PORSCHE BOXSTERをご紹介します
  コードナンバー=「986」
  RRの911とは違い、ボクサーエンジンをミッドシップにレイアウトしたロードスター
  「ボクスター」をご紹介します。
  ボクスターとの出会いから、卓越したパッケージとインプレッションを混じえて・・・
  私見だらけなので、「話半分」でご笑覧下さい。

Prologue Introduction Impressions SpecData Topics

986・・・
ボクスターは、モデルナンバー「986」として1997年に本国デビューしています。空冷最後の911であるモデル993のデビューが1993年。この年のデトロイトショー(NAISA)において、ボクスタープロトモデルが公開されました。モデルナンバーの小さいボクスターの方が先に開発されていた事になります。当初は、993と同様リアにマルチリンクサスペンションを取り入れたものであったようで、書籍によると1982年バイザッハのテストコースでは、エクスペリメンタルモデルが走行していたとか・・・ここでは、3.2LエンジンM96 24を搭載したMY2003のBOXSTER S(18インチ スポーツシャシー車)を中心に紹介していきます。

パッケージデザイン・・・
車としての素質を決定するパッケージデザインは、ミッドシップレイアウトと後輪駆動。オープン2シーターという事になります。エンジンやドライバー等の重量物をホイールベース内の車体中央に配置する事は、Z軸上のヨーの発生と収束を早める点で、優れています。後輪駆動とする事で、ハンドリングにも貢献しています。ソフトトップのオープンカーとする事で、高い位置での重量が軽減でき、車体重心を低くする事ができます。X軸上に発生するロールを、車体重心とロールセンターの高低差を少なくする事で、軽減できるわけです。これに加えエンジンは、水平対抗エンジン。エンジンブロックやシリンダーヘッドがクランク軸と同じ高さとなり、これも重心を下げる事に貢献します。左右の重量バランスやY軸上の不要な動きをなくすエンジンとトランスミッションの縦置レイアウトも採用しています。911に代表されるように、グランドツーリングに拘ったポルシェが、このような二人乗りのロードスターをリリースできたのは、販売台数の低迷に喘ぐ自動車業界の中で唯一成功を収めていたMAZDAミアータ(ユーノスロードスター)の存在がありました。ボクスターは、4座席に拘らないポルシェ・・・それでいて914での轍を踏まない為にパワフルなボクサーエンジンを搭載している。のちに発表される水冷911との部品共有によるコスト削減と比較的安価な価格設定。このような要因が911以外での成功をもたらしたものと考えられ、数あるロードスターの中でもっとも優れたスポーツ性能を持つ車となっているポイントだと思います。
ボディサイズL/W/H 車両重量(F/R比) ホイールベース トレッドF/R WB/トレッド比
4320×1780×1280 1370kg(46:54) 2415mm 1465/1504 1.627

ミッドシップ・・・
ミッドシップレイアウトである事のメリットは、既に書きましたが、ポルシェ社のサイトでもフィロソフィとして紹介されています。「このモデルの起源は、ポルシェ創成期のロードスターモデルにまで遡ることができます。すなわち、1948年に誕生した伝説の356/1であり、あのレースの覇者550スパイダーです。」やりたくてもできなかった事。グランドツーリングカーに拘ったポルシェ社として長年の夢がボクスターによって形にする事ができた・・・等の記述も見られました。ベース車(?)としたRRレイアウトの911の駆動系を縦置ミッドシップした事によるメリットが加わり、一部のミッドシップカーがベース車となるFFコンポーネントをミッドシップしたものより、一枚も二枚も上をいく運動性能を持つ事ができました。911と同じ水平対抗エンジンを組み合わせた事による動力性能も持っています。ミッドシップ・低重心。良い事づくめのミッドシップにもデメリットが存在しています。整備性の悪さと熱対策です。水平対抗エンジンであるがためにプラグ交換さえ、気軽に行えません。これにミッドシップが加わるとエンジンを拝む事すらできない状態です。閉鎖されたエンジンルームでは、熱が逃げません。環境対応の必要性も加わり、必然的に水冷エンジンを搭載する事になります。クロスフローと呼ばれる水冷システムとした事で4バルブヘッドとなり、油冷とも言われた空冷エンジンの持病であったオイル漏れもオイルタンクをクランクケース下部に設置したセミドライサンプとする事によって、余計なパイプ類を撤去、クレームやメンテナンスを軽減できる事になりました。

