Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第76夜
hole in one
間投詞の話題は以前も取り上げた。今回は、その続編。
「さっさ」
.
化学雑巾のことではない。間投詞である。
.
前回、「さい!」というのを挙げたけれども、その穏やかなものとでも言えるか。標準
.
語で置き換えられる単語で言えば「あらあら」とか「おやおや」という感じである。
.
ただし、「さっさ」は、自分のやった失敗に対して使う。あまり他人の行為については
.
使えない。
.
また、緊急度も低い。苦笑いしながら言う感じである。
.
「さっささっさ」と2度続けて使うことが多い。
「はいった!」
.
これは、驚くべき事態が突如、発生したときに使う。
.
字面に騙されては駄目で、何かがどこかに入ることに限らず、広く使える。また、その
.
事件を目の当たりにしていなくてもよく、人づてに聞いただけでもいい。
.
「さい!」とは違い、自分の行為には使えない。
「おやーしかだね」
.
肝は「しかだね」の方で、前半はなんでもいい。「あいーしかだね」とも言える。
.
「しかだね」は「しかたない」「しょうがない」の意味である。ビートたけしがよく「なんだか
.
しょうがねぇなぁ、もう」と言うが、ああいうのを想像してもらえればよい。驚くというよりは、
.
呆れるという方が近い。
.
ただし、この「しがだね」は喜ぶべき事態でも使われる事が多い。
「隣の太郎君、高校さ合格したんだど」
.
「あいー、しかだね」
めでたいんだから「しかだね」も無いもんだが。「はいった!」と同じように、元々の
.
意味が失われているのである。
.
「しかだね」について言えば、また完全に失われたわけではないので、上のようなケー
.
スでは、「さい、『しかだね』だってが(おや、「しょうがない」なんて言ってしまった)」と、
.
苦笑する場面が続く。
.
これも、他人の行為について言う。
標準語の「しまった!」も同様である。別に何かが閉まったり、何かを仕舞ったりした
.
わけではないが、自分の失敗に気づいたときに、「さい!」と同じように使う。その辺が
.
間投詞の間投詞たる由縁といえようか。
「なした!」
.
これは、「さい!」や「はいった!」に対する応答である。
.
まぁ、「何した」とでも書くのだろうか。
.
これだけだと、どこが方言?と思う人もあるかもしれない。
.
こういうケースでは、標準語では「どうした!」と言うのである。
.
秋田弁の「こそあど」については、既に取り上げたが、ここでも標準語とのずれが
.
見える。
.
「あの件はその後どうなった?」と聞くときには「なんとなった?」という。本来なら
.
「どう」と「なんと」が対応するわけだが、この緊急事態においては、「なんとした」より
.
は「なした!」が出てくる。別に、急ぎだから短縮したわけではあるまい。
.
どっちかというと、「どうした」の方が不自然な気もするのだが。そもそも主語も目的
.
語もないしな。
この辺になると、意味よりニュアンスが問題になってくる。気持ち、鉤括弧が少なめで
.
ある。
.
外国語を習うとき、寝言が出るようになったら一人前、とか言う。あるいは、ケンカで
.
きるようになったら、とも。つまり、無意識に使えるかどうか、という尺度である。
.
秋田弁でも、この辺の間投詞が使えるようになれば、立派なネイティブと言えるだろう。
"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る
第77夜「こまくさ」へ
shuno@sam.hi-ho.ne.jp