Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第163夜

指示代名詞〜連体詞−秋田弁講座プロジェクト−




 実は、指示代名詞の基本的な点については既に触れた。
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 標準語同様「こそあど」で変化する。
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 これでおしまいである。連体詞に進む。


活用のない、自立語の一種。もっぱら体言 (名詞・代名詞) だけを修飾し、主語・
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述語になることはない。「ある人」「この人」「たった一時間」「去る三月」では「ある・
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この・たった・去る」など。文語では、「この」「その」「あの」は代名詞と助詞とに分
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けて、連体詞としない。講談社学術文庫 国語辞典 (初版、1979)』
 もうおわかりかと思うが、指示代名詞から連体詞に流れてきた理由は、「こそあど」で
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関係があるからである。「これ・それ・あれ・どれ」が指示代名詞であるが、「この・その・
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あの・どの」は連体詞だ。
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 「こんな・そんな・あんな・どんな」というのもある。これは、「こんたそんたあんた
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どんた」となるが、これに why や how に相当する「」が加わり、「なんた」というのも
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登場する。
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 「そんた」に限っては「すった」と言う地域もある。「こったそったあったどった
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なった」というのもあるにはあるが、語気の違い、という気がしないこともない。


 それぞれに「」のつながった形もある。「こんたらそんたらあんたらどんたら
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である。
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 これには、マイナスのニュアンスが加わる。
勉強してらがど思えばこんたら漫画見でらなが !
勉強してるかと思えばこんな漫画なんか見てるのか !
 というような具合。蔑視というか、嫌悪感というか、そういう感覚が付加される。


 「こいんたそいんたあいんたどいんた」という形もある。「こういった」「この
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ような」あたりとの関連が想像される。


 そう言えばんだ」の件。
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 「そうだ」を「そんだ」ということがある。いや、秋田ではあまり聞かないが、全く聞
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かないこともない。
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 この「そ」が脱落した、と考えたらどうだろう。世にも珍しい「ん」ではじまる単語の
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謎が解けるのではないだろうか。


 「こそあど」以外の連体詞については、単に訛るだけ、と考えてよい。「たった」「去
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る」などはそのままだ。
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 他に連体詞としては「あらゆる」「いわゆる」「いかなる」「きたる」「大きな」「小さな」(*)
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「おかしな」「とんだ」「たいした」あたりがあるが、ほとんど違いはない。
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 尤も、「去る」や、「あらゆる」から「きたる」までの単語、「とんだ」「大した」について
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は、文体の高い場面で使用される単語なので、俚言形があることを期待する方が間
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違っているとは言える。
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 「大きな」「小さな」は連体詞ではなく「おっきぃ」「ちっちぇ」という形容詞を使うし、「お
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かしな」には「おがしげだ」という形容動詞も使える。
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 「大した」については、そのままの形で副詞としても機能するということは付言してお
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こう。「大した たまげだ(非常に驚いた)」「大した良 (い) 」などとも言う。
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 ついでにいうなら「とんだ」を古語辞典で引くと、「とんだ面白かった」という例文を挙
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げて、副詞でもあったことが示されている。意外に、連体詞と副詞の関係は深かった
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のかもしれない。



*:『大辞林 (初版、1989、三省堂)』によれば、「大きな」は「目の大きな人」という形で
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 述語句を形成することもあるので連体詞としない、という立場もあるらしい。()


参考:『角川新版古語辞典(1989、角川書店)』



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第164夜「雑誌で取り上げる方言−1999−」

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