Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第703夜

はじめての秋田弁



 昔、このホームページを始めた頃、そんなタイトルの秋田弁講座をやろうか、などと考えたこともあったが、あれはまだ時代が 20 世紀のときの話さ。
 これは、無明舎出版から出ている本で、「爆笑四コマわっぱが物語」というサブタイトルがついている。
 出たばっかりなんだが、秋田のジュンク堂では“1Q84”より売れている、という噂もある。

 登場人物は、横浜からの転校生「神宮寺みなせ」とクラスメートの「本荘ゆり」「六郷ミサト」、隣のクラスの「井川わかみ」、担任の「琴丘タツ子」、理科の「矢島にかほ」。
「タツ子」以外はすべて秋田県内の自治体名 (合併でなくなったのもあるが)、よくこれだけ揃えたもんだ。それだけでも拍手したい (みなせの弟は「なるせ」)。
 話は、神宮寺みなせに周囲の人が秋田弁を解説する形で進む。

 このマンガで特徴的なのは、秋田弁講座風の体裁でありながら、「どごから拾ってきたゃづ」というような難しい表現がないこと。女子高校生たちが使っているかどうかは疑問だが、現在の若年層ないし青年層が使っている感じの秋田弁である。だから非常に読みやすい。小難しいことを一切言ってないことに好感が持てる。

 例によっていくつか取り上げていくことにする。
ぼだっこ」は前にも紹介したが、謎の単語。「塩鮭の切り身」という非常に意味範囲の狭い単語。
 この本では、みさとが「ぼだっこのおにぎり」と言って渡されたおにぎりを、中に何が入っているのか解らないまま大決心の末に口にするシーケンスが描かれている。
 たしかに、濁点も多いし、知らない人にはおいしい食べ物という想像はしづらいかもしれんな。
 作者は、「玄米を『コイン精米』して」食っているそうだが、これこそ県外の人には解説が必要なんじゃないかな。精米機が自動販売機みたいに設置されてる、なんて信用してくれない人がいるかもよ。

 雪の話題で、秋田が車社会であることを説明している。
 車で door to door だから、決して足腰が強いわけじゃない、ということも書いてある。そうなんだよねー。通勤時間を利用して勉強、とかいうのも都会の話なのよ。

 秋田の有名人をネタにしたエピソードで、加藤と言いかけたユリをミサトが必死に止めているのだが、なんでだろうなぁ。ぼくはこどもなのでよくわかりません。

 秋田駅前にあるなまはげの石像。
 確かに目立たない場所にあるな。大まかな場所もそうだけど、設置のポジションがまた微妙。確か、角度によっては柱に隠れたりするんじゃなかったかな。

 そういや知らない単語が一つだけ。
ゴロっとする
『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』では、ネコが喉を鳴らす様子、とダイレクトに説明しているが、『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』の方は、もともと「ころころする」という語が江戸時代にあって (手元の古語辞典には載っていない)、それがネコの様子の類推から「ゴロ」になったのではないか、としている。

 笑ったのは、後半にあるクイズ大会。
 みなせはまだ秋田県人になりきれていないようだから、それをクイズで確かめよう、というもの。外れるとなまはげを召還されてしまうので、みなせは必死である。
 その二問目が、「寝なければならない」を三文字で言え、というもの。
 正解は「ねねね」なのだが、これがわかるんだったらもう免許皆伝と言ってもいい様な気がする。

 クイズに答えることができるので、ユリは「ながながやるねが」と言うのだが、これも難しいな。
 というのは、字面だけぱっと見るとこれは「中々」というより「長々」に見えてしまう。
 実際には、「中々」は濁音で、「長々」は鼻濁音なのだが、それは現在の仮名では書き分けることができない。

 一つだけ間違いを指摘したい。
 秋田朝日放送が「朝日放送」系列となっているが、キー局はテレビ朝日朝日放送は大阪の局である。

 この本は、その四コママンガのほかに、秋田弁がくっついた小さなカットがある。たとえば、びっくりした顔のみなせの横には「どでした」、荷物を持っていれば「おぼでーっ」という具合で、これがなかなか楽しい。サムズアップしてるわかみの「なんもだー」なんて気に入っている。

 作者は、こばやしたけしという人だが、「あきた4コマち」というブログを持っている。この本は、そこに載っていた漫画を編集したものらしい。記事数が少ないのは、本に収録した作品を外したからだそうだ。
 羽後町あたりがが萌え絵で話題になってるが、その辺のイベントに参加しているようなので、そっち方面が好きな人にもお勧め。

 井川わかみは俺のご近所らしい。




"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第704夜「県民性って何?」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp