Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第86夜

えぇ加減になんとかせーよ




 何がって秋田弁講座プロジェクト
.
 宣言してから、一体、何ヶ月たったのやら。
.
 そんなわけで、没原稿を書いている内に見つけた話題で、一発目の試み。
.
 テーマは下一段活用の動詞
.
 「ける(くれる)」、「がめる(かすめ取る)」、「かへる(たべさせる)」、「へる(言う、もしく
.
は、入れる)」、「転げる(転がる)」、「どげる(どける)」などなどが該当する。
 標準語秋田弁
未然1 越えない 越えね
未然2 越えよう 越えよう
連用 越えます 越えるす
 越えたい 越えで
終止 越える 越える
連体 越えるとき 越えるづき
仮定 越えれば 越えれば
命令 越えよ・越えろ 越えれ

.
解説:
.
 まず、未然形の1と2だが、1は「〜ない」に続く形、2は「〜う・〜よう」に続く形
.
である。これは下一段に限らず全動詞に共通。


 概ね同じ形であるが、幾つかの特徴を述べていくことにする。


 連用形が目立つ。
.
 「〜ます」に繋がる場合、終止形と同じ形になる。その一方、「〜たい」については標
.
準語と同じように、語幹と同じ形である。
.
 ここでは、連用形が2種類あるというより、「ます」に相当する助詞「す」が終止形接
.
する、と考える方が妥当だと思われる。形の上では連体形の可能性もあるが、これ
.
は今後の展開にゆだねることにする。ただ、「連体」という意味から考えて、終止形接
.
続の方がより妥当であろう。


 未然形2については、形式的なものだ、という問題点がある。
.
 つまり、「越えよう」という形があり、全く使わないのでもないのだが、意味から考え
.
れば「越えるべ」という形を使うことの方が遙かに多い。こっちは、「べし」の変形であ
.
る「」が接続していることから考えて、終止形であろう。


 問題が一つ。
.
 「どげる」である。
.
 「どげれ!」という命令形がある。これはもちろん、「どかしなさい」という意味なの
.
だが、場合によっては「どけ!」という意味になることがある。この場合の「どげれ!
.
が「どぐ」の命令形なのか、「どげる」の命令形なのか。
.
 意味から考えれば「どぐ」なのだろうが、「どぐ」は5段動詞で、命令形は「どげ」な
.
のである。
.
 形の上で一致する「どげる」では意味がかみ合わないのは言うまでもない。


 同じ意味は「どげ!」でも伝えることができる。
.
 例えば、「やめる」の場合、いささか文語的ではあるが、「やめ」「やめよ/やめろ」
.
の2種類の命令形があり得る。
.
 「どげ」「どげれ」もこのパターンなのだろうか。


 路上に線を引くとしよう。運動会の準備などを想像してもらうとよい。延長線上にあな
.
たが立っていて、ちょっと邪魔になる。あなたはなんと言うだろうか。
 「あ、邪魔だべ。こっちゃ どげでればいが
.
 (あ、邪魔でしょう。こっちに どいていればいいかな)」
 結論。
.
 秋田弁の「どげる」には、「どく」「どかす」の両方の意味がある。


 で、修正版。
 標準語 秋田弁
未然1 越えない -e 越えね -e
未然2 越えよう -e − *
連用 越えます -e − *
 越えたい -e 越えで -e
終止 越える -eru 越える -eru
連体 越えるとき -eru 越えるづき -eru
仮定 越えれば -ere 越えれば -ere
命令 越えよ・越えろ -eyo,-ero 越えれ -ere




"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

shuno@sam.hi-ho.ne.jp