ボクサーエンジン・・・
独特な水平対抗エンジンを四輪車に搭載しているのは、ポルシェ社と富士重工しかありません。テスタロッサや512TRは、180度V型なんです。ピストンが水平に動き左右対抗している仕組みで「BOXERエンジン」とも呼ばれています。V6やL6と同じようにHO6と略される事もあります。このボクサーエンジンは、対抗するピストンが互いに振動を打ち消し優れた回転バランスを保つ事が可能で、滑らかな回転フィールとリニアなレスポンスを得る事ができると言われています。またエンジンブロックやシリンダーヘッドをクランクシャフトと同じ高さにできる為に、車両搭載時に車の重心を低くする事に貢献できます。ポルシェ社では、このようなコンパクトなエンジンをアルミで作る事により、軽量化も図っています。優れた設計のエンジンですが、大きな弱点も抱えています。整備性の悪さ、ロングストローク化ができない等です。シルキーシックスをイメージするBMWでもバイクには水平対抗エンジンを使っています。左右が開放されているバイクに搭載する事は、整備性の向上に繋がるからです。車のように限られたエンジンルームでは、プラグレンチを使うにも苦労する事になります。その上低速トルクを稼ぐ為のロングストローク化も、車幅の制約があり難しい問題となります。ポルシェ社は、排気量を大きくしたり効率の良いパッケージを考えたりして、むやみに車体重量を上げないようにしながら、トルク不足を解消しています。また公差と呼ばれる各部品の製品誤差を極力少なくするようにして、合体部品であるエンジンの完成度を向上する努力をしているようです。MY2003では、マネージメントシステムに32ビットのモトロニックME7.8を採用し、吸気バルブタイミングを連続可変させるバリオカムを装着していますが、リッターあたり81.8psとなり、まだまだ改良の余地があると思われます。

エンジン形式 出力/トルク 車両重量 PWレシオ ミッション
水平対抗6気筒3179cc 260ps/6200、310Nm/4600 1370kg 5.27kg/ps 6MT

最高速度(MT車) 0-100km/h加速性能 0-160km/h加速性能 80-120km/h加速性能
264km/h 5.7秒 13.2秒 10.0秒(MT6速時)

冷却と潤滑・・・
ミッドシップでは、熱対策が課題となります。エンジンをいかに冷却するか・・・ポルシェ市販車のフラットエンジンでは、初となる水冷エンジンとする事でこの問題を解決しています。レーシングエンジンと同様のクロスフロークーリングシステムを採用したボクスターは、各シリンダーに均等にクーラントが循環するようになっています。ラジエターはフロントバンパーの限られたスペースに三分割されています。クーラントは、ミッドシップエンジンからセンターフロアトンネルを通りヒーターユニットを経由してラジエターへと流れ、冷却された後再びフロアトンネルを通ってエンジンに戻る事になります。このため交換不要となっているクーラント量は、22Lにもなります。
オイルサプライは、インテグレーテッドドライサンプと呼ばれるセミドライサンプシステムを採用しています。クランクケース下部に設置したサンプからオイルプレッシャーポンプによってエンジン各部にオイルが送られ、各バンクに設置したオイルリターンポンプがシリンダーヘッド内のオイルを吸引してスワールポットを通過させてサンプに戻すシステムです。水冷エンジンとする事で、オイルタンクをエンジンと離す必要がなくなり、結果としてパイプ等からのオイル漏れをなくす事ができます。

ブレーキ・・・
ブレンボ社が製作しているハードウェアは、剛性感に優れたモノブロックキャリパーとローター、それにパッドとなります。モノブロックとした事でパッドの動きに遊びがなく、カッチリした剛性感を得る事ができます。また素材をアルミとする事で熱伝導性に優れ、キャリパー自体を軽くする事ができます。ローターは、熱を逃がしやすいドリルホールを開けたベンチレーテッドタイプです。フロントは、空気の流れを考えてらせん状にサンドイッチする事で、より効率的に熱を逃がす事ができるようになっています。リアローターにも同様のドリルホールが開けてありますが、パーツ番号に左右差はなく、放射状のベンチレーションとなっています。ローターサイズは、ボクスターよりも重量、エンジンパワーに勝っている996カレラと同じ大きさのフロント318mm、リア299mmを採用しています。これに加えてフロントでは、バンパー下から入った空気を、ローター内側に導くように設計されています。走りに拘ったポルシェならではの設計だと思います。

