Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第794夜

プレジデントは県民性がお好き




プレジデント」がまた県民性を扱った。今回は増刊とかではなく本誌。
 県民性を扱うときによく見られるとおり、これも断言の連続。
 今回のアンケートは 3,000 人が対象で、前回の 2,000 人に比べると大幅増だが、今度は地域が細分化されている。一つの県を複数に割ったりしていて、77 地域。一地域平均 38 人で、前回と大して変わらないのだった。
 その区分も、青森を津軽と南部の東西に分けたのはいいとしても、山形が酒田とそれ以外、神奈川が横浜旧市街とそれ以外、とよくわからない分け方の地域も散見される。
 岡山は隣の広島の福山市も含んでいるのだが、Wikipedia によれば福山は岡山の井笠地方と結びつきが強いのであるらしい。

 ビジネス誌らしく、冒頭は、上司または部下として好かれる/嫌われる県民というのを図にしてまとめてある。
 が、ちょっと待て、である。改めて考えてみるまでもなく、そんなもの都道府県単位で決まるか?
 例えば熊本は、「嫌われる上司」の一位、「好かれる部下」の四位に登場するが、前者では「独善的で部下の意見には耳を貸さないこともしばしば」とあるが、前者では「素直」と逆のことが書かれている。

 AKB48 の曲をダウンロードまたは購入したことがあるか、という設問があったらしい。「統計相性学」という名前の割に数字がほとんど書かれていない、というのがこの特集の特徴だが、35.7% の長野南信が一位、三位が福島浜通り。気になるのは会津がゼロだということ。俺自身は全く関心がないが、世間の様子を見てると、ゼロってことはそうそうないような気がする。一体、会津の回答者は何人いたんだろう。

 77 地域の、仕事と恋愛に関しての相互の相性が巨大な表にまとめられている。
 この特集の監修はナンバーワン戦略研究所というところがやったらしい。どうも、そこのホームページや著作に書いてあることの焼き直しみたいな感じなのだが、ところどころ食い違っている。
 それにしても「完全版相関マップをチェックして、仕事も恋も即攻略!」ってコピーが泣けてくる。中学生向けのファッション誌か。

 特集の後半、色んなビジネスマンの記事になって、方言と絡んでくる。流石に気が引けるのか、ひとくくりにはできない、個人差の方が大きい、と但し書きが増える。
 野村證券の鈴井浩史氏は
方言は、あまり使わないほうがいいと思います。なかには積極的に方言を使うヨソモノもいましたが、私は標準語で通しました。中途半端な方言ではかえって失礼になると思ったからです。
 と言っているが、これも一つの見識だろう。なんで「ヨソモノ」がカタカナなのかはわからないが。
 だが、言葉は悪いが、これは数年で転勤してしまう人だからではないか、という見方もできる。10 年もいてそれでも標準語を通したとすれば、「溶け込もうとしない」などと思われてしまう虞もある。
 ヒアリングは別だそうで、青森の「まいね」は、注意していないと「まあ、いいね」と聞こえるらしいのだが、「ダメ」という意味の「まいね」という表現があることを知っていれば、前後を把握してたら判る様な気がする。
 学習学協会という NPO の本間正人氏は、大阪で講演をすると「なに言ってまんがな」というツッコミがはいる、と言っているが、そんな言い回しはないはずだ。
 この人たちがどこの出身なのかは書かれていなかった。

「出身地の DNA」という記事で、北海道の雪のことを「スノーパウダー」と呼んでいるが、「パウダースノー」の間違いだろう。「スノーパウダー」というのは人工雪である。そういう薔薇もあるらしいが。
 あと「かっこつけしい」という表現が何度も出てくるのも気になる。「ええかっこしい」と混同していないか。ググったら用例は少なくないが、ビジネス誌に書くんなら鍵カッコが必要な俗語表現じゃないだろうか。なお「エエカッコしい」も別の場所に出てくる。
 東京都民が振り込め詐欺に騙されやすい、逆に言えば、他の地域が騙されにくいのは、方言も絡んでいる、ということはに書いた。方言と標準語という体系の二本立てで、さらに方言内部にきちんとした敬語体系がある場合、子が親に話すときの口調にはさほど選択肢がない。それを間違えると、電話を受けた方で、こいつは違う、ということがすぐにわかってしまう可能性が高い。

 プレジデントと言えば、その前の号で、社名や肩書きなど、名刺に書かれてあることで武装して仕事をすることを「モビルスーツ」と形容していた記事があった。
 つまり、プレジデントの読者層はガンダム世代と重なっていて、「モビルスーツ」とは何か、ということを説明する必要がない、ということなのだと思われるが、そのことと、この特集のゆるさは関係あるのかなぁ。

 仕事をする上で問題になるバックグラウンドは、「その人が、一人暮らしをしたことがあるかどうか」だと思う。
 一人暮らしをしたことがない人は、「なんとかなる」という発想をすることが多い。詳しく言えば、「誰かが何とかしてくれる」「俺が何もしなくても状況が好転する」という姿勢のことが多い。これは非常に邪魔になる。
 勿論、俺の知っている範囲で、という限定はつける。




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