Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第70夜
秋田弁の本(後)
前夜は、秋田出身の詩人と、カリフォルニア出身のイラストレータの本を取り上げた。
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この二人の著者の視点は明らかに違う。
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あゆかわ氏が、「こんなこと書いて大丈夫なのか?」という位にバッサリと切って捨て
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ることがあるのに対して、アーンスト氏は基本的に温かく見つめる、というスタンスであ
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る。この点で比較してみるのも面白いのではないかと思う。
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そう言えば、どっちも秋田弁を正面から取り上げた本ではないなぁ。
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実は、こういう本の方が多い。秋田弁自体を、言語学的な観点から捉えた本は少ない
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のである。
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まぁ、それもやむを得ないかとは思う。
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そういう本は数が出ないから商売にならない。
『東北方言ものがたり(98/3/1、\1,500、ISBN4-89544-180-6)』
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毎日新聞 東京本社 地方部 特報班 著
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これは、ちょっと切ない本である。
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毎日新聞に連載された、方言に関して色んな人に取材した記事をまとめた本なのだが、
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特に前半は、東京において言葉で苦労した話が続く。1960〜70 年代の事件、自殺にまで
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追いつめられた僧侶の話などは胸が痛む。優劣とは無関係に、自分と違うものを嘲笑し拒
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絶する姿勢は、昨今の中学生による殺人事件を連想させる。別の記事では「言葉に振り回
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された時代が終わってよかった」と述べられているが、本当に終わったのだろうか。
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逆に、その反動なのかもしれないが、「表情が豊か」など、東北弁を無条件に賛美する
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発言が多いのも気になる。以前も書いたが、東北弁だけが突出して豊かなのではない。
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東北弁が豊かだと感じられるのは、我々が東北で生まれ育ったからだ、ということを忘
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れるべきではない。
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時折、大学教授の意見や調査結果が取り上げられているが、これが、センチメンタリズ
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ムに偏らず、比較的、公平に扱われているのは好感が持てる。
おもしろいエピソードがある。
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4年ほど前に "DA・YO・NE" という歌がヒットしたのを覚えているだろうか。この歌は、
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若者の言葉をそのままラップのリズムにのせたものなのだが、全国各地の言葉でパロデ
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ィ版が出たことも話題になった。
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仙台版の "DA・CHA・NE" が作られた背景には、ラジオ局に「何を言っているのかわから
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ない」という声が寄せられたことがあるそうだ。
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つまり、オリジナルの "DA・YO・NE" の歌詞は「東京の若者」の言葉であり、東京以外の
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住人にとっては紛れもない「方言」だったのである。
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また、この企画を最初に持ち込んだのは青森のアナウンサーだった。しかし、わかりや
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すさをとって、結果的には、仙台弁に津軽弁がまざった歌詞になったんだそうである。
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この辺に、「方言」というものの持つ諸相が垣間見える。
この他にも、地元の新聞社・秋田魁新報社からも何冊か出ているし、自費出版などもあ
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わせれば、方言に関する本はまだある筈だ。
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東京でも、神田辺りには地方出版を得意とする本屋があるそうだし、昔と違って、今は
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「地方・小出版扱いで」と言えば取り寄せられる(遅いが)。
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ちょいと、このルートを探してみるのも面白かろう。学術的な展開は期待薄だが。
しかしまぁ、もうちょっとなんとかならんか、秋田の本屋と図書館。
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