Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第778夜

ふるさと東日本



 徳間書店の『東日本ふるさと物語』を取り上げる。
 帯には「被災地域出身のまんが家たちが心をこめて描いた故郷への愛」とある。

 秋田からは伊藤実氏。
『どぶてけし』は発表当時、友人に進められて読んだ。俺が通っていた学校にも触れられていたな。
 女性だってことも知らなかったが、『アイシテル〜海容〜』がこの人だということも知らなかった。
 なお、「どぶてけし」はそのまま「どぶてぇやつ」なのだが、褒め言葉ではない。
 今回の『ドッコイショー・ドッコイショ』は、竿灯の練習に精を出す高校生の少年と、彼のいとこである少女の話。少女は、東京に引っ越したのだが、「節電帰省」で秋田にやってきている。
ゴロっとする」が出てくる。にもちょっと触れたが、「おだてられていい気分になる (『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』)」という意味。未だに聞いたことがない。
 彼は子供の頃、女の子は幼若 (ようわか。竿灯の一番小さい奴) で十分、とからかったことがあるのだが、すっかり大人になっているので、もう「幼若な持たへられねーな」と思う。この「」は「なんか」。
 印象的な台詞はいくつかあるが、「オラがたはあの日に一足飛びに大人になってしまったのかもしれねースな」「そうですな…」というのがいい。これは、それぞれの夢を買った後で、そのせいか客観的な形になっているが、あるいは地震のことをふりかえってみての結果なのかもしれない。
 作者がそうしたのか、編集段階での要請なのかは知らないが、濁点が少ないのが気になった。最初の「幼若な持たへられねーな」は「幼若な持へられねーな」だと思うんだが。

 岩手のゆうしょう氏の「サマートライ部」は、自身とは直接、関係のない若者のストーリー。
 宮沢賢治のことを“kj”と呼んでいるのが目を引いたが、調べてみたら、そういう呼び方をしている人は結構いるらしい。

 宮城のナミ氏の「忘れない日々」はダイレクトに地震のことを描いている。
 ガソリンスタンドが「ガススタ」。これもに触れたことがあるような気がするが、一般的な単語なんだね。

 福島の国広あづさ氏の「までいの村の本屋さん」はファンタジーっぽい感じ。
までい」は、「ていねい」「こころをこめて」という意味だそうである。「真手」という「両手」を意味する古語から来ているとか。舞台になっている飯舘村は「までいの村」で押しているらしい。『までいの力』という本も出しているそうだ。絶版のようだが。
 一方、旧飯野町 (現福島市飯野) は「UFO の里」で押していた。その辺りからファンタジーになる。
 主人公の女の子がかわいい

 宮城の槻月沙江氏の「また会えてよかった」も地震について。
「仕事がある人はなくした人にきまずくて」「家が残った人は全壊 半壊した人に合わせる顔がないと言い」という理不尽。
 自然相手に人間の感情で理不尽を持ち出してもしょうがないんだな、と思う。

 岩手のももち麗子氏の「ひょっこりひょうたん島のある町」も地震の話。
 これは、大槌町にある蓬莱島が「ひょっこりひょうたん島」のモデルだ、という話。こないだ修復とかで話題になっていた。
 主人公(おそらく作者)は東京住まいだが、子供の頃、ここが好きで、遊びに来ては方言を覚えて「はっけー」「おばあちゃんちの子になりてー」とか言っていたらしい。

 山形の星野泰視氏の「月夜のでんしんばしら」はファンタジーっつか SF.
 主人公は作家らしい。大ヒットした著作は「エイコーン・アンド・ワイルドキャット」「メニーオーダーレストラン」「エクスプレスナイト」。どっかで聞いたな。
 彼は不思議な空間で自動車事故を起こし電柱を折ってしまう。これまた不思議な男にその賠償を要求される。主人公は、俺は人気作家だから金ならいくらでもある、と言うが、不思議な男はこう答える。
「電気ってのはわずかな金で買えるが、半端なお金じゃ作れない」
 実感した人は多かろう。

 一ヶ月くらい前だと思うが、秋田魁新報で内館牧子氏が連載しているコラムに、もう絆の段階じゃない、というようなことが書かれていた。まったくその通り。つか、地震を別にして、そもそも「絆」「絆」って声高に言うことの胡散臭さよ。
 お焚き上げしかり、花火しかり、橋しかりで、東北から持ち出されたものを忌避しようとする人々はたくさんいるし、避難先で「放射能がうつる」みたいなことで阻害された人もいた。地震のとき、混乱を起こさない日本人の態度が褒められた、なんてことも言われたが、むしろ、それがごく一部なんだと思うべきなんじゃないか。
 自分達を美化しすぎである。だって、首都の知事によればこれって「天罰」らしいじゃん。




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