Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第808夜

またおべんとうの時間 (前)




 前回まで、こばやしたけし氏の『あきたをおしえて!! (くまがい書房)』を紹介してきたが、そこで、俺が買ったときは、ジュンク堂秋田店で『舟を編む』『おべんとうの時間 (2)』に次いで三位、という話をした。
『おべんとうの時間』の最初の奴はにも紹介した。好きなシリーズで、ANA に乗ると「翼の王国」を読むのが楽しみである。だが、ランキングで二位に入る、というのはちょっと意外だった。バカ売れする種類の本じゃないと思ってたんだが。NHK の「サラメシ」効果か?
 で、今回はその『おべんとうの時間 (2)』から。

 最初が秋田で、三種町でじゅんさいを採ってるおばあちゃん。
 集まりで食べ物を分担するとき、「なんばんべっちょお願い」とか言われるそうだ。
 初めて聞く料理だが、秋田ファンドッとコムレシピがある。菊とタクアンとキノコをトウガラシ (南蛮) で味付けした和え物らしい。
 本では、「南蛮入れてベソかくくらい辛い」とあるが、このレシピでは「なんばんを使って、べっちょ(汗)をかくほど辛いので、この名前がついたという説もある」と書いている。
 大意はいいとして、「べっちょ」を「汗」と解説しているのが気になる。『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』にはそういう記述はない。『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』は「べっちょ」自体を立項していない。
 ほかのレシピでは、「あじゃら」の由来が説明になってないし、阿弥陀を「神様」と言ったりしている。
 秋田弁講座のページもあるのだが、「こっちさあべ」を「こっちに来なさい」と訳していたり (「こっちに行こう」である) 、「ぶっとばす」を「どつく」と訳していたりして、ここのサイトの日本語・秋田弁には総じて難があるような気がする。
 レシピに戻るが、「つぶ油」というのが出てくる。これはエゴマの油らしい。前から思ってるんだけど、「エゴマ」って戦隊シリーズの敵役みたいな響きがあるよな。「な」って言われても困るだろうが。
つぶ油」はどうも北東北の例が多いようだが、「じゅうね油」という言い方も岩手や山形で見つかる。この「じゅうね」はエゴマのことで、Wikipedia によれば「十年長生きできるから」らしい。
 暑い日には、「氷水」を飲んで一休みするそうだが、この「氷水」が問題。
 辞書を引くと、「氷の入った水」と「カキ氷」の二通りの意味が出てくるが、どうもウェブでは前者の意味のほうが優勢っていう感じがする。
 また、カキ氷を指す場合、「こおりすい」と言うべきらしい。この単語自体になんか違和感。関西っぽい感じがするのだが。湯桶読みだな。
 俺、子供の頃、「こおりみず」って言ってたような気がするなぁ。
 で、「カキ氷」だと「食べる」がつながると思うんだが、「氷水」の場合、「氷の入った水」であれ「カキ氷」であれ「飲む」じゃないだろうか。最後の字に引きずられてるのか。
 このおばあちゃんの場合、「お菓子食べて、氷水飲んで」とあるので、おそらく水だと思う。

 岩手のバスの運転手さん、子供の頃は、弁当よりも給食の牛乳の方が楽しみだったらしい。
 ケースの中に、一つか二つ、蓋に書いてあるマークの大きい奴があって、それを生徒間で取り合ったとか。いかにも子供らしいエピソード。
 この人、「岩手牛乳」って名前を出してるんだけど、俺、小中学校で出てた牛乳のメーカー、覚えてねぇなぁ。
 ちょっと日本乳業協会で調べてみたが、秋田の会員では、心当たりがない。森永とか明治とかの全国メーカーだったろうか。
 それより、“dairy”って単語を初めて見た。乳業関係の工場を意味し、発音は「デアリ」っぽい。

 東映京都撮影所の人が出てくる。
 こないだ火事があって第一ステージが全焼したが、今後、大丈夫だろうか。
 京都撮影所って言うと時代劇でしょ、と思う人が多いかもしれないが、「おみやさん」「京都地検の女」とあそこで撮影されているテレビシリーズは結構、あるのだ。*1
 弁当、関係ない話題でしたね。

 つか、ここで紙面が尽きた。書いてて本人がビックリした。
 来週につづく。




*1
 ここの表現に留意。
 今や、時代劇は NHK の大河ドラマしかないので、「テレビシリーズ」を「現代劇の」で修飾しなくともよいのである。(
)





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