Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第406夜

ジャズやるべ



 ピアノのレッスン曲は目下、“My Foolish Heart”である。
 ジャズにはあんまり縁がない。いや、もちろん、「スタンダード」という呼び方があるくらいで、どこかで耳にはしているわけで、知っている曲はかなりある。“My Foolish Heart”を選ぶにあたっては楽譜集を一冊買ったのが、「あ、これってそういう題だったの」というのが山ほどあった。
 縁がないのになぜジャズなのかというと、俺の好む音楽って、フォークと歌謡曲をスタートに、一時、洋楽に踏み込みそうになったものの、基本的には日本のロック、それもかなりポップス寄り。原則、バンド形式なので、ピアノだけ、って曲は俺のテープや CD にはほとんどないのである。
 で、ピアノのアーチストを物色して、西村 由紀江とか村松 健とかを見つけた。西村 由紀江の曲はもう 2 曲やったのでほかの人、と思っているのだが、村松 健は楽譜が出版されていない。
 なのでいつも選曲に苦労していた。あるときレッスンを受けている楽器屋の店頭で、そのジャズの楽譜集を見つけて、あ、この手があったか、ということで今に至る。“My Foolish Heart”の前は“Take Five”だった、
 簡単だとは思ってなかったが、難しい。
 ジャズ特有のスイングのリズム、体はわかってるしノレるんだが、いかんせん両手指が言うことをきかない。

「スイングガールズ」を見た。
 に「ジョゼと虎と魚たち」のことをとりあげたときにも書いたが、上野 樹里には目下、注目中である。
 それもあったし、この矢口 史靖監督も「ウォーターボーイズ」の頃から気にはなっていた。
 で、音楽はミッキー吉野と、ゴダイゴのホーン セクションを率いた岸本ひろし。
 しかも、舞台は山形である。
 俺が行かないわけにはいくめぇ。

 方言指導は、眞島 秀和と伊藤 沙由里。
 眞島氏は俳優で、この映画にも登場しているほか、「ケータイ刑事・銭形愛」にも出ている。伊藤氏の方はわからなかった。
 登場人物の山形弁はかなり自然であったと思う。あ〜ぁ、という感じはしなかった。もちろん、正確なのかどうかは知らない。
 俺が違和感を覚えるのは、秋田弁と大分、違うからである。
 秋田弁は無声化することが多いが、どうやら山形弁はそうでもないらしい。に、山形へ仕事で行ったときの事を書いたが、そのときもそう思った。
 たとえば、予告でも出てくる「なんか いぐね? (なんだか、良くない?)」を、上野 樹里ははっきり“igune”と発音しているが、秋田では“igne”に近い。ここを促音にして「いっね」と言っても「いぐね」に聞こえるくらいである。
 いや、それはもちろん、向こうは山形弁で、こっちは秋田弁、違うのは当然なのだが、近いだけに共通点もかなりあるから、そこにひっかかってしまう、というだけのことである。

 撮影は置賜 (おきたま) 地方で行われたという。置賜というのは、山形の南部を言うのだが、ここは方言の区分で言うと南東北になる。秋田は北東北、違うのも当然。
最新 一目でわかる全国方言一覧辞典学研、1998、ISBN4-05-300299-0)』によれば、連母音の融合 (「アイ」が「エ」になるなど) が起こりにくいのと、無アクセント地帯だとのこと。
 彼女たちのアクセントにそれは感じられなかった。大人の出番は多くないので、結局、そういう特徴はほとんど気づけなかった。
 耳に残ったのは「〜ず」「〜じ」という語尾。「〜よ」に相当し、上の本では「早くあべず (早く行こうよ)」という例文を挙げているが、劇中でも「なんでボグだげこんな目に合わんなんねんだず」といった風に頻繁に出てくる。

 これは我ながら嫌になったのだが、やはり白石 美帆のような美人が東北弁を使っているとビックリする。尤も、聞くところに寄れば南東北方言の区域に含まれる茨城出身のようだし、昔はそういう言葉づかいだったのかもしれない。

 すがすがしく、楽しく、その癖、冗長な要素の全くない映画である。
 登場シーンでちょっと印象を残した (だから、それで終わりかなと思った) ロックの二人はきちんとストーリーの中核にいたし、野球部の代打君もしかり。ラスト シーンの演奏はすばらしいし、終わり方もよい。
 映画の中で何度も出てくるフレーズなのだが、人間は二種類に分かれる。
 中盤、なんとか全員で揃えてみるところまでこぎつけた彼女たちは、ふいに出番を取り上げられてしまう。そこで泣き出す子もいたりするのだが、そこでシンパシーを抱ける者とそうでない者。
 君はどっちだ。

 なにかをしようと発起して稽古したり練習したりしたことのある人にお勧めする。




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