Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第806夜

あきたをおしえる正式版 (前)




 に『はじめての秋田弁』を取り上げたことがある、こばやしたけし氏の新作『あきたをおしえて!! (くまがい書房)』。お試し版については 2 月に紹介したが、その正式版。
 もう一回概略を説明しておくと、横浜からの転校生・神宮寺みなせと、本荘ユリ・六郷ミサト・井川わかみなどの友人達が登場する。
『あきたをおしえて!!』は、みなせの質問に友人達が答える、という体裁の四コマ集である。

 若い女の子達ではあるが、ときどき悪い言葉を使うこともある。
ばがけ」が取り上げられているのだが、そういえばこの「け」って何だろう。『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』は「けし」という「罵る意の接尾語」としているが、手元の古語辞典にそういう語は載っていない。「たぐらんけ」の「け」と同じ、と言われればなんとなく納得はするが。

「やっぱり綺麗な人が多い気がします」
 秋田美人の秘密を知りたいと思うみなせは、ユリが「私さ聞げ」と言うと、「お呼びじゃないよ」と答える。すっかり仲良くなっている。
 個人的には、「秋田は平均点が高い」と思う。ものすごい美人はやっぱり都会に多いと思うんだが、その正反対は秋田には少ない様な気がする。みながみな佐々木希なのではないが、磨けば佐々木希になれそうな人は一杯いる、って感じ。
 秋田観光コンベンション協会が一月に、七人の美女が一音ずつ何か言っている写真を並べて、「何て言ってるんでしょう」という観光キャンペーンをやった。正解は三月に示されたが、思ったとおり「あきたにきてね」であった。
 それはいいとして、その彼女達、確かに美人なんだが今風の茶髪だ、ということで文句を言う向きが少なくなかった。
 でもさ、絣のもんぺに笠、って女性、どこにいるのよ。観光用の遺跡と勘違いしてないか、と思った。

「知ったかぶりをすることが多くないですか?」
おべたぶり」は直訳すると「覚えたふり」だが、正確には「知ったかぶり」である。秋田では「おべる」は「覚える」という動作ではなく「覚えている」「知っている」という状態を示す、ということは大分、前に書いたような気がする。
 だから「おべれ」というのは「覚えなさい」という動作の方の意味になる。状態を示す動詞は命令形にはなれないわけなので。

「『きかねー』って言葉がわかりません」
 前作発売以降に登場した尾去沢かずのは気が短い。校内でぶつかったみなせに「ばかけんがー」と思いっきり罵倒するのだが、そんな彼女を友人の八竜みたねは「『口悪ぃぐってきかねー』秋田県人の負の部分が多目」と説明する。
きかね」は、言うことを聞かない、負けん気が強い、てなことだが、「きかん坊」という語は全国で通用するはず。MS-IME は変換してくれなかったけども。
 この説の主題はそこではなく、「〜の負の部分多目」という言い方は、中々強烈だな、ということ。機会があったら使ってみたい。

 この本を読んでて、いくつか聞いた事のない表現が見つかった。
 最初は「やちまげだ」で、「大変だ」という意味。『語源探求』によれば、「やちまげる」という「取り返しのつかないことをする」という意味の動詞が元らしい。これ自体は、「やづがね (ダメ)」と同じで「埒が明かない」の「埒」であるようだ。
 もう一つは「腹つえ」で、「満腹だ」というのは何度も紹介していると思うが、「態度がでかい」「思いあがっている」「慢心している」という使い方もあるらしい。これはこれで納得性がある。

「方言カモフラージュ」という語が出てくる。
 濁点を取ると標準語っぽく聞える語で、「気づかない方言」の一バリエーションと考えるといいだろう。
 ここでは「でがす (完成させる)」「うるがす (水に漬けておいてふやけさせる)」が取り上げられている。

「突然、動物の名前を発するのは何なんですか」というのは、「さい!」と「あやしかだね」のこと。
 間投詞に語源もへったくれもないのかもしれないが「さい」って何が元なんだろうねぇ。
しかだね」は「しかたない」だが、謝罪の言葉として使われることもあるので、直訳すると誤解を招いて面倒なことになる。
 めんどうくせぇなぁ、と思う向きもあろうが、構造は「申し訳ない」と同じである。これだって字面だけ見ると謝ってない。

「五城目」を「ごじょうめ」というか「ごじょのめ」というか、というトピックがあるのだが、そういやどっちなんだろうね。
 町名の由来は、この地域に城が五つあって、その中心だから「目」なのであるらしい。だとすれば「ごじょうのめ」が元々の形なのだろう。
 ところで、中心部を「目」っていうのはなんでなんだろうね。英語もそんな感じあるけど。
 目は二つあるのに対して、口は一つ、顔の中心は鼻。
「へそ」とか「心臓」ならわかるけど。

「汽車」の話題。
 前にも書いたような気はするが、電化はされているものの、通勤通学用に使われているのはディーゼル車なので、「電車」ではない。

「だまこかきりたんぽか」。
 みなせの横浜の友達が、「だまこの方がつぶして握るだけだから楽じゃないか」と言っているらしい。ユリは「横浜市民でねくて秋田県民だべ」と詰め寄る。
 この本の中で一番笑ったエピソード。

 なんか知らんが、きりたんぽについては、「発祥の地が鹿角、本場が大館」ということになってるらしい。なんじゃそりゃ。関係者の気持ちはわからんことはないが、そんな鞘当、すこぶるどうでもいい。
 漫画では、「合併しちゃえば」と言ってかづのに「ばがしゃべすんなー」と罵倒されているが、そら怒るわ。

「米粉の生産が盛んですが、どんなものが作られているの?」
 米粉で作ったパンに米で作った麺を焼きそばにして挟めば、夢の競演、てな話。
 そういやまたダイエットしないと。この冬、きっちり太ったし。晩飯を食う時間が遅い(寝るまでの時間が短い)のに変わりはないから、三ヶ月弱、徒歩通勤したところで、全く意味なし。
 あ、年とって根性なくなったのか、朝はほとんどバスだった。それも一因かね。

 つづく。




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