Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第584夜

方言が少ない地域が狙われる



「振り込め詐欺」は一向におさまらないようである。
 似たものとして、役所とか団体とかの名をかたって電話をかけてきて、ほかの人の連絡先を聞き出そうとする、という事件も割と頻繁に耳にする。あれってなんなんだろうね。電話番号収集方法としてはものすごく効率が悪いような気がするんだけど。
 ほかに、還付金があるから、って ATM に行かせて振り込ませるってのもある。最初、聞いたとき、なにそれ? って思ったんだが、手続きの一部だって思わせてボタンを操作させるのね。でも、振り込み画面になってるんだろうから、気づきそうなもんだけどなぁ。それに、役所の手続きが ATM でできるって、変じゃない?

 そんな中、宇都宮のグループが逮捕された、というニュースを見た。
 狙われたのは宮城と仙台だそうで、なぜかというと、方言が少ないから、だそうだ。
「方言が少ない」ってのは語法上どうなんだ、という突っ込みはさておき、一説には、振り込め詐欺の被害が東京に集中しているのは、単に人口が多いからではなく、方言で露見することが少ないからだ、とも言う。
 たしかに、初期に「オレオレ詐欺」などと言われていたのは、「オレだよオレ」と息子を初めとする肉親であるかのように装ったからで、そうだとすれば当然、それなりの言葉遣いが要求される。声質の違いは電話だからとか風邪引いたからとか言い逃れもできようが、肉親との会話という文体の低い状況、しかも、すぐに振り込まないと大変なことになる、という緊迫した状況で、普段は方言で話している人が標準語だったりしたらそれは不自然極まりない。それで頓挫した企みもおそらく山ほどあるのに違いない。

 俺の父親も一度だけそういう電話をとったことがあるのだそうだ。そのときは、明らかに俺とは違う声だったからわかったとのことで、残念ながら秋田弁が決め手になったのではない。
 尤も、俺の言葉遣いはそれほど秋田弁色が強くないので、うまいぐあいにその混ざり加減を真似るのは難しいかもしれないし、逆に、標準語で通してもこれまた決め手にならないかもしれない。

 大阪は少ないんだそうである。数字はいろいろあったが、極端なところでは東京と大阪で 10:1 というのもあった。
 勿論、方言の問題もあるんだろうが、ツッコミが入るから、という説がある。電話をとってしまった方で、あれ? と思ったときそのままにしないで口にするためそこで露見するから、だそうだ。

 さて、仙台と札幌は本当に「方言が少ない」のか。
 前に取り上げた『どうなる日本のことば (佐藤和之・米田正人、大修館書店)』を引っ張り出してみる。
 まぁ、おおむねに書いたとおりなんだが。
 まず札幌。
 大雑把には 7、8 割のネイティブが、札幌の言葉は全国標準語に似ていると思っている。が、非ネイティブでそう思っているのは 3 割である。大きなギャップがある。
 ここで注目するべきは、その詐欺団の中に札幌出身者がいた、ということである。おそらく彼もその 8 割のうちの一人であろう。そして、宇都宮出身のほかのメンバーはそれを検証する手がかりを持っていなかった、ということではないか。まぁ、それでも相当に巻き上げることに成功したらしいから、その勘違いも大した問題ではなかった、ということになるのかもしれないが。
 札幌についてもうちょっと触れると、札幌という土地のイメージは、ネイティブ・非ネイティブとも高い。これは理解してもらえると思うが、非ネイティブから見るとそれと言葉に対するイメージとの間にギャップがある。
 また、方言を残して行きたい、という意見は東京と並んで少ない。これは、方言に対する愛着度が低いのではなく、自分達の言葉が方言だとは思っていない、ということである。これは東京も同じ。
 さて仙台。
 まぎれもなく東北方言の地域だが、都市化の進行とともに衰退中、とある。
 ここでは「丁寧」「荒っぽい」など「評価語」と言われる単語を並べて、それが当てはまると思うかどうかを聞いた結果を掲げる。
 非ネイティブで高いのは、「親しみやすい」「味がある」「素朴」である。「荒っぽい」「きつい」「おだやか」が続く。気づいた人もあると思うが「味がある」「素朴」「きつい」あたりは、標準語に一番近いと考えられる東京のことばでは値を下げる評価語である。つまり、仙台の言葉は明らかに「方言」と捉えられている。この詐欺団がなぜ仙台は方言が少ない、と考えたのか疑問が残る。
 あるいは、ここで紹介したのはイメージだが、彼らは仙台での方言の実態を知っていたか。この本によれば、仙台で方言が好きかどうかを聞いたところ、どちらでもない、という答えが 3/4 を占めた。すでに仙台方言がどういうものかというイメージを抱けなくなっているのではないか、としているが、これに当てはまったか。

 実際、そういう電話がかかってきたら方言で応対しろ、というような撃退方法もあるらしい。
 生活の言葉だから生活防衛に役立つというのは本懐なのかもしれないが、まぁなんつーか。
 早い話が、世に盗人の種はつきまじ、ってこと、自衛するしかないのである。環境破壊・温暖化で、浜の真砂はつきようとしているというのに。




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