Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第29夜

こそあど



 最近、文法用語が飛び交っているようだが、そこはまぁ、言語のことについてしゃべる場なのであきらめてもらいたい。
 今日は指示代名詞。
 何かを指し示すときに使う言葉だ。近称とか遠称とか不定称とか呼び分けたりもする。
 大雑把な例で言えば、「これ」「それ」「あれ」の順番に遠くなる。「どれ」に至ってはどこにあるのやらわからないのだから、無限遠か。
 ごく一部にしか残っていないけれども、実は「か」なんてのもあるのだ。落語じゃないけれども、「山の彼方の空遠く」という有名なフレーズ。これは、今では「かなた」と読むが、昔は「あなた」であった。
 字をみればすぐ思い出すだろうけども、第三者は「彼」か「彼女」。「あっち側」ということで「彼岸」なんて言ったりもする。
 ま、そんなような単語の話だ。

 まずは「あれ」系。
 近い順に「こい」「そい」「あい」「どい」。
こえそえあえどえ」「これそれあれどれ」とも言う。
 別に何の変哲もない訛りのようだ。
A「どいに する?
B「こいで いんでね
A「そいだば 駄目だ
 に、「ある」が人に対しても使われるという話をしたけれども、「あいあえあれ」も第三者を指す言葉として使われる。陰口をたたくときに多いような気がする。
「彼」→「あれ」の変化が、「かなた」と「あなた」との関係と絡めていけるかと思ったりもする。
 でもまぁ、うーむ、標準語でも使うか…。

 大きく変わるのが「あれくらい」系。
こんけ」「そんけ」「あんけ」「どんけ
なに、どんけ貰ってくるがど思ったったけ、そんけばっかりが (おや、どれくらい貰ってくるかと思ってたら、それっぽっちか)」
 とは言っても「くらい」が必ずしも「け」になるわけではない。「バケツの水が凍ってしまうくらい寒い」を「*バケツの水が凍るっけさび」とは言わない。

 最後に「あんな」系。
こんた」「そんた」「あんた」「どんた」。
「な」が「た」に変化している。
 これまた最近、「様な」が「いんた」であるという例を挙げたが、関連性がありそうでなさそうで。こっちの方は「いん」の正体がわからないとなんとも言えないが。
A「』…ってこんたごどまで 言わいでやー
B「なに、そんたこどまでが
A「まさが、あんたごど 言うどは 思わねがっだ
C「なに、あいだば 人どご馬鹿にするどって なんたごどでも 言う
(いやぁ、あの人は、人を馬鹿にしようとして、どんなことでも言うよ)」
 おっと、最後のは新出単語。

 原則的には「こそあど」はきれいに対応するのだが、「どんな」には「なんた」も使うことができる。
いっぺ あるども なんとす(沢山あるけどどうする)?」
あー、なんたなでも いい(えー、どんなのでもいい)」
 ところが「どれ」に相当する「*なれ」とか「どれくらい」の「*なんけ」なんて単語はないのである。「どんな」に対して「なんた」、「どう」に対して「なんと」が存在するだけである。
なんた」が「何た」ではないかと想像するのは簡単だけれども、この数例しかないとすると、ちょっと断定は危険だろう。


 最後に 5W2H。
when いづ 
where どご 
who だれだれだい 
what なに 
why なして 
how なんとして 
how much なぼなんぼ 
なんと して」は「どう やって」と対応すると考えれば特に不思議はあるまい。
なぼなんぼ」は、別に秋田に限った表現ではないが、「いくら」に相当する。
「いくらなんでも」は「なぼなんでも」となる。
 この辺にも「ど」と「な」の対応が見られる。「なんた」はこっちの系列の単語なのかもしれない。

 この話も回を重ねるに連れて、わからないのが増えてきた。
 近県の例があるといいのだが…。
 なかなかに難しいものではある。





音声サンプル(.WAV)

どいに する?(13KB)
こいで いんでね(14KB)
そいだば 駄目だ(15KB)
なに、どんけ貰ってくるがど思ったったけ、そんけばっかりが(38KB)
…ってこんたごどまで 言わいでやー(31KB)
なに、そんたこどまでが(19KB)
まさが、あんたごど 言うどは 思わねがっだ(27KB)
なに、あいだば 人どご馬鹿にするどって なんたごどでも 言う(36KB)
いっぺ あるども なんとす(21KB)
あー、なんたなでも いい(20KB)



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