S
peak about
S
peech:
Shuno の方言千夜一夜
第389夜
「かだいい」の課題
友人から、懐かしい表現を教えられた。
「
かだいい
」である。
意味は、「かっこいい」。
おそらく、「型」が「いい」のだと思われる。
これは、中学生の頃によく使っていた。高校生まで使ってたかなぁ。つまり、80 年前後のことだ。
知っての通り、高校の学区というのは中学校の学区よりも広い。なのでいろんな方言が錯綜することになる。その中で、「
かだいい
」は使われなくなっていったんではないか。いや、記憶があいまい、というより、全く覚えてないので、そのへんはおいておく。
同じ時期に使われていたのが、「
ちかしい
」。
これは「なれなれしい」という意味。そんなことにまで口を出すな、というような使われ方もしたような気がする。「近しい」のだろう、きっと。
その、「
かだいい
」を思い出させてくれた友人は、「
ちかしい
」にはあんまりいい思い出が無い、と言う。それはそうだろう。拒絶の言葉だから。まぁ、使い方次第ではあるのだが。
これもおそらく同じ頃。
「
じゃげる
」。
実は
前
に「じゃける」と紹介してしまったのだが、「げ」の方が近い。
そのときは「
えへる
」「
こつける
」と並べて、「すねる」としてくくったが、「
じゃげる
」はいささか行動的と言おうか、泣き叫んだり暴れたりすることが多い。「ったく、なんだよもう!」程度でも言える。
中学校は弁当式だったが、牛乳だけは支給されていた (「支給」たぁ言わねぇなぁ)。
まぁ、元気な子供のことでもあるし、ビンを倒してしまったり、ということもあるわけである。
で、午後の授業で、匂いから、教師がそのことに気づいた。で、なんだ、暴れたのか、てな感じで、まぁ、ちょっとからかってやろう、という程度だったのかもしれないが、ネチネチと理由を問いただす。
キレた生徒曰く「
まがすことだってありますっ!
」
教師の方もそれにカチンときて、生意気な言い方だ! と、それこそ小一時間の説教になってしまった、ということがあったなぁ。
それにしても「
まがす
」ってのは便利な言葉だ。
「こぼす」で片付くほど少量ではない。この深刻さを表現する方法が全国共通語に無いのが不思議なくらいだ。
なので、上の文章では「ビンを倒す」という形で逃げている。
「かっこいい」という俚言があるかどうか
ググ
ってみた。
熊本に「
むしゃんよか
」というのがある。すっかり忘れていたが、ここのページでも
前
に紹介している。
現在の使い方はわからないが、もともとは「
武者んよか
」で、どちらかといえば、潔く公明正大正々堂々というタイプの人のことを言うのだが、現在は「かっこいい」という意味に特化しているらしい。
なので、「
武者んよか飛行機
」ということも言えるわけだが、その辺、どう見ても人を形容する語ではない「型いい」と似ているといえば似ている。
それ以外では、わずかに、静岡・沖縄・宮古の表現がヒットするくらい。
ひょっとしたら「かっこいい」自体が、方言的なるものとは相容れないのかもしれない。
これは思いつきで、詳しく説明できないし、したらしたで「突っ込みどころ満載」になってしまいそうな気がするのだが、さわりだけ言うと、ホテル最上階のラウンジで、方言を使って愛を語れるかどうか、という辺り。「かっこいい」というのはその辺の、つまり、かなり気取った世界に存在する言葉だと思うので、生活の言葉である方言で「かっこいい」を表現する、ということ自体が自己矛盾なのかなぁ、と。
なにしろ「恰好いい」と書くわけだから、中身や実用性を脇に置いた、外見だけの評価、ということでもあり、そういう評価をすることが認められるようになったのはいつ頃か、という、「かっこいい」という考え方の日本における変遷、というを調査・考察しなければならないのかもしれない。
*1
逆に、なんだが、「
かだいい
」は、人の生き方みたいなものを就職するのに使えるのかどうか。たとえば、年金の未納が露見した時点ですばやく長官なり代表を辞することができる、とか。あぁ、例えが悪いか。未納してる時点でかっこ悪いから。
やっぱりモノ以外には使いにくい。「型いい」という語源意識があるような気がする。デカレンジャーの変身ポーズとか、そういうのも「
かだいい
」は当てはまらないと思われる。
聞くところによると、バリトン伊藤、という秋田で活躍中のタレントがこの「
かだいい
」を好んで使うとか。俺、テレビ・ラジオとは縁の薄い生活をしているので未確認なのだが。
本当は、言葉に興味のある人間がそういうことではいかんのだけどね。
*1
仮面ライダーのサイクロン号はアクションには不向きである。カウリングの一部を外したり、細めにしたりしたサイクロンがあるのはそのためなのだが、それでもかっこいいことに変わりは無い。
(
↑
)
"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る
第390夜「
展翅板
」へ
shuno@sam.hi-ho.ne.jp