Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第651夜

シャボン



 風呂に入ってたときのこと。
 石鹸が小さくなってきたので、新しい奴を出してきた。
 古い奴はサイズもさることながら、薄っぺらになっている。
 それを見て、昔、「紙石鹸」ってのがあったな、と思った。
 思い出したのはそこまでで、それ以外の詳細がさっぱり。
 薄いのは確かだが、どこでどう使ったんだろう。学校に置いてあるとは思えないし、持って歩く性質のもんだとも思えない。駄菓子屋で売ってるオモチャかとも考えたが、一向に思い出せないので、ググってみたところ、当たり。駄菓子屋だった。俺が自分で買うわきゃないので、友達からもらったんだろうな。
 今はもっとちゃんとしたのを売ってるらしい。それこそ携帯用に、マッチブックみたいに綴じてるものあるようだ。

 というわけで、石鹸。
 これを方言で見てみたら何がヒットするかと言うと、意外なことにご当地石鹸だった。
つかってみんしゃいよか石けん」というのが鹿児島にある。火山灰でできてる、って聞くと、「はいぃ?」って感じではある。名前の意味は説明するまでもあるまい。
 京都には、お茶で作った「おぶぶ」というのがある由。これも説明の必要はないだろう。
 金沢には「あんと」というのがあるらしいが、これはちと不明。「ありがとう」だ、という記事もいくつかあるが、決定打とはならず。
 横浜の会社が、「いいじゃんガスール石鹸」というのを売っている。ガスールは練りこまれている粘土の名前らしいのだが、まぁ、「いいじゃん」を横浜方言とするのには抵抗がある。
 なお、個々の商品について俺が保証だの推薦だのしているわけではない。ケチつけてもいない。リンクしてないのはそういう意味である。興味のある人は自分で探してみてください。

 で、石鹸そのものを指す単語はないのかと思うのだが、ほとんどが「シャボン」系である。
「シャボン」そのものはポルトガル語から入ったもので、日本で作られたのは江戸時代。その辺は Wikipedia に詳しい。
 エゴの木のことを「しゃぼんのき」と呼んだ由。果肉で泡が出るらしい。尤も、地域的な偏りがあるのかどうか、複数の記事を読んでみたがちょっとはっきりしない。

 熊本では、汚れがおちることを「あえる」「あゆる」と言うそうだ。
 転入者は、洗濯物があえたりするとびっくりするんじゃあるまいか。

 大乃元初奈 (きのもとういな) の「おねがい朝倉さん」という漫画で、小さくなった石鹸を新しい石鹸にくっつけて使うことを「なかよしする」と表現しているエピソードがあった。
 地域方言ではなく、主人公個人がそう言っているのを、つい口癖で、さして親しくない人に言ってしまって、恥ずかしい思いをする、という話。

 どうも石鹸では広がりがない。
 風呂関係ということで、手拭いはどうだろう。タオルじゃどうしようもないだろう、ということはわかりきっているので探さない。
 これがまた商品がらみである。何かと言うと、方言土産がひっかかる。方言を染めてあるあれだ。手拭いの俚言形が見えてくるには相当に検索ページをめくらなければならない。
 で、「てのごい」「てぬぎ」「てんげ」あたりが多数。「手拭い」の変形なのは間違いないが、何で「の」とか「ご」になったんだろうねぇ。
 地域的にはかなり広がっている。
 ちょっと面白いと思ったのは「ゆて」「よて」系。湯で使う手拭いということらしい。今回の話題にはぴったりである。
 大阪辺りでは、幼児語として「てんて」というのがあるらしい。

 これもあまり広がらない。

 当然、シャンプーなんぞ調べてみるまでもないのだが、好奇心で Wikipedia を見てみた。
 洗髪の習慣がごく最近までなかったのは想像がついた。七夕に髪を洗うとどうこう、という言い伝えがあるらしいのだが、それはつまり、毎日洗う習慣がなかったからである。
 で、記事の後ろの方に、福島では七夕の日に女性が頭を洗う、とかいう行があるのだが、それがどういうことかは他のホームページを当たってみてもわからなかった。
 入浴に関する習慣は、地域ごとにどこか違っているのではないか、という気がする。そういうところを扱った本とかあるんだろうかなぁ。

 入浴の習慣といえば、よく話題になるのは、どこから洗うか、ということ。
 俺の場合、左腕である。右手にタオル持ってるんだからごく自然な話だと思うのだが、頭からって人も結構多いらしい。
 掃除の鉄則は「上から下」なのだが、なんとなく頭は後回しだなぁ。ひょっとしたら、子供の頃、洗髪は入浴の数回に一回だったことが影響してるのかもしれない。
 そういや、シャンプーハットとかってあったよね。今もあるみたいだけど。
 と、昔のモノの話に戻ったところで、今回はおしまい。




"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第652夜「ここだけの話 (前)」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp