Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第618夜

東北弁綿棒 (後前)



 山洋の東北弁綿棒を使った文章、後編。

福島
のぐちひでおせんせいは福島生まれだぞい
野口英世さんは福島県出身です
 ここにも誤植が。
 念のために、ググってみた。に、広島では、ほかの地域で「ぞう」と発音される名前が「そう」である、という話を紹介したが、そういうこともあるかと思った。
 その結果、「ひでお」だと思っている人はかなり多いらしいことがわかった。たしかに、そっちの方が名前としてはポピュラーだもんな。
 一応、野口英世記念館の URL を根拠としておく。

この綿棒、つかったらよがんべ使ってみっせ
この綿棒を使ってみてはどうですか?
 これは地域差だろうか。確かにデカい県だからな。
 因みに福島は、東から浜通り・中通り・会津に分かれる。一般的なイメージとしては福島イコール会津だと思われるが、そうではない。

食ってぬくくなった
喜多方ラーメンにほっこり
 究極の意訳。
 しかも、「東北弁綿棒」であることを隠して、文だけをポンと出されると、どっちが方言文なのかわからない。いや、「ほっこり」はすでに京都弁を離れて、しかも意味も変わって、全国区の表現だと考えるべきか。
 あるいは、この方言を集めたスタッフの中に、喜多方ラーメン愛好家がいるのかもしれない。

秋田
まんず秋田さ来てたんせ
どうぞ、秋田に来てください。
 密かに秋田弁の横綱だと思われる「」。
「ほかの県より先に秋田に来てください」と言っているのではない。「」は強調というか、既に副詞ではなく間投詞で、この場合は「是非」あたりが近い。
 たとえば、かわいい孫が事前の連絡もなしに突然、遊びに来てびっくり、すっげぇうれしい、というようなとき「なーんと、まずまずまずま」とか言ったりする。
『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』は、何はさておき自分の気持ちを表現したい、というときに使われる、としている。巧い説明だと思う。
」と言う地域もある。

秋田こまちはうめぇな〜
秋田こまちはおいしい〜
 にも書いたが、米の名前としては「あきたこまち」が正しい。商品名、固有名詞だから気をつけていただきたい。

死んだげうめぇ〜稲庭うどん! 食ってけろ
繊細な上品な味! 稲庭うどん! 食べてみて
 食べ物の紹介が多い、というのもこの綿棒の特徴。
死んだげ」と漢字で書くとなにやら物騒だが、これはもはや単なる強調。生死の問題ではない。「しったげ」と言うこともある。
 勿論、「繊細」「上品」という意味はない。どうもこの綿棒を作ったスタッフ、食い物が絡むと熱くなる人が多いようである。

山形
米沢牛は口とろげっがら、一度食べでみれ〜
口がとろける米沢牛〜たべてください
 意味に間違いはないが、順番はひっくり返っている。「一度」も抜けているが、まぁよかろう。

ラフランスんめぞ〜
ラフランスは山形がおいしいよ
あんめぐて、んめさくらんぼ
あまくておいしいさくらんぼ
 さすが果物王国。
 ラ・フランスなら山形だろう、と思ったんだが、長野と並んでの二大産地ということになるらしい。訳文で「山形がおいしい」と原文に無い情報が付加されているのは、山形を愛する心意気、ということか。それともやはり食い物がらみで目がくらんでいるのか。
 Wikipedia によれば、フランスが元なのに、気候が合わないせいでヨーロッパではほとんど栽培されてない、というのがほほえましい。
 サクランボの方は、山形が全国の 7 割、それに青森と山梨を加えた 3 県で 9 割だそうだ。訳文でわざわざ山形について触れてないのはそのせいか。

 最後にこれ。
あっちぇ! 東北の夏祭り
熱い! 東北の夏祭り!
 なんでこれが山形なんだろうね。まぁ、「あっちぇ」が山形方言だからなんだろうけど。

 というわけで東北六県を駆け抜けた。
 数えてもらうとわかるが、28 種類すべてを紹介したわけではない。他の表現を見たかったら、買ってください。
 実は、オフィシャルサイトにはこの綿棒、紹介されていない。あるいはパイロット版ということなのだろうか。ある程度、売れることがわかったら正規のラインナップに載せる、とか?
 大阪弁版は載っている。
 これにはおみくじもついているらしい。一覧が公開されているが、大凶よりもさらに二つランクが下がる「超凶」のコメント、「ある意味おいしいで!」は、さすが大阪、という感じである。

 テレビとか新聞とかで生活情報みたいなのはよく見るが、こういうちょっとした商品って、あることはあるんだろうけど、具体的にはどこの店に行けば買えるの? ということがわからないことが多い。俺もまさか、スーパーや薬屋ならともかく D.I.Y.ショップで綿棒を買うことになるとは思わなかったし。
 というわけで、興味を持った皆さんは、一生懸命、探してください。




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