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テオフィリンの相互作用  

昭和63年7月1日号 No.25

   テオフィリン(テオドール等)は、気管支拡張剤として気管支喘息、気管支炎等に広く用いられていますがH2レセプター遮断剤のシメチジン(タガメット)やマクロライド系抗生物質(エリスロマイシン)と併用すると血中濃度が上昇することが知られています。

 また、最近では、一部のキノロン系抗菌剤を併用することにより、著しく血中濃度の上昇することも報告されています。

{参考文献} 薬局 1987.10

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 シメチジンによるテオフィリン血中濃度上昇の理由はテオフィリン代謝の重要なステップである脱メチル化をシメチジンのイミダゾール基が阻害し、テオフィリンの代謝クリアランスを減少させる為と予想されています。テオフィリンの血中濃度が高くなりすぎると痙攣や死を招くこともあるので、十分注意する必要があります。

 一方、エリスロマイシンとの併用ではテオフィリンの体内での消失半減期が延長し、クリアランスが減少する傾向が見られます。このことから、テオフィリンあるいはアミノフィリンを服用している患者に、エリスロマイシンを併用した場合も作用の増強や中毒の発現の見られる可能性があります。

 キノロン系抗菌剤との併用の報告では、エノキサシン(フルマーク)では自覚症状を伴う著明な血中濃度の上昇、オフロキサシン(タリビット)では自覚症状を伴わない軽度の血中濃度の上昇が見られたとのことです。

 その他にも、テオフィリンは喫煙の有無によっても影響を受け、喫煙者では、非喫煙者よりも血中濃度が低くなることを考慮する必要があります。


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禁煙による薬物相互作用の1症例

2001年12月1日号 327

 喘息の患者さんで、医師に禁煙を薦められ、ニコレットを使用していたところ、テオフィリン中毒になる症例がありました。

・喘息治療にテオフィリンを処方
・禁煙を薦められる。
・ニコレット(薬価未収載)を院外処方により使用。
・頭がふらつく(本人は禁煙のせいと思いこんでいた。)
・テオフィリン中毒(25μg/mL)


 喫煙は、薬物代謝酵素の1つであるCYP1A2を誘導します。禁煙することによって薬物代謝酵素が元の状態に戻り、薬物代謝酵素が減り、服用していたテオドール錠が、喫煙時よりも血中濃度が上昇し、テオフィリン中毒になったというものです。

 参考資料提供:三木市民病院 

 禁煙補助薬のニコレットやニコチネルTTSの主成分は、タバコと同じニコチンで薬物代謝酵素CYP1A2を誘導します。したがって、最初のうちは、喫煙者と同じでCYP1A2によって代謝されるテオフィリン製剤(テオドール錠、ネオフィリン、テオドリップ等)が速やかに代謝され、血中濃度が低くなります。

 しかし、禁煙の習慣が身について来るうちに、禁煙補助剤の量が減少していき、次第に酵素誘導もされなくなってきます。服用しているテオドール錠の量は変わらないまま、代謝酵素の量が減ってくるにつれテオフィリンの濃度が上昇していきついにはテオフィリン中毒に陥ってしまったというのが今回の症例です。

 ニコレットは市販薬としても販売されるようになり、処方箋なしで入手できるようになったため、このケースのような薬物相互作用は、病院でチェックできない可能性もあり、よりきめの細かい患者情報の収集が求められると思われます。

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 酵素誘導

 薬を飲むことによって、代謝酵素が誘導される →薬が早く代謝される。→効果が弱くなる。

<薬物代謝酵素450を誘導する代表的な薬物>

CYP1A2:オメプラール錠、喫煙
CYP2C9:フェノバルビタール、フェニトイン、リファンピシン
CYP2C19:リファンピシン
CYP2E1:イソニアジド、飲酒
CYP3A4:フェノバルビタール、フェニトイン、テグレトール錠、リファンピシン

* 但し、プロドラッグでは、作用は増強します。〜これはプロドラッグは代謝されて薬効を発揮するからです。(例:テガフール〜サンフラールS、フトラフール、UFT、ティーエスワン等)

