Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第721夜

農ドル!



 NHK 山形放送局が製作した「スキップ」ってドラマを紹介したことがあるが、今回のもそれと同じ。NHK 松江放送局によるドラマ「農ドル!」。
 東京で CM やラジオ番組を持ったりするほど活躍していたアイドル Rio2 こと荒木理央が、田舎をバカにした失言で休業を余儀なくされ、奥出雲の自分の家に帰ってきて畑仕事をしている。表向きは、自然と向き合って反省します、というところなのだが、本人は田舎でくすぶっているのが嫌でしょうがなく、早く復帰したいとマネージャーをせっついている。
 そこに高校生のときの同級生がやってきて、一緒に農業サークルをやろう、と持ちかけて、という話。

「スキップ」のときもそうだったが、島根の言葉はまったくわからないので、あのドラマの方言がどういう加減で扱われているのかは不明。ただ、見てて全く支障なかったので、相当に薄味になっていたのではないかという気はする。
 なんて言ってるのか全く解らない、というのは二ヶ所あった。
 売れすぎてしまったトマトをどうするか、というところで直売所に触れたとき。今では、直売所を世話する人もいないとかいうような意味だとは思うんだが。
 もう一つは、近所の人が大変なので手伝いに行く、というシーン。あそこの家ではまだ大事な何かをしていない、ということなのではないかと思ったが、これも不明。

 出雲の方言の特徴として、ラ行の音が変化することがあるそうである。
『都道府県別 全国方言小辞典(三省堂)』では「ラ行音の長音化」、『最新 一目でわかる全国方言一覧辞典(学研)』では「脱落」と言っている。後者は例を挙げていて、「ありました」が「あーました」、「できるよ」が「できーよ」、「昼飯」が「ひーめし」となる、と書いているが、ドラマを見ていて真っ先に気づいたのがそれだった。
「あるんだから」が「あーだけん」、「されている」が「されちょる」、「いられるように」が「いられうように」であった。

「あげなさいよ」が「あげらや」だ、というのにも気づいた。子音の並びは「あげろよ」と似ている。あと、「作らが?」というのもあった。これは「作ろうか」「作るんだ?」のどっちだろう。

ごせ」も特徴的な語尾だろうか。「〜ください」に相当するもので、ドラマでは「守ってごせ」という表現が使われていた。

行かと思う」もあった。「行こうと思う」だが、この未然形も出雲方言 (Wikipedia によれば「雲伯方言」) の特徴らしい。
「大変だろうけど」が「大変だらけど」だったが、同じだろうか。

 主人公の友人は「錦織」と書いて「にしこおり」という姓。
「にしごり」という読み方があるのは知っていたが、「にしこおり」というのは初めて聞いたので、ちょっとググってみたら、映画監督の錦織良成氏、声楽家の錦織健氏、陸上の錦織育子氏などはみな島根出身の「にしこおり」さん。ほかにも、「にしこおり」さんを探すと島根出身者が多い。
 テニスの錦織圭氏も島根出身だが、こちらは「にしこり」。

 ドラマの錦織青年には彼女がいる。島根の大学で知り合った女性で、今は大阪の実家で酒屋を手伝っている。その子が遊びに来るのだが、当然、大阪弁である。

 理央は、捨てるしかない規格外の野菜をネットなどを使って直売することを考える。それが好評を博したことで、次第に農業が面白くなってくる。もっと若い人に関心を持って欲しいと思い、自分のネームバリューを使ってイベントを開こうと考える。そのときの台詞が「イベントやってみん?」で、この辺りから次第に標準語から離れてくる。
 やがて、復帰のチャンスがある、と電話してきてたマネージャーにも方言交じりで話すようになる。「(復帰すると) 島根にはおられん?」などと聞いてしまい、復帰するんだったら訛りは直してアイドルモードに戻れと言われてしまう。

「スキップ」のときもそうだったが、やはりこういうドラマの場合、東京で故郷のために頑張ります、とはならないわけで、今回も理央は事務所には籍を置いたまま島根で「農ドル」として活動を始め、少しずつ成果が上がってきた、ということろでお話は終わる。
 まぁ、もうちょっと長い枠で主人公が二人とかだったら、一人は地元、一人は東京で、とかいう持ってき方もできるのかもしれないけど。

 今回は上手い具合に新聞の週間テレビ欄を見て放送に気づき、忘れずに録画予約もできた。いや、休日だからリアルタイムで見たけど。
「スキップ」はすっかり忘れていて、二度目の再放送を半分だけ見た、という有様だったが、実は去年の暮にまた放送されていたのだった。正月休みに突入していて朝起きるのが遅かったから、これも見逃した。
 今の HDD レコーダーにはキーワードを登録しておくとよきにはからってくれる機能があるらしいのだが、どこまで信用できるのかわからないので使っていない。「方言」で登録したら何が引っかかるんだろうね。HDD に空きができたら試してみたい。




"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第722夜「おはよう靴下」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp