近頃話題の「気づかない方言」。
去年の夏にそのものズバリ「
出身地がわかる! 気づかない方言」という本が
毎日新聞から出ている。新聞で連載したものに大幅加筆したものらしい。
それを使ってちょっと。
どうも姿勢が引っかかる。「出身地」に「イナカ」とルビがふってあって、腰巻には「場合によっては恥をかく!」とある。
「はじめに」によれば、「地方出身者や方言を低く見る見方ではないか」という読者からの意見もあったらしい。「そんなつもりはない」と続くのでホッとしていたら、「(記者たち自身が) 日常生活で思わぬ恥をかいたこともある。そして、進学や就職で上京する以前に『気づかない方言』について知っておきたかった」だそうである。
どうしても、「恥ずかしい」「失敗した」というのがベースにあるようなのだ。色んな言い方があって面白いねぇ、という姿勢ではないらしい。
それが伺える表現は本文中にも何度も出てくる。
さて本文。絆創膏の呼び方から。
前にも取り上げている。
絆創膏の定義を調べようと Wikipedia に行ったら、
普通名称化した商標一覧」という記事があったので見てみたら、これがまた面白い。
「プラモデル」「ジープ」あたりは有名だろうが、「コロコロ (絨毯を掃除する奴)」「プチプチ (クッション材)」「ポリバケツ」「万歩計」「ユンボ」が登録商標だとは知らなかった。
絆創膏と同じように地域差に発展してそうなのは、「メロディオン」「ピアニカ」の鍵盤ハーモニカ。「メロディオン」が
スズキ、「ピアニカ」が
ヤマハで、
ゼンオンの「ピアニー」、
ホーナーの「メロディカピアノ」というのもあるらしい。学校単位で導入するものだから地域性があったりしないかと思うんだがどうだろう。尤も、どれも全国をカバーしたメーカーだし、取り扱う楽器店の問題もあるだろうから、そうはならないかもしれないが。斑かもね。
なお、俺の場合、「メロディオン」である。青森から秋田に転校してきていきなりこれをやらされて困惑。当時は鍵盤の配置がわからないから何をどうすればいいのかわからず、それを使う授業が本当に嫌だった。
「画鋲」と「押しピン」。
前者が東日本、後者が西日本。
福岡出身の記者が書いたらしい本文に、「『画鋲』は『押しピン』のかしこまった言い方としか思っていなかった」とある。
泉 (仙台市泉区) の知り合いに、「ジャスはジャージの上等な奴だと思っていた」という話を聞いたことがある、ということを
前に書いた。ニュアンスの差が方言とリンクしていることがあるわけだ。
画鋲と押しピンの場合、東京を含む東日本が「画鋲」ということは、それが標準語形語彙だ、ということである。ジャスの場合、ジャスが方言形でそれが上等ということで、方向が逆に見えるが、それは旧泉市の人の言葉だ、ということには留意する必要がある。「ジャス」は仙台の表現なので、何がしかの威光を伴なっていた可能性がある。
小さなカップに液体で入っているコーヒー用クリームを「フレッシュ」というのは西日本。
メロディアン (大阪) の「コーヒーフレッシュ」が元ではないか、という説が紹介されている。それはいいとして、「メロディアンミニ」のヒットで「フレッシュ」が根付いた、とのことだが、その場合、商品名の「メロディアン」ではなく「フレッシュ」の方が採用された理由の説明が必要ではないだろうか。
なお、Wikipedia には「
コーヒーフレッシュ」が立項されている。
模造紙 (タイヨーシ、ビーシなど)、通学区域 (学区、校区、校下) と学校関連の表現のあと、「どれにしようかな、神様の言うとおり」に続く言葉、競争で最下位になった者を指す言葉、遊びに仲間に入れてもらうときの言葉、と子供の遊びに関する表現が続く。
がよく考えてみると、この「気づかない方言」というやつ、他地域との行き来によってわかるものである。その最たるものが、「はじめに」に書かれている「進学や就職」なのではないだろうか。
となると、子供の表現が多く出てくるのは当然の結果、ということになる。
この点はひょっとしたら、「気づかない方言」のことを考えるときのポイントになったりはしないかな。
つづく。