Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第245夜

距離




 こないだ名古屋に行ったときの話は既に書いた。
 そこでたまたま話をした二人が、同じような面白い反応をした。
 俺の言葉に聞きなれないアクセントを感じたからだと思うのだが、どこから来たのか? と聞かれた。秋田だと答えると、「えっ、秋田ですか。ひょっとして車で?」
 秋田から名古屋まで車で行ったら一体、何十時間かかると思っているのだ。

 実は、似たような反応を、東京でもされたことがある。
「あら秋田ですか。新幹線で?」
「いや、飛行機で」
「えっ、飛行機?!」
 この人の場合、秋田新幹線があることを知っているだけまだいいが、共通しているのは、どうやら飛行機というのは非常に特殊なものらしい、ということだ。
 その前に、長距離移動ということ自体が特別な行為なのかもしれない。
 この人の場合、飛行機というと海外旅行というイメージがある、というようなことを言っていた。国内線というものがあることは、知識として知っているわけだが、自分にとってはピンとこないというわけだ。

 今は飛行機で往復すると二万円ちょっとである。ちょっと前までは三万みなくてはならなかったのだが。俺が学生の頃、座席の急行が片道で一万円未満、かなりその水準に近づいてきている。
 去年から、ANAJAL とも一便づつ増えて、なんと一日 7 往復。この便が満席なら次の便で、ということができるようになってきた。秋田新幹線「こまち」は依然として人気である。
 これだけ人の往来が盛んであれば、人の言葉遣いに変化が出ているだろうかというと、どうもそんな感じがしない。
 恐らく、盛んに移動する人と、そうでない人とが画然と別れているからだと思われる。
 これは妹から聞いた話だが、友人が、たとえば宝塚の芝居を見たい、と思っても、とても言い出せる雰囲気ではない、というのである。それを強行すれば、あの娘は遊び歩いてばかりいる、と言われてしまう。
 若い人も必ずしも開放的でない、という話は『日本風景論』という本を取り上げたときに書いた。東京〜標準語的なものに対するコンプレックスがあるから、迎合したり、ことさらに否定してみたりする。これが柔軟な変化を拒む。
 そういう心根の問題がある。

 ワールドゲームズが、一向に盛り上がらないまま始まろうとしているが、これなんかも、コミュニケーション不全の一例ではないかと思ったりする。
 今日は竿灯祭りの真っ最中だが、そこでワールドゲームズの宣伝をしている。竿灯は 8/3〜6、ワールドゲームズは 8/16〜26. 竿灯で秋田に遊びにきた人が、その 10 日後にまた来よう、と考えるだろうか。つまり、この期間に秋田で宣伝するってのはあんまり意味がないのである。むしろ、今、秋田に関心がない人、現時点で秋田にいない人に攻勢をかけるべきだろう。そういう人の方が圧倒的に多いわけだし。
 そこに思い至らないあたりが、コミュニケーション不全だと思うのである。
 マイナーなスポーツばっかり集めた大会、という印象が勝っているようだが、ビリヤード・ボウリング・フライング ディスク・ローラースケートと若者や固定ファンのいる種目は多いし、パラセーリングのように見た目の派手な種目もある。綱引きなんてのは各地で行われている。動員の難しいイベントではない筈なのだが。

 おそらく、色んなレベルで存在する途絶や表面的な交流が解消されない限り、方言は残るのだと思う。

 方言は、相互の意思疎通という観点から見ると、ある種の行き違いである、と言える。
 それを楽しむことができる人もいれば、できない人もいる。「エキゾチシズム」をどう捉えるか、という問題である。例えば、海外の生活習慣を見聞きして「面白い」と言うか「変なの」と言うか、の違いであろう。
「積極的に解消するべきだと考える」人がいたとしても、現実問題として「解消することができない」人がいる限り、結果的に、この「エキゾチシズム」は不滅である。
 ちょっと前までは、言葉遣いから「山の向こうの人だ」なんてことがわかったりした。
 これは、往々にして、「よそ者」意識と結びついた。言葉が平均化することによって、よそ者を排除する行為が減るのであれば、それは受け入れるべきなのかもしれない。
 それに、秋田市内ですら、北と南で、わずかながら言葉遣いの差異は残っているらしい。いわゆる「方言の衰退」が事実としてあるにしても、本当になくなってしまうのはずっと先のことであろう。そうそう心配することはないのではないか。
 そして、それが強制ではなく、自然に起こるもの、あるいは方言話者自らの選択によるものであるとすれば、受け入れても構わないだろう、と思う。

 なんか暗いね、今日の文章は。



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