Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第121夜

町に出よう




 もうすぐ春のはずだ。
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 少しづつ暖かくなってはいるのだが、なかなか春本番にはならない。
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 尤も、秋田の場合、下手すると GW 直前の花見のシーズンでも、屋外で酒なんて寒く
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てたまらない、という天候だったりすることがあるので、4 月になっても安心できなかった
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りする。首都圏とは 1 か月くらいずれてると思ってもらえばよい。
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 自転車のオーバーホールも2月に終わり、普段使いの (レース用ではなくて) 自転車の
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前輪にもサスペンションをつけたので、町に出てみることにする。


 「きゃど」「きゃどっこ
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 これは、「道」あるいは「道端」。
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 どちらかと言えば、小路ではなくて、大きめの道である。
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 それもそのはず、元は「街道」だ。
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 「っこ」なんて東北得意の指小辞がついてるが、車で出かけたときに道を聞くと「そご
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の きゃどっこさ でれば すぐだ
(そこの道に出ればすぐだよ)」なんて、4車線の1桁国
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道を指してくれたりする。
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 「けど」「けどっこ」なんて言う人もいる。


 「かどっこ」というのもある。
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 これは「角」に「っこ」がくっついたもの。意味はそのまま、「角」。
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 どっちかというと、小さめの道路である。国道や郊外バイパスの交差点なんかは「
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どっこ
」とは言いにくい。
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 アクセントは、「きゃどっこ」に対して「っこ」なので、同じ領域の単語ではあるが、
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紛らわしいこともない。


 自転車にばかり乗っていてもなんだから歩いてみることにしよう。
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 古語辞典を引いてみると「歩む」と「歩く」が別の意味であることがわかる。前者が
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足を進める」であるのに対して、後者は「移動」である。さらに「為歩く(しありく)」
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というのがあって、これは「何かをしながら歩き回る」という意味。
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 どうやらこれと関係ありそうなのが九州弁で、行商の人がものを売って回るような
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時に使う「歩く」は「さるく」と言う。


 走る。
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 俺にとっては「かける」というのは理解語彙である。辛うじて「かけっこ」と言ったか
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どうか、という程度。しかも、言わなかったような気がするなぁ。なんて呼んでたんだ
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ろう。まさか、「徒競走」じゃねーよな。
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 西日本のどこかでは「かけっこ」のことを「とびっくら」と呼んでいたと記憶する。大
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辞林で「かける」を引くと【翔る・駆ける】で、最初に「鳥・飛行機などが、空高く飛ぶ」
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が出てくるから、こっちが「かける」の主な意味なのであろう。


 話を最初に戻す。
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 「町」だ。
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 「明日はちょっと買い物があるから町に出る」という奴である。意味から考えると「街」
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と書くのが正しいのかもしれない。
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 ここ秋田県河辺町では、やはり「町/街」は秋田市を指す。「秋田」と呼んだりもする。
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 いや、場合によっては、秋田市内であっても、中央部の繁華街に出かけることを「
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田に行く
」と言ったりするのである。
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 秋田市北部の土崎が以前は「土崎港町」であったことは以前、話題にしたが、秋田市
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は周辺自治体との合併を繰り返して秋田県内有数の面積の自治体になったわけで、そ
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のへんの事情が影響を及ぼしているのではないかと推察する。
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 去年の夏に行った作並温泉も仙台市である。地図を開いてもらえばわかるが、仙台市
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は宮城県の中央部を貫く巨大都市である。まして、ここが仙台市になったのは最近のこ
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とだから、まだ「仙台に行く」という表現が残っていると考えられる。
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 これは、多数の核をもつ東京では想像しがたい事態であろう。


 秋田市は現在、駅前商店街の地盤沈下が進行中で、ここに行けば大丈夫、という商店
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街が存在しない状態である。昔、別の村であった郊外にイオングループのショッピングセ
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ンターがあるが、これが一番広かったりする。基本的にロードサイド全盛である。
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 車がないと話にならない。
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 だから冬はつらい。
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 早く春にならんかな。



使用した辞典(参照順)
『角川新版古語辞典』(1989) 角川書店
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『大辞林』(1989) 三省堂
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第122夜「県都」

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