キャリパー形式 フロントローター径 リアローター径
アルミ製モノブロック対抗4ピストン 318×28ドリルドローター 299×24ドリルドローター

スタイリング・・・
一見してポルシェとわかるCd値=0.32となるスタイリングは、特に変わったところはありません。フロント部分は、996と部品を共有している為にMC前の996とはバンパー以外での区別がつかないものとなっています。ドア、フロントスクリーンから後が、ボクスター専用デザインとなります。ホイールベースはカレラの2350mmに対し、キャビンスペースやミッドシップエンジンルームを確保する為に65mm延長されています。全幅は、カレラ1770mmに対し1780mmとなり、リアフェンダーのボリュームが増えています。これは、閉鎖的なミッドシップエンジンルームへのフレッシュエア取込の為と思われます。全体的は、ロングノーズ・ショートデッキではなくセダン的な3ボックスのイメージです。全長4430mmのカレラに比べ、110mm短い全長で後輪軸から後のリアオーバーハングを切り詰めたデザインとなっています。MY2003で形状変更されたフロントバンパー内には、ラジエターやACコンデンサー等が収まっています。フロントボンネット内には、スペースセイバータイヤと130Lのラゲッジスペースを確保しています。やや縦長で深さもある形状です。バルクヘッド前には、64Lの燃料タンクとバッテリーエリアがあります。キャビンスペースでは内部部品を996と共有したダッシュボードがあり、ボクスター独自のラガーイブリッジ下には、3眼メーターが設置してあります。ステアリングは剛性面からテレスコ調整のみ。ABCペダルは、アクセルがオルガンタイプですが、ブレーキとクラッチは、吊り下げ式のペンダント型となります。シートの着座位置は、高さ調整ができますが、乗用車に比べると低い位置になります。その後に転覆時の安全確保のため超高張鋼でできたロールオーバーバーが設置されています。ドライバーのヒップポイントくらいの高さにマウントされたエンジンの上には、Z字状に畳まれてわずか12秒で電動収納されるソフトトップの格納スペースがあり、130Lのラゲッジスペースとエンジンオイルフィラーとスティック、クーラントリザーバを備えたトランクルームへと続きます。トランクルームは、下部にミッションケースを設置しているために、浅く横に広い形状となります。トランクエンドには、120km/hで上昇し、80km/h以下に速度が落ちると格納される電動式のスポイラーを備えています。センター2本出しとなるマフラーの熱対策としてリアバンパー下は、スリット状に形状変更されました。ボディ下部は、ダウンフォースを得るためほぼまっ平らにアンダーカバーで覆われています。

車両重量・・・
MY2000として1999年秋にデビューしたボクスターSは、1295kgの車両重量が公表されています。その後MY2001からは、1340kgとなり、フェイスリフトを受けたMY2003では、1370kgとなりました。デビュー当時「設計は良いのに・・・」と評された事もあるボクスターですが、「最新のポルシェが最良のポルシェ」の言葉通りの進化を続けているようです。とある試乗記事に「2001モデルは、ややハードな足回りがその後かなり柔らかくなり・・・」とありました。はじめにショックアブソーバーやスプリング、スタビライザー等のサスペンションを改良し、その後ボディの剛性を向上させたのでは???とも考えられるインプレかも知れません。MY2003の車検証記載では、前輪軸荷重=630kg、後輪軸荷重=740kgとなっており、前後比では46:54の重量配分となります。

車両重量 軸荷重(F/R) 軸荷重比 車両総重量 最大総重量(F/R)
1370kg 630/740kg 46:54 1480kg 1630kg(775/940kg)

装備・・・
スポーツカーといえど快適装備は、準備されています。正規輸入車ではフルオートエアコンが標準で装着されています。イモビライザーも標準でSには、リモコンドアロックと赤外線式のアラームシステムも標準となります。光ケーブルを使用するMOSTデータバスを中心としたCD/RADIOユニットやサウンドパッケージも標準装備で、BOSEサウンドシステムを選択する事もできます。オプション品目は多種に渡り、PSMやリトロニックヘッドライト、ウィンドウディフレクター等、標準としても良さそうなものもオプションとなります。また911カブリオレでは、標準装備となるハードトップもオプションで選択する事が可能で、スタイリッシュなホイールや強化サスペンションキットのスポーツシャシー、レザーやカーボン、アルミなどのインテリアパッケージ。燃費表示のできるオンボードコンピューター、速度設定ができるオートドライブ、パークアシストコントロール、CDチェンジャー等を選択する事が可能です。ボディカラーまでもオーダーする事が出来るほどでないものは・・・純正ナビシステムくらいでしょう。

クレスト・・・
ボンネットやステアリングホーンパッドに輝くポルシェの社章・・・クレストマーク・・・中央にはシュツットガルト市の市章である馬が飾られています。ちなみにフェラーリの跳馬も出所は、同じとされています。左上と右下は、鹿の角です。これは、シュツットガルトのあるバーデン・ヴュルテンベルク州の州章を飾ったもので、ドイツプロサッカーリーグであるブンデスリーガのVfBシュツットガルトのマークにも三本飾られています。