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片頭痛とP物質サブスタンスP

昭和63年3月1日号 No.17

 

P物質は、牛の脳や小脳から抽出した平滑筋刺激作用と血管拡張作用をもつ活性物質で補乳動物の脊髄後根に多く含まれ、感覚線維の末端から放出されることから、伝達物質かもしれないと言われていました。

 近年、このP物質が11個のアミノ酸からなるポリペプチドであることが分かって、人工的にも合成できるようになり、片頭痛との関係も明らかになって来ました。

[参考文献] 医薬ジャーナル 1998.2

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 片頭痛は頭部血管壁に分布する痛覚線維が興奮したときに現れます。この線維が興奮すると、軸索反射あるいはそれに類似した機序によって血管壁にP物質が遊離されます。このP物質の遊離により局所の肥満細胞からヒスタミンが放出され、片頭痛に伴う血管炎が助長されるものと説明されています。

 また、カルシウム拮抗剤が片頭痛の治療薬としても使われていますが、その作用はプロスタグランジンやロイコトリエンの生合成の阻害による血小板の凝集を抑制、さらに血小板のセロトニン放出を抑制することとされていました。

 他方、カルシウムイオンは神経線維の終末部から伝達物質が遊離されるときに要求されることから、カルシウム拮抗薬が頭蓋血管に分布する神経線維終末部からのP物質を遊離する可能性もあり、P物質が片頭痛発現と深く関りあっていることがわかってきました。

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サブスタンスP

substance P

同義語:P物質

 腸管および脳の抽出物中に見出された物質であり,11個のアミノ酸よりなるポリペプチド

 構造はArg‐Pro‐Lys‐Pro‐Gln‐Gln‐Phe‐Phe‐Gly‐Leu‐Met‐NH2.血管拡張,腸管,その他の平滑筋収縮、唾液腺の分泌促進、利尿作用などを示します。中枢ならびに末梢性ニューロンの脱分極に関与しています。

 脊髄後根で、第一次知覚神経の化学伝達物質であり、痛覚伝達に関与しています。

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出典:2000.7

 サブスタンスP(SP)は11個のアミノ酸からなる神経ペプチドで、1次知覚神経の神経伝達物質であり、主として痛覚情報伝達物質として知られています。

 サブスタンスPはその局在や機能から、喘息、炎症、痛み、乾癬、片頭痛、運動障害、膀胱炎、精神分裂病、嘔吐、不安など多種の病態に関与していると考えられています。

 また、サブスタンスPはストレスにより誘発される様々な行動や神経科学的反応にも関与しています。さらに、抗不安剤や抗うつ剤によってサブスタンスPの生合成の低下が引き起こされるという報告もあります。しかし、ヒトでの不安やうつ状態で、中枢のサブスタンスP神経系の過剰興奮が起きているいう確証はありません。

 最近、臨床でサブスタンスP受容体拮抗薬がうつ状態や嘔吐を軽減することが報告されています。
このサブスタンスP受容体拮抗薬の抗うつ効果発現のメカニズムは、ノルエピネフリンやセロトニンの機能亢進によるものではなく、さらにサブスタンスP受容体に対して各種抗うつ薬が親和性を持たないことから、モノアミン神経系を介さない従来の抗うつ剤とは全く異なるものであると考えられています。

 サブスタンスP及びサブスタンスP受容体は脳内に豊富に存在することが知られていますが、抗うつ効果発現の作用部位としては、扁桃体とその投射先である視床下部及び脳室周囲灰白質が重要であると考えられています。

 これらの結果は、サブスタンスP神経系がうつ病の発症機構に深く関わっていることを示唆しており、モノアミン神経系の関与が大きいとされていた神経疾患の改善に、神経ペプチドの拮抗薬が有用であるという新しい知見が示されています。

 また嘔吐に関わりのある脳幹の狐束核や再後野にサブスタンスPが高濃度に存在していることからサブスタンスP神経系が嘔吐反射に関与していると考えられています。

 シスプラチンは、副作用として激しい嘔吐が知られていますが、シスプラチンが血中のサブスタンスP料を増加させるという報告もあります。サブスタンスP受容体拮抗薬が血液脳関門を過できることやサブスタンスP受容体拮抗薬の狐束核への局所適応によりシスプラチンによる嘔吐が抑制されることから、この制吐作用は中枢性であると考えられています。

 抗癌剤に嘔吐抑制に汎用されている5−HT3受容体拮抗薬は遅延性嘔吐に対する効果が弱いことが知られています。一方、サブスタンスP受容体拮抗薬がシスプラチンによる急性及び遅延性嘔吐の両者に著明な抑制効果を示したことから、化学療法施行中の患者に対して、サブスタンスP受容体拮抗薬が有効である可能性が考えられています。

 サブスタンスP受容体拮抗薬の抗うつ作用と制吐作用の発現は、サブスタンスPのみならず他の神経伝達物質の新しい受容体リガンドを種々疾病の治療薬に応用できる可能性を示唆しています。


片頭痛・群発頭痛の発症機序

CGRP
Calcitonin geno-related peptide   関連項目:カプサイシン感受性知覚神経

出典:OHPニュース 2000.6

 片頭痛の発症は、頭蓋内外の血管が過度に拡張することが要因の1つと考えられており、また、片頭痛の病態にセロトニンが関与していることが解明されています。

 近年、コハク酸スマトリプタンをはじめとするセロトニン受容体作動薬の開発、研究に伴い、片頭痛の病態生理が徐々に解明されつつあります。

1) 血管説

 頭蓋内外の血管の異常が密接に関連しているとする説。

 何らかの誘因により、血小板に含まれるセロトニンが放出された時、頭蓋内外の血管が収縮します。しかし、セロトニンは、ただちにモノアミンオキシダーゼにより代謝され、血中セロトニン量が減少するため、反射的に頭蓋内内外の血管が異常に拡張します。

 これにより血管透過性が亢進し、血管壁に浮腫および炎症が生じ、それらが、痛みとして伝達され頭痛発作が起こると考えられられています。

2)三叉神経血管説

 三叉神経末梢から放出される血管作動性神経伝達物質が関与しているとする説。

 何らかの誘因による刺激を受け、頭蓋内外の血管を支配している三叉神経に、順行性と逆行性の伝導が生じます。この逆行性伝導により、三叉神経終末からCGRP(Calcitonin geno-related peptide:カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などの血管作動性神経伝達物質が放出されます。これにより、血管拡張、血管透過性亢進が起こり、血管周囲に神経原性炎症が生じます。この刺激が痛みとして伝達され頭痛発作が起こると考えられています。

 また、群発頭痛の病態生理についても十分解明されていませんが、片頭痛と同様に頭蓋内外の血管の異常拡張が大きく関与し、三叉神経血管説に類似した発症機序を示唆する報告が有ります。

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