」とは活用パターンが異なり、「*察さね」「*信ざね」とは言わない。「察しね」「信じ
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ね」となる。つまり、上一段活用である。
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 古語から現代語への変化の過程で、この 2 語を含む一部の単語は、サ変と上一段
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の両方の型にまたがるようになったのだが、秋田弁ではサ変側には流れてこなかった、
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ということである。


来る
未然 1 こ-ない こ-ね
未然 2 こ-よう
連用 1 き-ますく-るす
連用 2 き-たい き-て
連用 3 き-た き-た
終止 く-る く-る
連体 く-る く-る
仮定 くれ-ば け-ば
命令 こい 

 共通語形が「きくこ」、秋田弁では「きくけこ」である。違うのは仮定形と命令形くら
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いだ。どちらも音便化の結果ではないかと思うのだが。
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 「する」の「る」は脱落すことがあるが、「くる」の「る」は脱落しない。「」だと「食う」
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の意味になってしまう。
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 動詞がア段に変化して、意思を示すことができるという話も前にした。「待ってる
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が「待ってら」になると、「待っていましょう」という意味になる。
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 今、気づいたのでここで補足すると、これは話者自身の意志である。「またみんな
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で来ようね」という時は「来 (く) ら」は使えない。
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 「け」の段は「食う」と同じ形になる。だから、「ここに来い。これを食え」は「こさけ、
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これけ
」となってしまう。脱線するが、「かゆい」も「」である。


 あまり、特異な話題がなかった。
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 これも「する」と「来る」のパワーのせいか、と思ったりするが。



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第141夜「きみまちざか/ふぐ温泉」

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