Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第96夜

山形弁の本(後)




 「やまがた散歩」という雑誌がある。文芸系のタウン雑誌とでも言おうか。手元にある
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のは9月号である。


 武田正という短大教授の「おんなの歩いた道」という文章では、「だだちゃ豆」の語源
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が解説されている。「だだちゃ」とは、庄内で「母」を指す言葉であるらしい。
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 引き続いて、「ほまち」「しんがいとり」という単語の解説があるのだが、農村特有の
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表現なのか、俺が知っている秋田弁との接点が見当たらず、単なる引き写しになって
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しまうので、深く立ち入るのはやめておく。
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 どちらも「へそくり」に相当する単語だそうだ。


 「〜してけらっしゃい」という表現が、何度かでてくる。「〜してください」に相当するの
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だが、この辺が秋田弁とは違うようだ。
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 この「けれ」は「くれ」の訛りであると思われる。この点については、秋田も山形も一
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緒だ。津軽も同じだったと思う。
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 山形弁の特徴は、「けれ」に「〜さい」がくっついたことであろう。これによって、「くれ」
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を目上の人間や知らない人間に使うことができるようになる。
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 秋田弁では、こうした変化が起こらなかったために、「けれ」を敬語体系の中に位置
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づけることができなかった。そういう相手にものを頼むときは「〜けれす」と、例によっ
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て「」をつけるか、「〜して貰えればありがたい」というような全く別の表現を用いるこ
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とになる。


 進藤久義という人の「ことばの四季」という文章では、「えんばい」という表現が取り
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上げられている。文章から察するに、「おべっか」「お追従」のことらしい。語源につい
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ては、「塩梅」が「臣下が君主を助ける」という意味もあることをあげている。


 そんなわけで、山形市の本屋で見つけた山形弁はこれだけだったのである。民話や
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歴史関係の本は手に取らなかったせいもあるのだが、ちょっと寂しいことであった。


 前にも書いたが、山形−仙台は、列車でもバスでも1時間である。簡単に行き来でき
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る距離だから、山形市内の書店やコンビニには、宮城の旅行ムックやタウン雑誌があ
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る。コンビニなどでは、山形のがなくて、宮城のだけ、ということも少なくない。


 「仙台っこ」というタウン誌があった。
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 佐伯一麦の文章も連載されているのだが、イベントや店舗の紹介などが大半で、文芸
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系とは言えないようだ。


 ここで見つけた言葉は「おだづなよ」である。意味の解説はない。今度、仙台出身の義
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弟にでも聞いてみようかと思うが、「ふざけんな」「ねぼけんな」という感じの、恫喝の言葉
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のようだ。


 コラムの名前が「ほでなす日記」。
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 これは、秋田弁で言うところの「ほじなし」であろう。
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 意味は難しいが、人を罵倒するときなどに使う言葉で、「馬鹿」に「頼りない」「役に立た
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ない」「どうしようもない」というニュアンスが加わる。宮城は知らないが、秋田弁ではかな
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りキツい言葉なので、親しい関係でも、面と向かっては言わない方が良い。


 秋田の方言に関する本はか取り上げたが、どれも新聞や雑誌連載をまとめたもの
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なので、あるいは、ここで紹介した雑誌から単行本が出ているのかもしれない。単に見つ
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けられなかったのだろうか。
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 仙台は雨で行き損なったのだが、山形市も含め、自転車もってって、本屋巡りをしたい
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ところである。



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第97夜「哀しみの豆ゴハン」

shuno@sam.hi-ho.ne.jp