[テオフィリンの中毒症状]

 テオフィリン血中濃度が高値になると,血中濃度の上昇に伴い,消化器症状(特に悪心,嘔吐)や精神神経症状(頭痛,不眠,不安,興奮,痙攣,せん妄,意識障害,昏睡等),心・血管症状(頻脈,心室頻拍,心房細動,血圧低下等),低カリウム血症その他の電解質異常,呼吸促進,横紋筋融解症等の中毒症状が発現しやすくなります なお,軽微な症状から順次発現することなしに重篤な症状が発現することがあります。


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NF-κBと気管支喘息   テオフィリンとNF−κB

2003年5月1日号 No.359      NF-κBの関連記事はこちらにもあります。

      
 気管支喘息の病態形成には、気道粘膜での炎症が重要な役割を持っています。
 アレルゲンによって刺激を受けた気道粘膜では、肥満細胞や好酸球などの炎症細胞が
サイトカイン(細胞が産生する蛋白)や組織障害性蛋白などを産生しますが、このとき細胞内では、炎症性刺激によって活性化されたNF-κB、AP-1などの転写因子が、サイトカインなどの様々な遺伝子発現を亢進させています。

 喘息患者では、特に転写因子NF-κBが著明に亢進していることが明らかにされています。
 本来、
サイトカイン類などの炎症性因子は、免疫に関与する細胞同士の相互作用をになう因子であり、アレルゲンや微生物に対する免疫機構で重要な役割を持っています。しかし、これらの因子を介した過剰なアレルギー反応や炎症は、気管支喘息での発作や気道狭窄のように不都合な現象を生じさせています。

 肥満細胞や好酸球は、サイトカインに対する受容体を細胞膜に持っています。他の細胞もしくは自己の産生したサイトカインを受容すると、この情報が細胞内シグナリングを介して核内へと伝達され、各種の遺伝子の転写が亢進し、その遺伝情報に基づいて新たなサイトカイン、
ケモカイン、細胞接着分子などが産生されます。

 この時、核内で遺伝子情報の転写活性を調節しているのが「転写因子」です。気道炎症で重要とされている転写因子には、NF-κBやAP-1、NF-ATなどがありますが、肥満細胞や好酸球の転写因子が活性化された状態にあるということは、すなわち炎症反応の行進を示唆していると考えられます。

* 正常患者およびCOPD患者では、NF-κBの活性化は認められず、喘息患者では明らかな活性化が示されています。

 NF-κBを介する遺伝子転写亢進によって産生される因子は、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞障害性蛋白、細胞接着分子、免疫に関与する細胞膜受容体など多岐に渡っています。

<テオフィリンの作用>

 テオフィリンは、キサンチン系の気管支拡張剤ですが、近年の研究で抗炎症作用を有すると考えられ肥満細胞を用いた実験でもNF-κB活性化の抑制、TNFα等の抑制などの効果を示しました。

PDE阻害阻害→cAMP上昇→PKA(プロテインキナーゼA)活性化→NF-κB抑制

 抗IgE抗体やTFN-αによる刺激でNF-κBは活性化され、抗炎症作用を併せ持つテオフィリンにはこうしたNF-κBの活性化を抑制する作用が認められています。

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 ステロイドによる喘息治療では、抵抗性の発現や用量増大などの問題が指摘されています。最近では、ステロイド抵抗性の分子的メカニズムに、転写因子の関与が示唆されており、ステロイド分子は細胞内膜へ直接浸透し、細胞質内でステロイド受容体と結合しますが、細胞に対する炎症性の刺激が増大にするにつれ、NF-κBなどの転写因子が相互作用すると報告されています。

 このことから、ステロイド以外の薬剤による転写因子の抑制によって、ステロイド抵抗性が改善されることが期待されます。

{参考文献}  第14回日本アレルギー学会春期臨床大会

転写因子とは、遺伝子発現の初発段階である転写(transcription)の過程を調節している因子のことです。

 NF-κBは、アレルギー性疾患の慢性炎症に重要な役割を果たしていると考えられています。
 NF-κBの活性化に寄与する因子は、サイトカイン以外にも、活性酸素、ウイルス、抗原などによる免疫刺激があります。

