Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第182夜

ビジネスと秋田弁



 何度か書いたような気もするが、俺はプログラマである。この 4 月からとある会社にレンタルされて来ている。場所は秋田市の中心部。
 ここはソフト屋で、某有名メーカーの子会社である。

 秋田弁を使っている人がいない。
 最初、実は本社が東京にあって、転勤なんかも頻繁にある多国籍軍かと思ったが、そうではないらしい。本社は秋田にある。社員のほとんどは秋田出身者。
 飲み会があったので、この疑問をぶつけてみた。
 ・東京からの U ターン者が多いこと。
 ・I ターン者がそこそこいること。
 この 2 つが理由として上げられた。想像するに、子会社である以上、東京にある親会社から発注される仕事も少なくないはずで、社内で全国共通語を使う機会も多いだろう。
 俺としては、この 3 つだけでは、秋田弁を使う人が一人もいないことの理由にはならないような気がする。なにせ、俺のように他の会社からレンタルされてきている人もたくさんいるのだが、本当に秋田弁利用者が一人もいないのである。この辺は今後、少しづつ探っていきたいと思う。

 U ターン者の件だが、俺自身がまぎれも無い U ターン者なので(A ターンという言葉も最近は聞かなくなってきたなぁ。使ってはいるみたいなのだが)一応、その事情はわかるつもりだ。ま、人それぞれなんだろうけど。
 秋田を離れて別天地 (主に東京) に向かうという気持ちを持った時点で、やはり秋田弁は使わなくなるものである。無くなりはしないにしても、減るのは事実。これは、色んな調査でも明らかである。
 盆暮れに帰省し、その間だけは秋田弁に戻るにしても、東京生活が長くなるにつれて東京弁〜全国共通語の使用機会のほうが圧倒的に多くなってくる。
 その結果、「熱い!」とか「しまった!」とかいうような、つい口をついて出るような表現であっても、秋田弁ではなくなってしまう。
 勿論、U ターンしてくるなり秋田弁の洪水なわけだから次第に戻っては来るのだが、俺みたいに、秋田弁の敬語をうまく操れない、なんてことになると、客や上司の機嫌を損ねないようにしようと思ったら、怪しい秋田弁よりも、怪しい共通語の方がまし、ということになる。
 また、これは全国的な傾向だが、敬語体系のきちんと整った方言であっても、共通語を使用することによって敬語とする、という現象がみられる。これも後押しすることになるだろう。

 この会社では、ソフト屋らしく、大事なファイルを削除したのパソコンが落ちたのとアクシデントはしょっちゅう起きるわけだが、「さい」も「うだで」も聞こえない。
 特有の事情としては、創立期に U ターン者を多くとったことがあるらしい。重役の一部が秋田の人間ではないらしい。とりあえずは全国共通語を使うことになるであろう。そういう環境に途中で入ってきた人は、やはり全国共通語を使うだろう。そういうことの積み重ねで現状があるのではないか。

 一方、2 月頃に聞いた話だが、日本一メタルカラー密度の高い大田区の町工場地域に、秋田弁が共通語となっている会社があるらしい。重役から現場まで秋田関係者で占められているらしいのだが。
 大阪に本拠のある大企業で大阪弁が共通語になっているというような話はよく聞くが、秋田弁というのははじめて聞いた。
 ま、噂を聞いただけで事情は良くわからないのだが、なぜ東京の人間とビジネス トークをしなければならない状況にあって秋田弁を使いつづけるのか。その辺を是非、聞いてみたいものである。

まず 裏の蓋開げで、こやして カード挿すなや。かでがったら、ぐぐっと 押つけでやればい。なもだ、そ簡単にだば壊いね。挿したら、蓋閉めで、コードふつけて、電源へでやればいの。そいだげ(*)
 技術系の話を方言ではしにくい、ということはない。




「まず 裏の蓋を開けて、こうやって カードを挿すのよ。固かったら、ぐぐっと 押してやればいい。いやいや、そう簡単には壊れないよ。挿したら、蓋を閉めて、コードをくっつけて、電源を入れてやればいいの。それだけ」()




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