今回のテーマはネーミングである。『
日本語学』誌の 10 月号で特集されていた。本当はもっと早く取り上げるつもりだったんだが、テレビネタが続いてここまで押されてしまった。
最初の「ネーミングとは何か なぜ今、ネーミングなのか」、岩永 嘉弘という広告界の人が書いた文章なのだが、誤植が多くて参った。仮にも名前を論じている文章で、“SEDRIC”だの“PREGIDENT”(車の名前) だのはまずいだろう。秋田の米が「秋田こまち」になってるのは、本当に知らないのかもしれないけど。内容がまともなだけに目立つ。
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日高貢一郎氏の「方言によるネーミング」が、ここのページにとってはメイン。
名前が、そのモノ (あるいはコト) を的確に表し、かつ、人の目を引くことを目的としている、とした場合、方言を使ったネーミングは、その両方を満たすことができないことがある。
地域外の人にとっては、その俚言形は目新しいものに映る。したがって、関心を得ることには成功するが、意味はわかってもらえない。したがって、商品なら商品を見せられれば、それが何であるか、大まかな見当はつくだろうが、「で?」と踏み込まざるを得ない。というか、踏み込んでくれればラッキーで、「わかんないからいいや」とスルーされてしまう危険も孕んでいる。
内部の人にとっては、新鮮味がない。それどころか、なんでそんな名前を付けるんだか、というようなマイナスの反応が返ってきてしまうことになりかねない。
そこで、緩衝材として、別の何かの助けを借りることが考えられる。
にかほ市 (旧仁賀保町) の
ホテル エクセル キクスイにある「万葉」というレストランのパフェには種類が 3 つある。それぞれ、
イッペ、
イ・アンベ、
メンケという名前なのだが、どこが違うのかわかるだろうか。
正解は大きさ、量。それぞれ、「一杯 (たくさん)」「丁度いい」「可愛い」で、大中小である。
こういう風に、一見、馴染みのなさそうなカタカナを並べると、ものが洋風の食べ物だし、フランス語かイタリア語か、と思ってしまう。その意外性と親和性で、田舎の言葉であることの違和感をやわらげるのに成功している。前に取り上げた、男鹿のゴンタローのお菓子「
アシニケ (遊びに来い)」も この路線。
青森で見つけた「
あどはだり」という菓子を紹介したことも
あったが、ものが和菓子であれば、地元密着であることを前面に押し出していい訳で、その場合は、ひらがなや漢字で差し支えない、ということになる。
日高氏の文章では、方言を使ったネーミングは、焼酎に多く、日本酒に少ない、とある。高級感を出したいとすれば、日ごろから使っている、あるいは、温かみのある方言はちょっとつらい、ということか。昔、「
あえさ (そうだよ!)」って酒もあったんだけどな。
高級感と言えば、岩永氏の文章を読んで、昔はテレビに漢字の名前がついていたことを思い出した。高級品だったんだよなぁ。今やディスカウント ショップで数千円。
「
でらうま」ってビールがあったな。
キリンが名古屋限定で出した奴。ちょっと調べたら、新潟限定の「
じょんのび」ってのもあったらしい。97 年ですか…。このホームページがスタートした頃の話ですなぁ。
今は、単純に「
でらうま」でググると飲食店の名前が多いのだが、ちょっと方言についてググると、店の名前がヒットするケースはよくある。
土着度高め、ということで、和風天然系加工食品を探してみた。納豆とか豆腐とかの類。これが意外にない。全部網羅しているわけではないので、皆無とは言わないけども、秋田弁を使ったのは見当たらなかった。逆に、高級感を演出した、漢字多目の商品はあった。こういうのは地元消費が多いだろうから、方言でのネーミングにメリットはない、ということかもしれない。
商品名ではないのだが、マルダイというスーパーのお菓子コーナーでは、飴を売っている場所に「
あめっこ」という札がある。ほかの食べ物にはなく、なぜか「
あめっこ」だけ。
居酒屋の名前なんてどうか。電話帳で調べてみた。
あんまりない。
「津軽の
もつけ」というのが載っているが、これは初秋の頃に閉店している。「
もつけ」というのは、津軽弁で「目立ちたがり」「お調子者」。
「べこ花」もちょっと気になるのだが、牛タン屋らしいので、牛の「
べご」だと思われる。ただ、ググってみると、健康食品系のお茶のページがヒットする。そういう植物があるのかどうかの説明は見当たらない。
これまた にかほ の「
ざまくり屋」。
『本荘・由利のことばっこ (秋田文化出版)』によれば、「
ざまくる」は、「余計なことをする」「女性が服をとっかえひっかえして楽しむ」「趣向を変える」…最後の奴か?
「
web 日本語」の「日本語イイタイホウダイ」−「わたしの好きなお国ことば」に、「
ござまくり」という単語が投稿されている。長っ尻で飲んで、最後に茣蓙をまくって帰る人、という意味らしいのだが、どこの言葉だか不明。ほかの用例も見当たらない。
ほかにも、アマチュアのスポーツ チームの名前とかにも方言が多数、登場していそうである。
温泉とかなんとか会館とかの公共施設も方言の名前は多い。
そう言えば、方言から離れるが、こんなエピソードもあった。
秋田駅は橋上駅なのだが、駅の両サイドを結ぶ道は「
ぽぽろーど」と言う。
一方、由利本荘市大内
(おおうち) の羽後岩谷駅前には温泉施設があり、その愛称が「
ぽぽろっこ」、駅と施設を結ぶ道が「ぽぽロード」。
大内の温泉の方が先。
直線で 30km くらいの距離に、耳で聞いたのでは区別できない愛称が二つ。新聞で取り上げられてちょっとした騒ぎになった。県庁所在地が、他の地域に目配りしてない、ってことがさらけ出された事件である。
ほいで、この話を確認しようとして検索してみたのだが、国土交通省や秋田県といった組織すら、「ぽぽろーど」と「ぽぽロード」を混同している、ということがわかった。
特に、両方を宣伝するべき、観光関係の組織が間違ってる、ってのは致命的じゃないか、と思うのだがどうか。