       * NF-κBの関連記事はこちらにもあります。


医学・薬学用語解説(ノ)

     脳内移行を決める要因(抗ヒスタミン剤の眠気)は
こちらです。


2001年12月1日号 No.327

CUA

プラセボはオズの魔法使いなのか(2)

 筆者の家では、月に1回石切神社に行きます。大阪では古くから、石切さんと親しまれ、いぼや腫れ物の神様とされているため、多くの病人が絶えることなくお参りをしておられます。ここに訪れる人は、病院では治らないと言われた癌患者さんも多くおられます。ひょっとして、ここは下手な病院よりも効果があるのでは、と筆者は密かに思っています。なぜなら、お参りをした人たちは、お祓いをしてもらいそれに満足しておられるからです。

 ところで、薬物治療の経済性を表現する方法として、CUAというものがあります。
CUA:cost-utility analysisは、「費用-効用分析」と訳されています。一般的に、経済学で使われる「効用:utility」とは「選好」を意味し、例えば、消費する費用やサービスの組み合わせによって得られる満足の度合いとして数量的に示されます。これを医療で考えると、効用は個人の健康に関する価値(選好)を示す1つの指標であると言えます。

 また効用は医療サービスを受ける患者とその家族の生活の質(QOL)の変化を表現します。各個人の主観的価値観(選好)によって健康効果の価値を判断し、QOLを評価します。ですから、たとえ同レベルの身体的・社会的・情緒的機能を有しているとしても、個人によってQOLの評価は異なります。

 つまり、患者さん個人の満足度を医療評価とすることができるわけです。極端なことを言えば、プラセボ薬で患者さんが満足すれば、それはそれで評価されても良いのかもしれません。

 プラセボとは、元来、なぐさめるという意味だそうで、今流行の“いやし系”と通ずる点があります。しかし、プラセボとは偽薬のことで、患者さんに偽りつまり、嘘をついていることにかわりありません。石切さんの方が嘘をつかないだけましと言えるかもしれません。医療の本当の目的は、治癒であることは言うまでもありません。

 魔法が使えないオズによって、ドロシーはなぐさめられたかもしれませんが、ふるさとのカンサスに帰れたのは、本当の魔法の力によってでした。 (更に続く)

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{参考文献} 臨床と薬物治療 2001.9          医薬ジャーナル 2001.8
 


<<用語辞典>>

クレスト(CREST)症候群
CREST syndrome


進行性全身性硬化症(PSS)の中で

(C)calcinosis:石灰化症
(R)Raynaud's phenomenon:レイノー現象
(E)esophageal dysfunction:食道蠕動運動低下
(S)sclerodactyly:手指硬化
(T)telangiectasia:毛細血管拡張症
 がみられるものをCREST症候群と呼びます。

 本症は進行性全身性硬化症(PSS)と比べると、生命予後は良好で、PSSから亜型として分類する臨床的意味があります。


Netherton症候群
ネサートン症候群


 プロトピック軟膏 添付文書改訂理由より 2001.5

 外国で、Netherton症候群(ネサートン症候群)の患者で高い血中濃度が検出されたとの報告があります。


 Netherton症候群は、非常にまれにみられる常染色体劣勢遺伝性疾患で、魚鱗癬に随伴症状(毛髪異常、アトピー素因)を伴う疾患です。

 その魚鱗癬のタイプは先天性魚鱗癬様紅皮症あるいは線状魚鱗癬で、バンブーヘアー(竹様結節毛)として知られている毛髪異常がよく見られます。また、先天的に皮膚バリアー機構が欠損しているため、皮膚の状態に関わらず経皮吸収が高まり薬剤の血中濃度が上昇する可能性があります。

 プロトピック軟膏はアトピー性皮膚炎の治療剤で、このネサートン症候群の患者にそれと知らずに使用するケースが生じる可能性が有るため注意が必要です。

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