Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第767夜

本当に〈ええふりこぎ〉か (後)



 日高水穂氏の『秋田県民は本当に〈ええふりこぎ〉か?』に借りた文章、後編。

 氏は、県教育委員会が編集した『秋田のことば (無明舎出版)』にも参加しており、その CD-ROM 版にも触れている (「信条込めた音声の凄み」)。
 俺、実は持ってるのだが、まだ聞いていない。聞いてないどころか、封もあけてない。ネタに困っている昨今、勿体無いと思っているのだが、完全にタイミングを逸している。動作環境が「PentiumII 以上」というのが懐かしさを誘う。
 そういえば、CD-ROM 版の作成は大変だそうである。
 電子辞書の編集をやっている知人がいるのだが、校正作業で視力を激しく落としたらしい。何せ、パソコンのディスプレイという貧弱な表示環境で、‘1’‘l’‘I’(数字のイチ、小文字のエル、大文字のアイ) を識別しなければならないのである。そら目も悪くなるわ。*1
 この (『CD-ROM 版 秋田のことば』の) 話題で印象深いのは、公募した話者に「ずっと使われてほしい言葉」を聞いたところ、「人の立場でものしゃべれ」と言った人がいた、という話。
 これ、いわゆる「好きな秋田弁」とはまったく毛色が異なる。秋田弁ではあるが、秋田弁特有という感じも薄い。
 一方、そういう気持ちが失われて欲しくない、という「信条」の裏づけがある。
「好きな秋田弁」はこのあたりをごっそりそぎ落として、いかにも秋田弁ぽい表現を持ってくることがあるが、これは重い。
 言葉というのは発する人、聞く人の気持ちが伴って初めて言葉なんだと思った。
 尤も、それを認めると、「めんこい (可愛い)」が好き、という回答も認めることになってしまうのだが。

 前に取り上げた「自動車学校」の短縮形。
ジシャカ」って形があるそうだ。今、ググってみたら、24 件。
 過剰修正らしい。「ジシャガ」の「ガ」を訛りと捉えて清音にしたものと考えられるのだとか。
 ということは、「自動車学校」の短縮形という語源意識は失われている、ということなんだろうか。

「西成瀬小学校の『ことば教育』」は興味深い。
 明治からつづく、西成瀬小学校における独自の教育で、方言と標準語の使い分けの成功例として取り上げられることが多い。
 が、「方言を否定しない教育である」という見方がされるようになったのはごく最近だ、というのである。
 確かにそうである。方言にプラスの価値が見出されるようになって、長く見たって 30 年しか経っていない。その前の 70 年間、社会的な要請として、方言を使えることを目的としていたはずがない。事実として、標準語を話せるようにすることが目的であったことが、当時の文書として残っている。
 つまり、見るほうの姿勢が、「標準語礼賛」から「方言礼賛」に変わったため、その評価も変わってしまったである。
 この辺りは、この本の冒頭で取り上げられている「秋田人“変身”プロジェクト」が、「えふりこぎ」「せやみこぎ」という秋田弁を使って問いかけをした (しかも、出た結論が県民性と関連が薄い) のは、「県民性の政治的利用」ではないか、という指摘と考え合わせてみると、かなり深い問題をはらんでいることがわかる。

「ニシンの記憶とことばの痕跡」では、男鹿先端部の猟師のことばが意外に方言色が薄いことに拍子抜けしたことが書かれている。
 猟師たちは、年の 3/1 ないし半分を外の漁場で過ごすのが理由なのだが、これを「『半島』は陸地の吹きだまりではなく、海を介して外部につながっているのである」と表現している。
 こないだ松山ケンイチがテレビのバラエティ番組に出ていた。彼はむつ市出身でイントネーションなどにその特徴が残っている。陸奥半島は青森の東側だが、松山ケンイチの言葉遣いは南部弁とは異なる。
 これは、陸奥半島は津軽海峡に突き出しているため、津軽方面へ陸伝いに行こうとするととてつもなく大回りでものすごく遠く感じられるが、船だと早く行くことができ、昔から津軽地域との交流が深かったことによる。
 海は時として、陸よりも太いパイプになりうる、ということである。

 結局、竿灯の動員数は、全日程で 39 万人だが、前年比で 5 万人減、だそうである。
 それでいて最終日の動員数は史上最高だったというから、俺が仕事をしていた期間は、例年よりかなり少なかったことになる。つまり、スムーズに帰れるじゃん、という印象は正しかったわけだ。
 これが本当に地震のせいなのかどうかは冷静に検討する必要があるんじゃないかな。




*1
 縦書きだとさらに、‘ー’‘−’‘―’が加わる (長音、マイナス、ダッシュ)。 (
)





"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第769夜「交通安全秋田弁川柳 11」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp