Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第28夜

時は種なり



「夜」のことを「よさり」「よさる」という地域が、日本海側を中心に、かなり広範囲に広がっている。*1
 この「さる」も古語辞典に載っている。*2
 時間について使うと「〜が来る」「〜になる」という意味になるのである。短歌か何かで「夕されば」というようなフレーズを聞いたことがある人もいるだろう。

 一夜明ければ「あした」。
 その翌日が「あさって」。
 では、その次は?
 辞書を見てみよう。
 しあさって やのあさって
広辞林 第5版 あさっての翌日。 1.あさっての次の日。しあさって。
2.(東京では)しあさっての次の日。
日本語大辞典 初版 あさっての次の日。 あさっての次の日。やなあさって。
[参考]東京では、しあさっての次の日
大辞林 初版 1.あさっての翌日
2.(東京の一部、関東甲信越で)あさっての翌々日 
1.あさっての翌日。
2.あさっての翌々日。東京の一部で言う。
 おやおや
 まぁ、「しあさって」はいい。概ね、3 日後を指している。
「やのあさって」が問題。どうやら、「しあさって」と同じ意味だ、と言っているらしい。
その上で、「東京周辺では『しあさっての翌日』」としている。
 これは困った。

 『日本の方言地図(中公新書 徳川宗賢編)』を見てみよう。
 地図がある。
 新潟−長野北部−山梨−静岡東部の線より北は「やのあさって」、富山−石川−福井−滋賀−奈良−和歌山よりも西は「しあさって」となっている。
 つまり、「4 日後」は、関東では「やのあさって」なのである。
 しかし、どういう訳か東京の東部だけが「しあさって」なのだ。
 詳しい解説は本文に当たってもらうとして、「ごあさって.」というのは、「しあさって」の「し」を「4」と解釈して、その次だから「5あさって」なのだろう、とか、「ここのさって.」は「やのあさって」の「や」を「8」と見たのだろう、とか、なかなかに面白い。

 ちょっと足を伸ばして、外国語を見てみよう。
 おととい 昨日 今日 明日 あさって 
フランス語 avant-hier hier aujourd'hui demain apres-demain 
ドイツ語  gestern heute morgen uebermorgen 
 これだけでは、「ふぅん」で終わるかもしれないので、英語で考えてみよう。
 英語で「あさって」をなんというか。
 "the day after tomorrow" である。つまり、「明日の次の日」であって、「あさって」に相当する単語が無い。「おととい」も同様で、"the day before yesterday"。見れば、フランス語もドイツ語も似た様なものではないか。
 いやはや「やのあさって」どころか、単語としては昨日・今日・明日しかないのである。
考えてみれば、英語には「来年」「去年」という単語もない。「前の年」「次の年」だ。
 この感覚の違いというのは、驚くべきものであると思う。*3
 多分、1 単語を形成するほどの重要性や使用頻度があるかどうかが問題になるのであろう。「あさって」あたりがその線上すれすれなのではないだろうか。

 日本語だって、「あさって」までは全国的に通用するが、その次となると心もとない
 そもそも、1 単語でなければならない理由などないのだから、実は、それほど大騒ぎするような話でもない。「4 日後」「来週の月曜日」「23 日」、言い方はいくらでもある。世界の切り分け方が違うだけのことだ。

 それにしても、4 日目以降の約束をする場合、相手が同郷の出身者でなかったら、一応は確認するべきだろう。飲み会のスケジュールくらいならともかく、仕事の契約が絡んでいたり、大事なデートで1日違いなんてのは泣いても泣ききれないではないか。




注1:
 
@nifty の<全国ふるさと交流フォーラム>、「全国云いたい方言集」会議室で得た情報である。()

注2:
『角川新版古語辞典』 角川書店、1989(
)

注3:
 ドイツ語で "heute nacht(今日の夜)" と言ったら、本当に「今日の夜」を指す。つまり「深夜から今朝まで」か「今夜」のどちらをも意味することが出来る。
前夜の「ゆうべ」の話題を参照。()



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