Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第94夜

山形弁の本(前)




 4月以降、仕事での出張を中心に何度も山形に行った。出張の方は終わったようだし、
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少なくとも今年は私用で行くこともないような気がするので、耳にした表現を並べてみよ
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うと思う。とは言え、客先の会社がほとんどで、ちょっと博物館やら美術館に行ったくら
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いなので、あんまり多くないし、偏っていることは最初に言っておく。


 「こいづ」。
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 いうまでもなく、「こいつ」の訛りである。アクセントは「い」にあるようだ。
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 なんでこれが耳に留まったかというと、秋田ではあまり「こいつ」という単語は使わない
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からである。秋田弁では、「これ」の訛りである「こい」が一般的だ。
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 この「こいづ」は、非常に頻繁に聞かれた。この職場でのみ使われる表現という可能性
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もないことはないが、単語が「これ」であって、具体的なモノをさす単語でないことから、
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その可能性は低いように思う。


 「けっぺずる」。
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 まぁ、文脈の助けがあるとは言え、秋田で使われることのないこの単語の意味がわかっ
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てしまったというのは、さすがに「お隣さん」の縁は強いなぁ、と思った。
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 意味は「削る」である。


 山形市には立派な本屋が多い。秋田市とはエラい違いである。新書の棚が13列もある
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本屋
など、秋田県にはない。全県を見て回ったわけではないが、秋田県は秋田市一極集
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中が激しい県だから、一応「ない」と断言しておく。
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 が、地方出版はあまり盛んではないようである。県内最大という本屋で確認したのだが、
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地方出版の本が4段分しかない。他にも2・3軒まわってみたが、似たようなものだった
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ので、とりあえずそういう仮説を立てておく。
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 そんなわけだから、かなり期待していったのに、山形の方言について書かれた本を入手
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できなかった。手ぬぐいとか暖簾とかだと、今イチ信憑性に欠けるのである。せいぜいが
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土産物屋にある民話の本か。
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 唯一あったのが『ダニエル先生ヤマガタ体験記(98/6/15、ISBN4-408-41084-5、\1262)』
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である。ただし、出しているのは実業之日本社だ。
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 著者は、あの「アメリカ生まれの山形県人」、ダニエル・カール氏である。
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 内容は、日本でも北国特有の「止水栓」の話、日米の恋愛感の違い、英語指導主事助
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手(今で言う ALT)という立場から見た日本の教育、など結構、楽しい。3ヶ月で五刷まで
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いってるところを見ると、かなり売れたようだ。


 に、ティム・アーンストという人が書いた本を話題にした。そのときに、「そうだ」に相当
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する「んだ」を "UNDA" と表記していることを取り上げた。
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 ダニエル・カールもそこで躓いている。「『ン』で始まる日本語は無い筈」ということで「産
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んだ」なのではないか、と推測したエピソードがある。ひょっとして、東北方言はグローバ
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ル・スタンダードから外れているのか?
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 そう言えば、学生の頃に、授業でスコットランド方言の英語を聞いたことがあるが、全く
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理解できなかったことは白状しておく。


 この本の中で興味深いのは「」である。
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 いつか、秋田弁の敬語体系では「」をはさんでおけばとりあえず問題はない、という
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ことを書いた。同様のルールが山形でも通用するらしい。
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 が、ダニエル・カールの弁によれば、「」を重ねると敬度が上がるらしい。これは俺
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自身が耳にしていないので、確認していない。本当に「どうもっすっすっす」とか言って
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るんだろうか。


 秋田弁との関連で言うなら、「しょし」か。
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 この本を読むまでは、山形では「おしょしなんす」と言えば「ありがとう」という意味なの
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だと思っていた。が、これは県南部の置賜(おきたま)の表現らしい。村山(山形市周辺)
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では、やはり「恥ずかしい」という意味であるらしい。


 隣県人だからという訳でもないと思うのだが、数ある外国人タレントの中でも(こういう
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括り方は失礼か)割と好感を持っていた。この本を読んで、一層、親近感を持ったこと
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であった。できれば、もっと辛辣な意見も聞きたいと思うのだが。


 台風4号のおかげでJRがほとんど止まり、山形市に閉じ込められてしまったので(山寺
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に行きたかった!)、駅周辺の博物館やら美術館は制覇してしまったのだが、そこで置
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賜地方が伊達領であったことを知った。
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 実は、これでやっと山形県の4区域がそれぞれどこなのかをきちんと覚えることが出来
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た。博物館は、方言研究にも役立つのか。
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 本屋が充実していて、それでも駄目なら丸善のある仙台まで1時間という立地。青森ほ
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どではないにしろ、秋田県と違って、各地域に中心都市が存在しているという人口バラン
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ス。正直言って、山形県民がうらやましいのである。



参考:
Yamagata Pref. 1,644Bytes  黄色が「庄内」、が「最上」、が「村山」、が「置賜」



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第95夜「♂♀∞」

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