Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第650夜

方言トイレットペーパー



 、方言綿棒を紹介したが、今度はこれ。
 なんと、方言トイレットペーパー。
   
 メーカーは三菱製紙
 名前からわかるとおり三菱系で、Wikipedia によれば国内五位のメーカーの由。
 ホームページに行ってみてびっくり。トイレットペーパーのほかにティッシュペーパーもあり、去年の暮まではご当地ラーメンが当たるキャンペーンを展開していたらしい。
 本社は東京だし、なんでまた、と思ったのだが、ネットショップに行ってみたら解決。「会社紹介」によれば、このティッシュおよびトイレットペーパーの「ナクレ」のシリーズ、製造・販売が東北中心なのだそうだ。「家庭紙事業室」というのが北上市にあるらしい。

 さて、トイレットペーパーの方に載っている語彙をチェックしてみる。なお、パッケージに書いてあるだけで、ペーパーに印刷されているわけではないようだ。
青森
けっぱる「がんばる」。よく津軽衆の気質として取り上げられることがある。
せんばの おそらく、「じゃあね」であろう。「ん」ははっきりとは発音しない。「ばの」という書き方の方が正確だと思う。敢えて書かないことも多いんじゃないかな。
岩手
なんたらや はっきりとはわからないのだが、「どうして」と「どうしたことだ」がある。疑問と驚愕の両方で使われるのだろうか。ニュアンスとしては「なんでやねん」が近いか?
ほろぐ「はらう」「はらい落とす」であろう。雪や砂、花粉など粉っぽいものが付着した場合に、その布を叩いて落とすことを言う。
宮城
ぐずらもずら そのまま「ぐずぐず」「煮えきらない」らしい。「ら」は調子を整えるために挿入されたものであろう。
あっぺとっぺ「ぐちゃぐちゃ」「いい加減」。逆だってことかと思った。おそらく「あべこべ」からの連想。
秋田
うるだぐ「慌てる」「うろたえる」。
えったえったじい『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』に「えたえた」で載っている。足元がおぼつかない様子で、「よたよた」との同系であると述べられている。
山形
おしょしな
もっけだのぉ どちらも「ありがとう」だが、「おしょしな」が置賜、「もっけだのぉ」が庄内らしい。
福島
ごせやく「怒る」
いっちょめこく「一丁前ぶる」で「生意気だ」。
 トイレットペーパーの方に載っているのはこの 12 語だけだが、ティッシュペーパーはもう少し多いようだ。商品画像を見ると
青森
えふりこぐ「見栄を張る」
ねっちょふけ「執念深い」
どんだんず 概ね「どんだけー」に近いのではあるまいか。
岩手
どでした「ビックリした」
ねったねったど と書いてあるように見えるのだが、はっきりしない。ググってもそういう語は見つからなかった。
ねぷかげかぐ これも判読できない。多分、「居眠りする」という意味の語だと思うのだが。
秋田
がんじゃない「頑是無い」だと思う。
かだっぱり「意地っ張りである」
つらつけねぇ「あつかましい」
 が見られる。

 面白いのは、「えったえったじい」をググるとこのティッシュについて書いてる記事が上位にくること。
 それほど使われている言葉じゃないのじゃないだろうか。『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』には載ってないし、『語源探求 秋田方言辞典』は別の形が見出し語になってるし。
 となると、どうやってこの語を引っ張り出したのか、というあたりが気になってくる。
 どうやら「ナクレ」のスタッフには東北関係者が多いようだし、関係者自身が提案したんだろうか。

 ご当地ものというとどうしても都道府県あるいは市町村レベルのものを思い浮かべてしまうが、こういう「東北全域」というようなものも探せばもっとあるのかもしれない。
 どうやらティッシュの商品写真は片側しか映ってないせいか、北三県分しかない。おそらく反対側に南三県の言葉があるのにちがいない。
 見てみたいと思うのだが、ちょっとティッシュに \2,700 は出せない。
 多分これが定価、メーカー希望小売価格なんだろうな。
 スーパーだとこれが 1/5 以下、下手すると一割あたりにまで下がるわけだ。
 恐ろしや、小売店の影響力。




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