Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第78夜

名詞の色々




 方言―というよりは、今回は単語の話なので俚言というべきなのかもしれないが―と
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言っても、出自は色々とある。
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 今回は、その色々を、名詞を取り上げながら見ていこうと思う。


 まずは、そのモノ自体が、特定の地域にしか無い場合。
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 以前、「浜梨(はまなす)」の例を取り上げたが、存在する場所が限られているために、
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その地域での呼び名が全国に通用するようになった、というパターンである。
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 方言から離れるなら、外来語を考えればわかりやすいだろう。モノと一緒に名前が入っ
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てくるわけである。
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 すると、雪で作ったお堂の中で甘酒を飲む、というあの「かまくら」も方言だということ
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になる。あるいは、弘前の「ねぷた」、青森の「ねぶた」もそうだろう。尤も、これは「眠い」
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の転訛であると考えられているので、俚言の逆輸入とでも言えるだろうか。


 次はモノは至る所にあるが、場所によって呼び名がちがう、というもの。
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 以下は、聞いた話で裏も取ってないのだが、河辺町の戸島(としま)という集落で使わ
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れていたらしい表現。
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もだら たわし
へそべ 釜についたお焦げ
けんえんこーでしっち じゃんけんの掛け声

 俺には分析不可能である。
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 このパターンには、もとは中央から入ってきたのだが、音が変化してしまった語も含む
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と考えていいだろう。
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 既出単語から拾うと、
きみ ←きび とうもろこし
えんこ ←いぬこ(ろ?) 
じゃご ←在郷 田舎

 などがある。
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 もう一つの下位分類は、モノはあるにはあるが、他の地域では複合語で表現され、一
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単語としては存在しない物

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 に、英独仏語では「あさって」「おととい」という単語がないという話を紹介したが、そ
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ういう奴である。秋田弁では、「塩鮭の切り身」を指す「ぼだ(っこ)」がある。


 次が、中央の表現が変化してしまったために、他の地域で使われている表現と違って
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しまった
ケース。
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 方言弁護の根拠となる、由緒ある、歴史豊かな表現が残っている、というあれである。
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 既出単語では、
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とじぇね ←徒然(とぜん)ない 寂しい
ばっち ←末子(まっし) 末っ子
こえ ←筋肉が「強ばっている」様 疲れた

 で、これは非常に稀なケースで、実は方言と言い切っちゃっていいものかどうかちょい
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と自信がないのだが、中央の表現は変わってしまったが、元の表現が消滅していない
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というケースである。
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 まずは、「背嚢」を挙げてみる。ま、文字どおり背負う袋である。年配の人は、子供の
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ランドセルを指して「はいのう」と呼ぶことがあるそうだ。
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 これは、世代差とも言えるし、どっちかっつーと誤用臭いので、もう一つの例を挙げる
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が、それは「汽車」である。
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 実は、都会を除くと、「汽車」という言葉は意外に生きている。意味はもちろん「蒸気機
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関車」ではなく、「鉄道」「JRの列車」と変化してはいるが。秋田に限らず、全国的な傾
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向である。
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 背景には、電化が都会で先に進んだため蒸気機関車がかなり後まで使われていたこ
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と、私鉄がほとんどないため汽車イコール国鉄であったことなどが考えられる。
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 更に、前者のようなことがあったため、「電車」というと数分に1本のペースで運行され
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るもの、というイメージができてしまい、1時間に1本あるかないかというものを「電車」
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とは呼びにくい
、という事情も後押ししていると思われる。


 そんなこんなで、とりあえず3つのパターンを考えてみた。もっと深く突っ込めばもっと
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出てくると思うのだが、まずはここまでにしておく。
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 念のために言うと、全国的には、「電車」が通用する地域の方が少数派である。都会
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の方は勘違いしないで欲しい。



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第79夜「代名詞再び」

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