Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第243夜

青春デンデケデケデケ



 ここの所、本を読んでの感想ばっかりじゃないか、という声が聞こえてきそうな気がする。
 全くその通りなので、反論しない。
 月間 300 時間なんて勤務状況なので職場以外の人間と接することがほとんどない。に書いた通り、この職場は秋田弁を使う人はほとんどいないので、そこでインスパイヤされるということがないのである。
 たまに、県外に出て何らかの表現を耳にして、ということはある。名古屋もあったし、盛岡にも行っている。そういう場合、前日には、職場の人間と目を合わせないようにしてこっそり帰宅するのは言うまでもない。
 盛岡では、盛岡方言の本も買ってきたのだが。あぁやっぱり本だ。

青春デンデケデケデケ』は、まぁ改めて説明する必要もないと思うが、芦原すなお氏の直木賞受賞作である。映画にもなっている。監督は、河出文庫版のあとがきを書いている大林 宣彦。
 楽しくなかったわけではないが、もっと遊んどきゃよかった、という 10〜20 代を過ごした俺にとって、こういう青春ものは後悔の念を呼び起こすためちょっと苦手な分野で、割と避けていた、という面があるのだが、NHK の「ふるさと日本のことば」で作者が出てきたので、どれ読んでみるか、と思ったわけである。思ったのが去年の 10 月だから、まぁ長いこと。

 勿論、ここで、この作品から拾った語彙を並べていくことは可能である。
 なにせ、全ての台詞が香川弁なので豊富である。「けっこい (きれい)」「しゃっちむり (無理やり)」「あんたや (あんたたち)」などなど、今までに聞いたことのない表現が並ぶ。
 が、まずは読んで欲しい。文庫で 220p、\490 と今どき珍しく \500 を切る位の量であるから、すぐに読める。文章も平易だ。
 ただ、ロックにかける情熱、が理解できないとひょっとしたら辛いかもしれない。ロックに限らず、好きなモノに投入する努力と言うか、没入する精神と言うか。つまり、少年や少女であったころを気持ちを忘れたのではなく、捨ててしまった人にはキツい小説であろう。そういう人は安直にチーズでも探していてください。

 この文章には特徴がある。全体として、パソコン通信的、あるいは Internet 風なのである。
 例えば、主人公がバンドを作ろうとして友人を説得するシーンがあるのだが、こんな感じになっている:
「う〜〜ん」と声が揺れているのはぼくが肩をつかんで揺すぶっているからだ。
「なぁ!」
「う〜〜ん」
 下の二行は本当に活字が大きい。こういう表現方法は、あちこちのホームページで見ることができる。あるいは、ここのところ嫌いだという人が増えてきた、バラエティ番組における字幕 (発言をいちいち字にするあれ) に通じるものがあるかもしれない。
 こんなのもある:
《A Hard Days Night》(ビートルズがやって来るヤア!ヤア!ヤア!)を口笛で吹いた。(この日本語のタイトル、なんとかならんか。)
* 「ビートルズがやって来るヤア!ヤア!ヤア!」は、本来は“《A Hard Days Night》”のルビ。
 この、括弧内に本題から離れた気持ちを入れたり、あるいは突っ込みを入れたりする手法も、ネット上でよく見かける。
 この小説が発表されたのは 1991 年で、パソコン通信がビジネスで使えるかどうか、なんて話があった頃、使っている人は、使える、と考えていたが、使ってない人はオタクの楽しみと思っていた時代である。作者がその世界に詳しいかどうかは不明だが、表現方法を先取りしていた、とは言えるのではないか。

 bk1 というオンライン書店がある。
 そこでは、書籍のデータベースを開放していて、各書籍に対して自由にリンクを貼っていいことになっている。このホームページからも何件かリンクしているが、それを発展させて、自分なりの書店を作ろう、というブリーダー プログラムというのを展開中。それをやってみようかと思っているのである。
 方言や日本語に関する本を並べる予定なのだが、さて、どれだけ集まるものか。
 5 月からこのホームページにもカウンターが載っているが、それも、この計画の一環。誰も見ていないところでやってもしょうがないので、一体、どれくらいの人が見ているものか確認してみようというわけだが、25 人/日くらいだということがわかった。「ほぼ日刊イトイ新聞」の 1/140,000。微妙な線ではある。
 したがって、“Books Sigma”(仮名) が実現するかどうか、まだ未定。

 それにしても、今回は方言の話が少なかったな。
 まぁ、読んでみてください>『青春デンデケデケデケ



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