Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第751夜

おべんとうの時間



 自分の文章をひっくり返してみて解ったのだが、弁当生活は 5 年目くらいになるようだ。経済的には随分と貢献しているはずである。
 今はひょっとしたらもうちょっと安くなってるのかもしれないが、コンビニで買うと 600 円くらいだろうか。それにヨーグルトとかもう一品追加すると 800 円が見えてくる。それが自分で作ると、200 円くらいになる。尤も、俺の弁当はできあいの惣菜を組み合わせたもので、本当に材料と調味料だけ買って一から自分で作ればもっと安く上がるんだろうけど、そんなテクも時間もない。
 実のところ、すっかり定着した残業攻勢でその時間すら勿体無い、というか、面倒くさくなってきているので、弁当やめちゃいたいという誘惑と戦っているところである。
 だが、体に悪い。晩飯は完全に外食になっているのだが、食う時間が遅いせいもあって、明らかに太ってるし。

 ANA の機内誌「翼の王国」で、「おべんとうの時間」という連載がある。
 名前の通り、全国各地の色々な人の弁当の写真を一面にでかでかと載せて、その人のインタビューと一緒に紹介しているもの。
 この連載は好きで、たまに、その文章を読んでいてウルッとしてしまうこともあるくらいなのだが、そういう人は多かったらしく、去年の春に単行本になっている。暮に東京に行ったときに読んだ「翼の王国」にそんなことを書いてあったので、急いで取り寄せた。
 なんで泣けちゃうのかは自分でもよくわからないのだが、おそらく、その人の人生の一部が垣間見えちゃうからじゃないだろうか。基本的にあったかいテイストの連載で、この弁当食ってがんばります、作ってくれたお母さんに感謝してます、という記事が多いんだが、たまに、中々に辛いことがあった、というようなことがサラっと語られていたりする。そういうことがあっても、巨大な弁当の写真を見ると、なんだかほっとしてしまう。

 さて、方言。
 そこはちょっと気になる。
 というのは、それこそ北は北海道から南は九州沖縄まで、という感じで、年配の人も多いのだが、方言があんまり出てこない。標準語に整形してあるのかと思ったが、たまにずっと方言で話している人もいるので、そうでもないのかもしれない。あるいは、わざわざ取材に来たんだから、ってことで話すほうが標準語にしてしまっているのだろうか。
 そんな中からいくつか。

 最初は、佐賀の道路料金所の職員の人。
「今日は早出だけん」で始まるのだが、この「だけん」は別の場所で文頭に来ている。「だから」と交換可能な語らしい。
 24 時間勤務の仕事らしいのだが、仮眠前にカップラーメンを食ってはいかんと思う。人のことは言えんが。

 山形の JA の職員の人は、おにぎりのことを「お」をつけずに「むすび」と言っている。これが方言だとは思わないが、あんまりない使い方じゃないんだろうか。
「おにぎり」の方は、「お」をとると別の食い物になってしまう。

 はっきり言葉について触れているのが、沖縄伊良部島の高校生。
 今はもう沖縄本島の専門学校生だと思うが、彼らの言葉は沖縄とも違うらしい。一口に「沖縄県」と言っても、端から端まで 600km もある。秋田市から 600km 南にいくと伊豆大島、そういう距離で、しかも沖縄は多くの島からなっている。だから、言葉の違いは相当に大きいのである。
 自分のことは「バン」、「ダイズ ウムッス」が「すごく楽しい」、親友は「アグドゥス」。
「すごく楽しい」の「ダイズ」は「大事」かなぁ、と思うが、それ以外はよくわからない。「バン」はググるといくつか記事が見つかる。
 当人も、「専門学校に行くと、こっちで友達と喋ってる言葉が使えなくなると思います」と言っている。

 島根の森林組合の作業員の人はどうやら、半分くらい方言で話したらしい。
 その日が結婚記念日だということを忘れていて、「あげぇ」と一言。「あぁっ」みたいな間投詞だと思われる。
 結局、それをどうするかで悩んでおり、「どうすーだか」で締めているが、これのニュアンスってどんな感じなんだろうな。「どうするつもりなんだか」とちょっと引いてるのか、それとも「どうしようかなぁ」なのか。

 人様の弁当 39 人分を覗いて思ったのは、「みんな、おかず多いなぁ」である。重さは知らんが、写真で見て同じくらいの大きさ。人によっては、おかずの方がはるかに多いこともある。あるいは、おかずが多いのではなくてご飯が少ないのかもしれない。
 俺は逆である。面積で言うと、おかずがご飯の半分。
 炭水化物は少なめにしたほうがいいのはわかっているのだが、腹持ちと、おかずを用意する手間のことを考えると、なかなか難しいのである。




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