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MBTとは

1999年10月1日号 277  

 

 MBT(molecule-based therapy)とは、疾患を分子レベルの異常としてとらえ、病歴及び生活歴、診察所見、臨床検査所見をもとにして、個人に適した食事指導を含めた生活指導、薬物の与薬を考慮するものです。

 分子とは遺伝子のみを意味するものではなく、電解質、神経伝達物質、ビタミンなども分子と考えて治療を行います。

{参考文献}治療 1999.6

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 MBTの治療戦略は個人の疾病に至った素因を分子レベルで考慮して、すべての疾患を全身的疾患としてとらえ、全身の物質代謝を改善することによって治療を行うことを目指すものです。

 まず治療の標的となる分子(Target molecule:TM)あるいは細胞器官・神経系などのシステム(Target system:TS)を決めることから始まります。MBTでのTMあるいはTSは個人(患者)にとって不足しているかあるいは機能が低下していると考えられるものです。

 次にTMあるいはTSに対して改善効果が期待できる物質(分子)を選定します。これをFC:fighting chemicalsまたはFM:fighting moleculesと呼びます。

 FC、FMを含むものは栄養素、食品あるいは薬物です。これらの物質は前駆物質であってもかまいません。

 MBTでの基本的な治療戦略は、FCあるいはFMを補充することであり、FC、FMは体内から取り除く物質あるいは分子を意味しているわけではありません。

 例えばTMがフリーラジカルのようなもので除去する必要があるものの場合には、このTMを除去する物質(ここではラジカルスカベンジャー)をFC、FMとして補うことになります。

 ここで選ぶ薬物は診断に沿った保険適応薬です。

MBTによる片頭痛治療の実際

 片頭痛の研究ではセロトニン神経系の機能低下が考えられています。

この場合のTS、TMはセロトニン神経系、その他には、交感神経系の機能低下、ミトコンドリア機能異常、マグネシウムの低下、血小板内ラジカルスカベンジャーの減少などです。

<実例>

*前兆を伴わない片頭痛

 TSとTMは片頭痛で一般的と考えられるセロトニン、ミトコンドリア、マグネシウム、ラジカルスカベンジャーを中心とします。特にマグネシウムが正常下限にあるため、1.8mg/dlを目標に食餌を主体に摂取を進め、ミトコンドリア機能についてはビタミンC,A、Eを中心に摂取を進めます。

 具体的な食餌内容ではマグネシウムは大豆製品(納豆など)、ビタミン類ならびにラジカルスカベンジャーは果物と緑黄野菜の摂取を中心とします。

 セロトニンについては前駆物質であるトリプトファンを含むものとして牛乳の摂取を進めます。  自律神経系の安定を図る目的で、夕方に40分/回で5回/週以上の歩行運動を指導。

<MBTを行う場合の注意>

 MBTは食餌から摂取する栄養素を重視し、薬物はサプリメントの1つと考えるので、薬物療法を中心にしている我が国の治療体制とは若干異なります。

 患者側でも薬物療法を中心に考えているような我が国での現在の診療体制では初診時からMBTを行うのは困難と思われます。

 本治療に当たっては、詳細な病歴の聴取に加えて、高度な診察能力、臨床検査値の判断力が要求され、さらに十分な栄養学的知識、運動学的知識、薬物に関する総合的な知識が要求される。

 まず、良好な医師・患者関係を確立した上で、患者にfighting spiritを持たせ、MBTを施行することになる。

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降圧剤に頭痛予防効果


 降圧薬には追加利益として頭痛の予防作用もあります。頭痛の予防目的に降圧剤を服用するのではなく、頭痛が予防できるのは貴重な関連利益です。

 報告によりますと、クラスの異なる4種の降圧剤、サイアザイド系利尿剤、β遮断剤、ACE阻害剤、ARBを検討した結果、いずれの降圧剤でも頭痛の有病率が低下しました。

 頭痛の予防が降圧作用によるものなのか、それ以外の薬理作用によるものか明らかではなく、「高血圧が頭痛の引き金になるかどうかは、いまだに”医学のなぞ”である」とのことです。


    出典:Circulation 2005;112:2301-2306
        ロンドン大学クイーンメアリー医科歯科学部Wolfson予防医学研究所疫学 law教授
 


推定有効から実証有効へ

EBMに向けて(2)

 前号で「この薬ほんまに効いてんのかいな」と疑ってみることがEBMだと書きましたが、ちょうどその日にトレンタール錠の適応削除の通知がFAXで届きました。

 これは医薬品再評価によるものでその結果トレンタール錠は「提出された資料から有用性が認められないとされた医薬品」とされてしまいました。

 医薬品再評価は1979(昭54)年一部改正が行われ,その趣旨は主として行政指導により行われてきた新薬承認の厳格化,副作用報告,再評価,医薬品の製造,品質管理に関する基準,医薬品情報の提供など一連の施策および最近の情勢の法制化を中心とするもので、医薬品などの有効性,安全性の確保をその主眼とするものです。

 薬の評価は

1.有効であると実証できるもの。

2.有効であると推定できるもの。

3.有効とする根拠のないもの。

 という3つのカテゴリーに分類するものでしたが、現在はすべて1.の有効であることが「実証」されなくてはいけません。

 薬が効くという「実証」するためには二重盲検法が用いられます。これはプラセボ(偽薬)を用いて実際に患者さんに服用してもらって試さなければならないのですが、現在はアクティブプラセボ(既に市場に出回っている同一効果を持つ商品)を用いて行っています。

 いくら試験管内で効果があっても実際の疾患を持つ患者さんの体内に入ったとき実際の効果がでるかどうかは保証されません。そのための臨床試験です。

 この再評価により、今まで発売されていた脳循環改善薬はことごとく適応症の見直しをせまられています。(下欄参照)

 当たり前のように使っていた薬が突然効果なしとされることは、我々にとってもショックですが、それよりも実際に飲んでおられた患者さんはどう思われるでしょう。

薬は本当に効いているのか?

薬を飲んだから治ったのか?

薬を飲まなくても治ったのではないか?

薬を飲まなかったらもっと早く治ったのではないか?

 という疑いを持つことも必要なのではないでしょうか?

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