Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第79夜
代名詞再び
指示代名詞は去年の春と今ごろの2度、取り上げた。今回はその続きで、代名詞
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第3段。
「なんだかかんだが」については、春の方で詳しく取り上げた。これとイコールの表
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現は標準語には存在しない。
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では「なんだりかんだり」はどうか。
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「なだりかだり」とも言うが、東北弁の音韻的特徴で、「だ」の前には短く「ん」がはい
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る。これを「なんだり〜」と書くか「なだり〜」と書くかは好き好きである。
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用例を挙げる。
ここまで来たんだから、後は、なんだりかんだり やるしかねべ
まぁ「なんでもかんでも」に近い。文全体は、「ここまで来たんだから、後は、なんで
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もかんでも、とにかくやるしかないだろう」という意味だ。
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しかし、「なんでもかんでも」には「なんでもかんでもやりゃぁいいってもんじゃない
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んだよ」という使い方ができる。「なんだりかんだり」にはそういう用法がない。
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キーは、訳文で使った「とにかく」にある。
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「なんでもかんでも」は、「すべて」「手当たり次第」で、玉石混交である。英語で言う
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なら "all" だ。
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これに対して「なんだりかんだり」は、"any" に近い。あるいは、"whatever" あたり
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か。日本語にしたら「なんでも」としか言えないが。上の例文に当てはめるなら、「役に
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立ちそうなことなら、なんでも」というような限定がつく。なんでもいいわけではなく、最
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低限の取捨選択は必要だ。
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推論:「なんだりかんだり」の「だり」は「なり」の転訛である。
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この「なり」は、「煮るなり焼くなり好きにしろ」の「なり」だ。
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『大辞林(1989・三省堂)』には、「他にもっと適当なものがあるかもしれないが、例え
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ばという気持ちを込めて、ある事柄を例示する」と「例として並べ挙げた中で、どれか
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一つを選ぶという意を表す」の解説がある。例文として、前者は「先生になり相談しな
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さい」「一ヶ月なり二ヶ月の保証金を入れてください」などがある。
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いずれ、なんでもいいわけではない、という点で共通点がある。結構、有力な推論だ
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と思うのだが。
短い奴で一息入れよう。「づ」だ。
「行がづが」。
これは詰まった表現で、「行ぐゃづが」「行ぐぁづが」とも言う。
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意味は、「行くのかよ」である。驚きを示すときや、不本意なときに使う。
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「やづ」って?
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そもそも代名詞なのか、これ?
新たな疑問が出てきて、休憩にならなかった。こっちは、何度も使ってきた表現だか
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ら、大丈夫だろう。
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「んだ」。
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意味は、テレビ方言でも使われるから知っているであろう。「そうだ」というものだ。
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あれ。
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「だ」はともかく、この「ん」って何だ。
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『角川新版古語辞典(1989・角川書店)』で「ん」を引くと4語載っているが、どれも
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「む」が変化したものである。しかし、「むだ」なんて表現は、秋田に限らず聞いたこ
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とがない。ジャコウネスミでもあるまいし、この線はあるまい。
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『日本語大辞典(1990・講談社)』では、「のだ」の変化したものとして挙げている。
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確かに、「のだ」は断定の意味があるから、その面では問題ないが、「のだ」だけを
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使うか? 「ケリをつける」のように、昔は「のだ」だけで使ったりしたのだろうか。
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「そうだ」が「そんだ」になり、「そ」が脱落したのか? これもちょっと無理を感じる。
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秋田弁を離れると、「んで」という単語がある。会話でしか使われないが、これは、
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接続詞の「で」に「ん」がついたものだと思う。断定の「だ」に音を整えるために「ん」が
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ついたのか?
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わかりません。
代名詞をさらっとやるつもりが、何故か、疑問のオンパレードになってしまった。
なんだりかんだり(11KB)
行がづが(15KB)
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