Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第975夜

秋田あるある



 TO ブックスの地域あるあるシリーズに借りた文章の三本目は秋田 (秋田の魅力をお伝えしますの会 監修、亀谷哲弘著)。
 宮崎青森に比べて方言に触れた記事が少ない。頑張ります。

あるべ」「みるべ
〜べ」は秋田弁でよく出て来る語尾。「〜べし」の変化したもので、推測または勧誘の意味を持つ。
あるべ」は推測の方で、「あるだろう」。ニュアンス的には割と高確率というか、言ってる本人が確信してる感じ。自信がない場合は使いにくいような気がする。その場合は「あるんでね」とかになると思う。県北部では「あるびょん」というような言い方がある。
みるべ」の方は勧誘で「見ましょう」。もちろん、前後関係によっては「見るでしょう」と推測になることもあるが。
 で、この単語はどっちも施設の名前。
ALVE”は、秋田駅東口にある複合施設で、ホール・役所の窓口・映画館・ホテル・レストラン・オフィスなどが入っている。「ここに行けば何か楽しいことがあるだろう」というのがネーミングの由来。あと、秋田と言えば竿灯で、これは七夕の行事なので、牽牛と織女、つまり「アルタイル」と「ベガ」の頭を取った、というのも重なっている。に、仙台ベガルタと同じ発想、って書いたような気がする。
ミルヴェ」の方は、秋田市南西部の大森山にある動物園の愛称。小学校の遠足以来行ってないが (大森山自体は自転車で登ることがある)、夏場の夜の開園、本来は閉鎖期間である冬の特別開園など、色々と営業努力している模様。
 なお、青森の木造 (きづくり) に「街の駅 あるびょん」という施設があるらしい。おそらく発想は「あるべ」と一緒。

でかす
「完成させる」
「気づかない方言」とまでは言わないが、割と口をついて出てしまう表現。自動詞形が「できる」、他動詞形が「でかす」と考えればすっきり説明がつく。
 仕事の打ち合わせを標準語ベースでやっていても、「じゃぁ、この作業は、この日までにでかしておかないとまずいですね」なんて言ってしまうし、それで特段、誰も「え?」とは言わない。
でがす」とも。

おれ」「おら
 一人称。
 女性も使うので要注意。
 まぁ、さすがに若い女性はあまり使わないが。

 ここから、別に秋田に限らない、という表現。
ズック
 本来は素材を示す語で「ズック靴」というのが正しい。そこから意味が広がって、簡易的な履物全般を指すのじゃないかな。固定するための甲の部品がゴムでなく紐になってるのを「紐ズック」なんて言ったりするが、あれは本来「スニーカー」だと思われる。

なげる
 ごみを捨てること。有名すぎるか。

○時電
 列車は首都圏のような頻度では運行されていないので、「○時のやつ」と言えば通じることが多い。そこから生まれた表現だと思うが、試しに「五時電」でググったら地域性は見当たらなかった。そりゃそうだろう、って気がする。
 そもそも「電車」じゃないだろう、ということは宮崎編でも書いた。

 学校の授業の枠を「○時限」と言う、と書いてるのだが、どうなんだろう。
 俺の時代は「○時間目」だったぞ。尤も、30 年以上経ってるけども。

 響きがフランス語に似ている、というのは青森編でもあった。

 一旦、方言を離れる。

 校歌に、鳥海山、太平山、雄物川のいずれかが入っている、というのはネタとして笑わせてもらった。
 まぁ、あくまでもネタである。仙北の学校で鳥海山は出てこないだろうし、県南で太平山もないだろうし、県北なら雄物川より米代川だろう。
 俺の場合、ずっと秋田市だったので、小中高をたどると、矢留城 (今の千秋公園)、旭川、大平山である。
 あ、高校の応援歌に鳥海山が出てくるわ。

 ご当地料理だが、「どんが汁」も「ばったら焼き」も聞いたことがない。
 そうそう、田舎ではなんでも砂糖って話が時々あって、秋田では納豆に砂糖をかける、というようなことも時々聞く。聞いただけで甘そうで、俺はきっと食べられないと思うのだが、宮崎もなかなか厳しい。
 砂糖をかけるのではないのだが、そもそも醤油が甘目である。食い物に頓着しないたちなので、それでも割と平気なのだが、甘さを追及した「あまかたれ」というのが納豆に付属していることがある。さすがにこれはツラい。申し訳ないと思いつつ捨てて、普通の醤油をかけている。

 方言に戻る。
あべ」を取り上げている記事がある。「〜べ」は上でもふれたが、ここでは勧誘。
 未だに「これだ!」という説明を見つけていないのだが、とりあえず「歩むべし」で「行きましょう」だろうとしておく。
 が、この本では「一緒に歩こう」という説明をつけている。それは違うだろうと思う。「あべ」で移動方法を指定していると考えている人はいないんじゃないか。「あべ」と言ったら、自転車でもバスでも飛行機でも問題ないはずだ。
 同じ記事が、「ばし (嘘)」を「嘘ばっかり」と説明している。これも違う。同じ「ばし」で「〜ばっかり」という語があるのだが、それに引きずられているのではないか。「嘘ばっかり」となるのは「ばしばし」のときである。

 という具合に、間違いが多いのが秋田編の特徴。
 次回、この辺を掘り下げてみる。

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