さて、
TO ブックスの地域あるあるシリーズに借りた文章の二本目、今回は
青森 (長内三八郎著)。
このシリーズは、「あるある」という名前で想像できるように、小ネタが羅列されているのだが、青森編の特徴は、同じネタが何回も出てくること。
たとえば、八戸の三社大祭が二度出てくるのは郷土愛の発露と考えられるのだが、切り口や表現を変えつつも、映画にもなった「わさお」の話と、青森にはフジテレビ系列局がない、という話がそれぞれ三回、出てくる。後者のうちの二回は「笑っていいとも!」が見られなかったことである。
青森は大きく津軽と南部に別れ、微妙な関係にあるのだが、著者の長内氏はそのハーフらしく、うまくやろうぜ、という姿勢も垣間見える。だったら書くことはたくさんありそうなものだが。
というわけでまずは方言について。
「
新聞についでだ」
「新聞に掲載されていた」ということ。あー、昔、言ってたような気がする。
同じくメディア関係で動詞が標準語と違うのに、「
テレビが入る」というのがある。主語は、局であったり、番組名であったりする。秋田でも言うような気がする。
「
めわぐだの」
漢字で書くと「迷惑だの」。苦情を申し立てているのではなく、お礼もしくは謝罪の言葉。自分が恩恵を施してもらったことについて、「あなたにとって迷惑なことでしょう」「ご迷惑をおかけしました」と言っているわけ。
「
めやぐだの」という言い方もする。
この表現ついては以前、
しゃべる自販機について触れたときに紹介している。
さすがにお隣だけあって、秋田と同じまたはそっくりな表現がいくつもある。
「
まっこ」「
やせうま」は子供にあげるお小遣いもしくはお年玉。『秋田のことば (秋田県教育委員会編、
無明舎出版)』は、穴の開いた銭を藁に通して馬の形にしたことから、などとしているが、同じらしい。
「〜だから」という意味の「
すけ」は関西弁の「
〜さかい」の変形で、北前船で伝わったものとされている。秋田では「
〜はげ」などという形もあり、使う相手を選ぶ。
「
ゴミを投げる」「
手袋を履く」は秋田はもちろん、北海道あたりでも使う。
「
どさ」「
ゆさ」や、「
け」「
く」、「
しゃべれば しゃべったって しゃべらいるし」は有名になりすぎて、ここで取り上げる気になれないが、どれも言葉遊びの内なのかもしれないね、とは思う。「
しゃべれば〜」は明らかにそうだし、「
どさ」「
ゆさ」はそういう会話をする頻度は決して高くないはずであり、さらに最近では「銭湯に行く」ということ自体が少ない。温泉はあるんだろうけど。「
け」「
く」はありそうな感じもする。
むつが生んだスター松山ケンイチが紹介されている。イラストはどうやら「銭ゲバ」らしいのだが、そこに書いてある「
わさあっぱふっでぎた」という言葉の意味がわからない。
「
わさ」は「俺に」、「
ふっでぎた」は「ふってきた」だと思うのだが、「
あっぱ」がわからない。したがって、「
ふっでぎた」が「振」なのか「降」なのかもわからない。女性のことかな、と思ったが、あんまり女性は降ったりしない。「
ふっでぎた」って音も怪しいと思ったりしているのだが、ひょっとしたら「銭ゲバ」を見てないとわからないのかもしれない。
ちょっと物騒な表現があった。
青森と秋田の県民性を dis る表現である。
「津軽の手長」で始まる。「手長」というのは泥棒のことである。人の懐にまで手が届く、とかそんな感じであろう。
次が「南部の人殺し」。おいおい。
秋田については省略してあるのだが、調べてみたら「秋田の火付け」または「秋田の
ほいど」であるらしい。前者は説明の必要あるまいが、後者は「乞食」のことである。
秋田が「
ほいど」の場合、南部が「火付け」になってることもある。
まぁなんつーか、悪意のこもった表現である。どうやら昔から言われてることらしいのだが、あんまりささりたくない感じ。
イントネーションがフランス語っぽい、というのも二度出て来る。
方言ここまで。
「南部の一つ残し」というのがあるのだが、これはこないだ『熊本原人』を取り上げた
ときに紹介した。おそらく、どこでもやってるんだと思う。
上で松山ケンイチに触れたが、青森出身の芸能人云々のところで「女タレント」という表現が出てきてびっくりした。今時、そんな言い方。「女性タレント」の脱字だといいのだが。
“Sing! Sing! Sing!”という素人ののど自慢大会で、佐々木真央という人が優勝したそうなのだが、「美人の○○をおさえ、田舎館村の素朴な」彼女が優勝した、のだそうである。これもなんつーかセクハラすれすれな表現。ちなみにこの人、今年の3月に
プロデビューしている。この本が出たのは去年の暮れなので、情報が間に合わなかったのであろう。
焼きそばバゴーンが、東北と長野でしか売られてないとは知らなかった。
当然、宮崎にもないわけなのだが、最近、インスタントの焼そばを食わなくなってるので気づかなかった。
ある時、食べ終わった辺りで容器を見たらソースの油がはっきり目に入ってきて、「え、こんなに油っこい物を食ってたのか」と思ってしまってから、なんとなく手が伸びなくなっている。
年、ってことなのかもしれないが、自分で炒める生麺のはよくやるのだな。印象の問題ね。
来週は、「秋田あるある」。
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第975夜「秋田あるある」へ
shuno@sam.hi-ho.ne.jp