Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第998夜

青おにの森の家にガッタンゴー



 暮れに放送していた NHK の地域発ドラマを取り上げる。以下の三本。
山形放送局私の青おに
岐阜放送局ガッタンガッタン、それでもゴー
福岡放送局いとの森の家
 札幌放送局の「農業女子 はらぺ娘」もあったのだが、録画予約を忘れてしまった。残念。

 先に言っておくと、どれも方言濃度は低い。だから、三本も見てるのに、この文章は一本しかない。
 最初に見たのが山形の「私の青おに」で、俺が聞きなれてる言葉だからそう感じるのかなぁ、と思ったが、大方言でテレビやなんかで耳にする福岡はまだしも、岐阜のやつでもほとんど「おっ」と思わなかったから、多分、本当に低濃度なんだと思う。
 作る側が方言で地域性を出そうとしたり、見る方がそれで地域を感じる、っていう時代はもう終わったのかもしれないね。一昨年の秋田放送局の奴なんか方言皆無だったし。
 てことで、軽めに。

山形放送局:私の青おに (置賜ことば指導:近野恵美子)
 舞台は高畠町
 特徴的なのは「ちゃ」。なんと言うか、「チャ音便」とでも言えばいいのだろうか。
「別れて」が「別っちぇ」、「頼まれたんだけど」が「頼まっちゃんだけんど」になる。
 他の用例も考え合わせると、「れ」+タ行が、促音+チャ行になるのかな。「生まっちゃ場所」は「生まれた場所」、「疲っちゃんが」は「疲れたのか」。
 この「チャ行」を聞くと、山形や宮城辺りの言葉だな、って感じがする。
 で、「おしょうしな (ありがとう)」があって、山形だ、と確定するわけね。
 山形が生んだイケメン俳優、眞島秀和は今回、方言指導ではない。

岐阜放送局:ガッタンガッタン、それでもゴー(飛騨ことば指導:清水由美
 舞台は多分、飛騨市
 これはラ行音。
働いとるら」「すごいろ」あたりが、中部地方っぽさを出す。
 あと、敬語の「みえる」。「仕事はしてみえたんでしょう?」というのは「仕事はしてらっしゃったんでしょう?」ということ。「気づかない方言」の一つである。
まった」もそうかもしれない。「しまった」の「し」が落ちる。「やめてまって」「廃線になってまって」「持ってきてまったの」というのが拾えた。
 意外だったのが、語尾の「さー」。「送っていくさー」という表現があって、沖縄か、と思った。

福岡放送局:いとの森の家(福岡ことば指導:坪内陽子
 これが一番、ご当地色が薄いような気がする。
「ような気がする」と逃げるのは、舞台は福岡市の隣の糸島市なのだが、俺が気づかない何らかの特徴があって、福岡の人はこれを聞いて「あぁ、糸島っぽい」とか思ったりするのかもしれないから。でも、指導役の人の肩書が「福岡ことば指導」なんだよね。あるいは、ジェネリックな「福岡弁」なのかもしれない。
背中押してみり」の「みり」なんかはそれっぽい。「そんなハンカチや、あの人、どっから持ってくるか知っとると?」の「」もそうだね。
 このドラマで一番気になったのは、35 年前の回想シーン。
 習字のシーンで、赤い墨で添削する時に、先生が書き出しの位置について「低いところからはじめてあげて」と言っている。この、「誰のために?」と聞きたくなる、「あげる」を単なる丁寧語とする用法は 35 年前にはなかったと思う。「いや、福岡ではあった」ということならひっこめるけど。脚本にあったのか、それとも現場処理なのか。「始めて上げて (上に向けて書いて)」ではなかったと思う。

 ドラマとしては、「青おに」が一番まとまってたような気がする。「それでもゴー」は、主人公一家の前史がないのでこっちの努力が必要。「森の家」は、第二次大戦に端を発しているのでシンプルな話ではないのだが、90 分はちとだれる。
 どれも、子役が頑張ってたと思う。
「青おに」は高校生だから「子役」という言い方は間違いか。金井美樹が大人の演技。夏目文香の高校生時代を演じていた上白石萌歌が、絶対にどっかで見た、と思いながら最後まで思い出せなかった。東宝シンデレラで東宝シネマズの宣伝に出てたんだった。
「それでもゴー」で、仮奈の子供時代を演じた内田未来は「梅ちゃん先生」で梅子の少女時代をやった子。
「森の家」の濱田ここねは『おしん』の子、戸高花暖は『神話の国の子どもたち』の子。どっちの映画も見てないけど。
 配役で言えば、どれにも近頃話題のイケメンが出てて笑った。中島歩町田啓太はどちらも「花子とアン」OB、中村蒼は「八重の桜」。

 地域おこしの話ではよく「若者、よそ者、馬鹿者」ということが言われる。そういう人が地域を変えていく、ということだが、「それでもゴー」の人物配置はそれにぴったりはまっている。松尾スズキが可笑しくてたまらんかった。

 奇しくも、見損なった札幌放送局のも含め、すべて女性が主人公である。Wikipedia に記事があるが、「主な作品一覧」であって網羅はしていない。この範囲では、特に女性に偏ってる、ってことはないようなのだが、少なくとも、これまでここで話題にした地域発ドラマはすべて女性が主人公だし、その一覧で去年製作されたとされている四本はすべてそうである。
 ひょっとしたら、女性が主人公であることが、方言濃度が低い理由の一つだったりするのかもしれないね。



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