Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第792夜

あきたをおしえるお試し版



 こばやしたけし氏の「あきたをおしえて! 〜お試し版〜」を入手した。
 氏はかの『はじめての秋田弁』の作者だが、あれ以来引っ張りだこで、県の「少子化脱却大作戦!!」、アミューズフォレストの「あきた雅香戦記」など多数のキャラデザインを手がけている。
 これは、「お試し版」という呼び方で想像がつくとおり、後に完全版が出るらしい。そのためか、同人誌の形態をとっている。今回は、作者本人からの通信販売である。

 俺も長らくオタクをやっているが、実は同人誌にはあまり縁がない。
 高校生のとき、SF 研究会として参加、大学生のときに小規模なコンベンションに参加。一時、アニメの歌ばっかりやるバンドってのもやってたのでそれでおしかけてって演奏したこともあるが、そのときは演奏で忙しくて何も買ってないな。それ以来である。
 ここ数年、ちょっと復帰して、同じように通販を利用したり、イベントを覗いたりして何冊か手に入れた。
 とにかく熱い。俺はあそこまで熱くなれないので、特にイベントなんかでは、ちょっとしり込みする感じがある。
 この世界では、同人誌のことを「薄い本」と言ったりする。別に内容に関する自嘲ではなく文字通りで、同人誌は概ね薄いからである。
 因みに、エロいものは一冊も持ってない。

 で、「あきたをおしえて」。
 パターンとしては、『はじめての秋田弁』で横浜から転校してきた神宮寺みなせが、秋田についての質問を発し、本荘ユリはじめとする友人達が答える、という形になっている。
 その中からいくつか。

しったげ (元は「死ぬほど」だが今では単なる強調)」については、紹介した日高水穂氏の『秋田県民は本当に〈ええふりこぎ〉か?』でも取り上げられていた。氏によれば、秋田市よりも北の沿岸部で生まれた、割と新しい表現ではないかと考えられるそうだ。俺の両親も、聞いた事がない、と言っていたはず。
「関西では○○と言う」と聞いたがよく調べてみたら京都では言わなかった、というようなことが、県内部でも起こるわけ。俚諺集などを読むときは、地域的、世代的に限られた表現かもしれない、ということを念頭に置く必要がある。

「ニジュウハチコタベマシタ」がチラっと取り上げられている。金萬という菓子の CM で (県民には) 有名なフレーズで、暮れにちょっと触れたが、俺の記憶では「ニジュウハコ」である。これで世代がわかる、という噂もある。

「秋田駅前は昔、人でごったがえしていたって本当?」という質問がある。
 これで思うのは、にぎやかさを取り戻そう、という話のときに必ず出る、駐車場の問題。
「駅」の話をしてるのに「駐車場」って。
 それ自体がもう一つの結論なんじゃないの、って気がする。

「人口減少に歯止めがかからないのはどうして?」という質問での4コマ漫画が一番好きだ。
 県民が倍の活動をすれば、収入も活気も倍になる、というユリ。オチは現物で確認するべし。

「民放が三局しかないって…」
 県単位で言ったら、4 局以上あるところの方が少数派だと思うんだが、人口で言ったらどうなんだろうね。意外に半数くらいの人がそういう環境だったりするのかも。
 何局あっても、「なんかやってねがなー」ってつけてみても何にもない、ってことは多いぞ。俺、CATV 入ってるから、理屈では 60 局以上見られることになるけど、ないときはないねぇ。お前の趣味が偏ってるからだ、と言われれば反論できないけど。
 尤も、それと「TBS の番組が見たい」というのとは別の観点なんだけどな。
 秋田に TBS 系列の局がないから例外的に CATV で岩手放送を流すことが認められてるんだけど、岩手放送だって TBS の番組を全部やってるわけじゃないから、見られなくて悔しい思いをすることはある。
 衛星放送の本来の目的は難視聴地域の解消だったはずだが、その原則に従えば、全国ネットにならない番組こそ、民放の衛星局で流すべきだと思うんだが、そういうことってほとんどないのね。いや、俺が知ってるのはオタク分野に限ってだけど。テレビやってないからレンタルショップにも並ばなくて見られない番組がいくつも。

「コンビニ最大手がやっと進出してきますが、どうして今まで無かったの?」
 大人の回答をしてしまうと、配送の問題だろうな。巨大ショッピングセンターならいいが、コンビニ一軒のために県境を越えてトラックを走らせるのは効率悪いことはなはだしいので、何軒か同時にオープンさせる。その条件が整ったんだろう。だから一号店は、県庁所在地の秋田市ではなく、東北道に近い横手なわけ。
 セブンイレブンがなくて「バガにさいで」ということだが、「されて」が「さいで」になるのは、別のところにあった「誰だ」が「だいだ」になるのと同じ。
バガ」だが、「」にアクセントが来る、と書いてる。
 確かにそうだと思うんだが、「バガにさいで」とつながるとどうだろう。
 俺が言うと、
   ガにさいで
 と平坦になるのだが、
   にさいで
 と途中で下がる言い方もよく耳にするような気がする。後者のほうが正しい?

CM とが」は「CM どが」だと思うし、別のところにある「ひけらかさねぐっても」は「ひけらがさねっても」の様な気がする。
 ただ、この本に限らず、例えば『東日本ふるさと物語』もそうだったが、活字で濁点をつけようとすると、どうも人によって違う結果になるような感じはする。なんか難しい問題があるんだろうか。

 同人誌を読むようになって思ったこと。
 イラストが描ける人がうらやましい。




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