Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第383夜

ジョゼ



 きっかけは不明なのだが『ジョゼと虎と魚たち』を見に行った。
 暇だったということはある。今のレンタル先である職場は独自カレンダーなので普通とは違うところに休日がくる。まぁ、逆もあって、世間は休んでるのに出勤しなければならなかったりするが。

 秋田の映画館事情は動きがあって、まず、イオン ショッピングセンターに東宝のでかいシネマ コンプレックスができている。きれいだし (ちょっと暗すぎないか、という気はする) 田舎のことで駐車料金は無料だし、ということで新たな映画需要を掘り起こしてはいるようだが、パンフレットの品切れがやたらに早い。2 週目で売り切れ、ってことが 3 度ほどあって、ここは信用ならん、という印象を俺は持っている。
 前は有楽町が映画館通りで、山形の会社シネコン風のビルを持っていたが、おそらくはイオンのシネコンのせいで客が激減、今、いわゆる「マイナー」映画の上映にシフトしている。なかなか興味深いのをやってはいるようだ。
 筋向いには老舗があるが、ここは、秋田駅の東側にできる複合ビルに水野晴郎プロデュースの映画館を運営するということで、一館閉鎖した。まさか、年中「シベ超」やってるわけではあるまいな。
 あとは、これもイオンではあるが FORUS に 2 つ。これはメジャー系維持のようだが、時折、『ジョゼと虎と魚たち』みたいなのもやったりする。

 原作は田辺聖子。行く間際まで知らなかったのでちょっとびっくり。
 池脇千鶴の、かたくなな種類の人間ってのも新鮮だった。まぁ、「ほんまもん」の印象しかないんだけどさ。
てるてる家族」で 3 女を演じていた上野樹里は、テレビを見てたときもなんとなくそう思ってたんだが、いい役者になりそうな感じがする。

 当然、大阪弁炸裂である。
 が、妻夫木聡 (やっと読み方がわかった) の役は、どうやら九州出身らしい。弟との会話でそんな感じになるが、普段の会話は標準語である。上野樹里も同様。この二人だけが標準語だった。ポジションを示しているとは言えるが、若干の違和感はある。それとも、大阪における大阪弁って、そういう状態になってるんだろうか。
 話そのものは淡々と続く。大イベントのない映画って向いてないのかもしれない、と特撮者の俺は思った。

 原作を読んでみた。
 薄い文庫なのですぐ読めるかと思ったら、これが短編集である。原作はわずか 25p くらいのものだった。あっという間。
 これを 2 時間の映画にしたのだが、基本的なところはちゃんと維持されているのはすごい、と思った。よく、映画と原作は別のものだ、なんて言われるが、細部 (原作では、妻夫木聡がやった役は広島出身だとか) これは別ではない。
 パンフにはシナリオも採録されているので、これと比べて読んでみるのも一興。

 独特の言葉遣いがあちこちに見られる。
 まずは「便利大工」を取り上げてみたい。これは『ジョゼ…』にあった。なんとなく見当はつくが、一応、ググってみる。小規模な修理や改造を、大工に限らず左官的なことまで、やる人のことのようだが、なんとなく、関西に用例が偏っているような気はする。住吉区のオフィシャルページによれば、住吉のカルタに「便利大工は何でも屋」というのがある由。
「取り子・取り嫁」は、子供のない夫婦が養子を取り (これが「取り子」)、さらにそれに嫁をあてがって (「取り嫁」)、後を継がせたもの。『荷造りはもうすませて』で出てくる。「取り子」の方は、鬼子母神や山伏など、宗教関係の風俗では、別の意味で使われるようだ。なお、天然の何かを採取して糧とする (販売する) という習慣がある場合、それを採取してくる人を「取り子」と呼ぶ地域もあるらしい。
「借り衣装」というのが『うすうす知ってた』に出てくる。ググって見ると、「借り衣装」「借衣装」あわせて 100 例もなく、「貸 (し) 衣装」が 3 万を越えるのとは対照的。確かにユーザーから見れば「借り衣装」だよなぁ。この 100 例を見る限り、言い間違いや臨時の語ではなく、きちんと確立した表現ではあるようだ

 方言ではないが、「勺 (しゃく)」というのも目に付いた。容積の単位「合」の 1/10 だそうだ。
 日本酒は肌を美しく保つから、日に五勺ほど酒を飲む、という女性が『雪の降るまで』に出てくるのだが、確かにその程度なら、健康維持には適量なのかもしれない。酒飲みには残酷な量だが。
 もう失われかけている単位だろうなぁ。

 田辺聖子の小説を読んだのは初めてだったが、すごーく独特な世界だなぁ、と思った。
 あんまり「女流作家」という言葉は好きじゃないのだが、そういう風にくくりたくなる感じ。きっと、男には描けない世界である。
 この短編集の中では、『お茶が熱くてのめません』がよかった。最後のひっくり返し方が、リアルであり、かつ、小説らしくもあり、小気味よい。ドトールで読んでて、ニヤリとしてしまった。

 今年は特撮が多くて、これから“CASSHERN”『デビルマン』『鉄人 28 号』と続くのだが、『ジョゼと虎と魚たち』の前にやっていた“CASSHERN”の予告では、中世風機械化帝国と耽美いう俺の苦手な雰囲気で、これはひょっとしたら見に行かないかもしれない。
『デビルマン』のキャッチフレーズ、「人間は庇護 (まも) るにたるべき存在か」の「べき」っておかしくない?





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