暮れに放送していた NHK の地域発ドラマを取り上げる。以下の三本。
山形放送局:
私の青おに
岐阜放送局:
ガッタンガッタン、それでもゴー
福岡放送局:
いとの森の家
札幌放送局の「
農業女子 はらぺ娘」もあったのだが、録画予約を忘れてしまった。残念。
先に言っておくと、どれも方言濃度は低い。だから、三本も見てるのに、この文章は一本しかない。
最初に見たのが山形の「私の青おに」で、俺が聞きなれてる言葉だからそう感じるのかなぁ、と思ったが、大方言でテレビやなんかで耳にする福岡はまだしも、岐阜のやつでもほとんど「おっ」と思わなかったから、多分、本当に低濃度なんだと思う。
作る側が方言で地域性を出そうとしたり、見る方がそれで地域を感じる、っていう時代はもう終わったのかもしれないね。一昨年の秋田放送局の奴なんか方言皆無だったし。
てことで、軽めに。
山形放送局:私の青おに (置賜ことば指導:近野恵美子)
舞台は
高畠町。
特徴的なのは「
ちゃ」。なんと言うか、「チャ音便」とでも言えばいいのだろうか。
「別れて」が「
別っちぇ」、「頼まれたんだけど」が「
頼まっちゃんだけんど」になる。
他の用例も考え合わせると、「れ」+タ行が、促音+チャ行になるのかな。「
生まっちゃ場所」は「生まれた場所」、「
疲っちゃんが」は「疲れたのか」。
この「チャ行」を聞くと、山形や宮城辺りの言葉だな、って感じがする。
で、「
おしょうしな (ありがとう)」があって、山形だ、と確定するわけね。
山形が生んだイケメン俳優、眞島秀和は今回、方言指導ではない。
岐阜放送局:ガッタンガッタン、それでもゴー(飛騨ことば指導:
清水由美)
舞台は多分、
飛騨市。
これはラ行音。
「
働いとるら」「
すごいろ」あたりが、中部地方っぽさを出す。
あと、敬語の「
みえる」。「
仕事はしてみえたんでしょう?」というのは「仕事はしてらっしゃったんでしょう?」ということ。「気づかない方言」の一つである。
「
まった」もそうかもしれない。「しまった」の「し」が落ちる。「
やめてまって」「
廃線になってまって」「持ってきてまったの」というのが拾えた。
意外だったのが、語尾の「
さー」。「
送っていくさー」という表現があって、沖縄か、と思った。
福岡放送局:いとの森の家(福岡ことば指導:
坪内陽子)
これが一番、ご当地色が薄いような気がする。
「ような気がする」と逃げるのは、舞台は福岡市の隣の
糸島市なのだが、俺が気づかない何らかの特徴があって、福岡の人はこれを聞いて「あぁ、糸島っぽい」とか思ったりするのかもしれないから。でも、指導役の人の肩書が「福岡ことば指導」なんだよね。あるいは、ジェネリックな「福岡弁」なのかもしれない。
「
背中押してみり」の「
みり」なんかはそれっぽい。「
そんなハンカチや、あの人、どっから持ってくるか知っとると?」の「
や」もそうだね。
このドラマで一番気になったのは、35 年前の回想シーン。
習字のシーンで、赤い墨で添削する時に、先生が書き出しの位置について「
低いところからはじめてあげて」と言っている。この、「誰のために?」と聞きたくなる、「
あげる」を単なる丁寧語とする用法は 35 年前にはなかったと思う。「いや、福岡ではあった」ということならひっこめるけど。脚本にあったのか、それとも現場処理なのか。「始めて上げて (上に向けて書いて)」ではなかったと思う。
ドラマとしては、「青おに」が一番まとまってたような気がする。「それでもゴー」は、主人公一家の前史がないのでこっちの努力が必要。「森の家」は、第二次大戦に端を発しているのでシンプルな話ではないのだが、90 分はちとだれる。
どれも、子役が頑張ってたと思う。
「青おに」は高校生だから「子役」という言い方は間違いか。
金井美樹が大人の演技。夏目文香の高校生時代を演じていた
上白石萌歌が、絶対にどっかで見た、と思いながら最後まで思い出せなかった。東宝シンデレラで東宝シネマズの宣伝に出てたんだった。
「それでもゴー」で、仮奈の子供時代を演じた
内田未来は「梅ちゃん先生」で梅子の少女時代をやった子。
「森の家」の
濱田ここねは『おしん』の子、
戸高花暖は『神話の国の子どもたち』の子。どっちの映画も見てないけど。
配役で言えば、どれにも近頃話題のイケメンが出てて笑った。
中島歩と
町田啓太はどちらも「花子とアン」OB、
中村蒼は「八重の桜」。
地域おこしの話ではよく「若者、よそ者、馬鹿者」ということが言われる。そういう人が地域を変えていく、ということだが、「それでもゴー」の人物配置はそれにぴったりはまっている。
松尾スズキが可笑しくてたまらんかった。
奇しくも、見損なった札幌放送局のも含め、すべて女性が主人公である。Wikipedia に
記事があるが、「主な作品一覧」であって網羅はしていない。この範囲では、特に女性に偏ってる、ってことはないようなのだが、少なくとも、これまでここで話題にした
地域発ドラマはすべて女性が主人公だし、その一覧で去年製作されたとされている四本はすべてそうである。
ひょっとしたら、女性が主人公であることが、方言濃度が低い理由の一つだったりするのかもしれないね。
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