Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第110夜

秋田はナマハゲで酒が飲めるぞ




 やっぱり正月と来たらの話題であろう。
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 説は色々とあるようだが、酒処となるには、米がとれて、旨い水があることが条件らし
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い。であれば、秋田と新潟が東日本の雄となるのは当然の結果か。兵庫の米はよく知
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らんが、灘は水らしい。
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 田舎ならどこでも旨い水はあるわけで、極端な話、原料となる作物さえあれば、蒸留か
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醸造かの違いこそあれ、酒処にはなれるわけだ。
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 東京の北区に (神谷だったか?) に作り酒屋があると聞いたが、味はどんなものなの
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だろう。青梅のには行ったことがあるのだが。
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 心ある人なら、アルコールを全く分解できない人も数多くいる、ということは知っている
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と思う。そういう人は秋田にもいる。
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 そんなわけで、「秋田出身ならお酒は強いんでしょう ?」というのは、言いがかりに近い、
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ということは言っておく。尤も、高校時代の先輩で、当時から腰のポケットにスキットルを
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いれてた人がいるが、それは例外である (と思う)。
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 安物の旅行ガイドだと「秋田のお祭りにはお酒が付き物」なんて書いてあったりするが、
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酒の絡まない祭りなんぞ聞いたことがない


 「脛巾脱ぎ (はばぎぬぎ)」については、に触れた。打ち上げのことである。
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 これに似た単語に「あどふぎ」というのがある。太宰治の『津軽』でも触れられている。
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説明代りに、その一説を引用する。
アトフキというのは、この津軽地方に於いて、祝言か何か家に人寄せがあった場
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合、お客が皆かえった後で、身内の小数の者だけが、その残肴 (ざんこう) を集
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めてささやかに開く慰労の宴の事であって、或いは「後引き」の訛りかも知れない。
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(新潮文庫、昭和 50 年 10 月 15 日、40 刷)
 つまり、単なる打ち上げではないわけだ。
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 まぁ、厳密にいえば「脛巾脱ぎ」も当事者の宴会であって、あんまり部外者を招くこと
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はないように思う。


 ところで、秋田に帰ってきて 5 年目で、もう東京の言語生活から離れて久しいのだ
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が、呑み会のことを「のみ」と言うのは、秋田弁か ? 東京でも使われる口語表現か ?


 酒の肴に「えご」。
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 寒天の原料となる海藻で、寒天にしたものを刺身状に切り、醤油をつけて食う。正し
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くは「エゴノリ」と言うらしい。
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 食感は、ザラザラしたゼリーってところかなぁ。寒天だから当たり前か。
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 「とんぶり」についてはに触れたが、池袋の小さなスーパーで見たことがあるとは
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言いながら、やはり秋田でしか食わないものらしい。
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 「えご」もそれに似たようなものだと思っていたが、どうもあちこちで食べられるもの
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のようである。
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 佐渡では「いごねり」と言うのだそうだ。「エゴノリ」と音が似ている。
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 実は、これが「おきゅうと」と同じものであるらしい。これならわかる人も多いだろう。
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 尤も、「おきゅうと」は、心太 (ところてん) みたいに細長くしたのを酢じょうゆで食うら
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しいから、そこまで考慮すると、完全に同じ食い物とは言えないことになるのだろうか。


 これは商品名なので紹介するのはちょっと気が引けるのだが、「ぬぐだ丸」というカッ
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プ酒がある。
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 カップ酒とはいいながら、特殊な細工がしてある。まぁ、ポケットカイロの強力なのを
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くっつけてあると思ってもらうとよい。カップのどこかをいじると化学反応が始まって、
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なんとがつく。
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 ところで、「ぬくい」という形容詞を思い出して欲しい。国語辞典にも載っている。
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 「暖かい」が「暖まる」になるのと同じパターンで、「ぬくい」が「ぬくまる」になるであろ
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うと想像して欲しい。それの秋田弁形が「ぬぐだまる」なのである。
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 こういうポータブル燗酒は別に秋田にしかないわけではない。念のため。


 秋田県内での酒の消費量を表現する場合、秋田県庁〇杯分という表現が使われ
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る。東京は霞ヶ関ビルから東京ドームやサンシャインビルに移ったようだが、各地で
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どうなっているのだろう。



参考文献:
(エゴノリについて)
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『世界大百科事典』(1992) 平凡社




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第111夜「空かり」

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