Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第336夜

ショウ ザ フラフ



 GW である。
 俺がレンタルされて通っている職場は、大企業のコバンザメ会社にふさわしく 10 連休である。
 が、俺が所属している会社はカレンダー通りなので、そこにレンタルされている我々は有給休暇を取得しなければならない。4 日も、である。
 しかも、契約でレンタルされている都合上、1 ヶ月あたり最低でもこれだけの時間は勤務しなければならない、という下限がある。暦で休みが多い月は、迂闊に病欠できない。

 五月といえばコイノボリ。
 これ、勘違いしている人がいやしないかと思うのだが、「鯉幟」と書く。ハタサシモノの「幟」であって、上空にたなびいてるからって「登り」や「昇り」ではないのだ。
 土佐では、これに巨大な布を追加する。まさしく「幟」なのだが、これを「フラフ」と言う。
 勘のいい方はお気づきであろう、“flag”である。正確にはオランダ語起源らしいが。
 検索エンジンで調べてみるとわかるが、まるっきり大漁旗である。さすが土佐。高知県立美術館ミュージアムショップのページに写真がある。

「富来旗 (ふらいき)」という単語があるらしい。これも大漁旗なのだが、やっぱり“flag”であろう。全国印染経営研究会の用語辞典を参照。
 宮古市のページにも記述があるところをみると、「富来旗」の方は地域方言ではないのだと思われる。*1
 というわけで、年末にやろうとして他に逸れた、外来語から入った方言の話。
 、港町で使う「ごすたん (go astern)」「ごーへー (go ahead)」なんてのを紹介したこともある。
 外来語云々というよりは、その現象自体が地域的に限られているために、方言となる、ということだ。山の中に大漁旗のあるはずがない。

 大阪弁では「プラッチック」と言うことがある。Yeemar さんの「ことばをめぐるひとりごと その11」によれば、「プラスチック」よりも安物、というニュアンスがあるらしい。
 まぁ、これが外来語だという意識はあるだろう。
 と思ったら、宮城工業高専の講座紹介で「プラッチック」を見つけた。担当者が大阪出身か、それともミスタイプか。
 なんか、工業製品の素材に関する説明とか、文体の高い状況で使われていることも割と多いような気がする。人によっては、「プラッチック」が正しい表現だと思っていることがあるかもしれない。

「卓袱料理」というのがある。「卓袱」は、現在では、朱塗りの丸いテーブルのことらしいが、中国語起源の単語らしい。確かに、現代の我々の感覚では「卓袱」を「しっぽく」とは読めない。なお「卓袱台」で「ちゃぶだい」と読む。
 思いがけず方言を見つけたが、大辞林に寄れば
(3)主に関西で、おかめそば・おかめうどんのこと。
 だそうだ。
 なお、俺には「おかめうどん」って料理はぴんと来ない。

 船に話を戻すが、「ミジップ」という単語がある。これ、“midship”で、車では「ミッドシップ」と言われる語だが、こっちは方言とは認知されていない。
 おそらく、規模によるのだろう。前・中・後、と分類しなければならないような大きな船が、生活に密着している、ということはあんまりなかったのだと想像される。「前進」「後進」だけだったら、船の規模とは無関係だ。
 逆の想像もできる。
 例えば、観光用の渡し舟なんかを想像してみる。船頭さんが「ごーへー」と言うのを耳にする、ということはありそうだ。だが、「船の中央部」である「ミジップ」というのは専門用語に属すると思われる。船舶関係者以外の人が耳にする機会はほとんどない。それで、俚言集に載らない、という可能性はないか。

 これはちょっと毛色が違うが、「ラーフル」。
 九州南部で言う、黒板消しのことだ。元は商品名。四国でも使うとか。これも検索してみて欲しい。数多くの研究がなされている。いやマジで。
 これ見て思ったんだが、あれは「黒板消し」でいいのか? 子供心に「『黒板消し』って黒板そのものを消すわけじゃねーよな」と思った記憶もある。そもそも、俺たちの時代、黒板は濃い緑だった。
 話が逸れた。「黒板拭き」という呼び方もあるようだ。これならわかる。
 これも研究がある。どちらにも触れているのが、「『ラーフル』考」。

 雄和町で、雄物川に長〜いロープを張って、大量にコイノボリを飾る、というイベントをやる。
 これ、全国でやっているようなのだが、どこが最初にやったんだろうなぁ。




*1
 宮古市の「菊田染工場」の
ホームページ。すごい URL だ。 ()





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