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向精神薬:麻薬取締り法の改正

1990年9月1日 No.71

   本年(1990年)の第118特別国会で、麻薬取締り法は「麻薬及び向精神薬取締り法」と改正され、睡眠薬、精神安定剤等を「向精神薬」と定義し、向精神薬が医療及び学術研究以外に使用されないよう規制されるようになりました。

 向精神薬は医療上有用でありますが、乱用された場合、国民の心身に及ぼす影響及び社会的弊害が少なくありません。また向精神薬(幻覚剤、覚醒剤、精神安定剤等)の乱用が世界的に社会的問題となっていることから、その乱用と不正取り引きを防止し、向精神薬が医療及び学術上の目的に使用されるよう国際協力を行なうため、「向精神薬条約」も作成されました。

 その条約では、現在(1990年)98物質(幻覚剤22、覚醒剤・興奮剤22、催眠鎮静剤26、精神安定剤24、鎮痛剤24、抗てんかん剤2)が対象となっています。


<今回改正の趣旨>

 向精神薬の乱用及び不正取り引きの防止を図るとともに、「向精神薬に関する条約」を批准するため、麻薬取締り法を改正し、向精神薬の輸出、製造、譲渡について所要の措置を講ずる。

法律の公布は、平成2年6月19日 施行は8月25日

政省令の公布は、平成2年8月1日 施行は8月25日

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<向精神薬とは>

 中枢神経に作用して精神機能に影響を及ぼし、乱用の恐れ及び乱用された場合の有害性の程度が麻薬及び覚醒剤より低い物で、向精神薬取締法で定めるもの。

 該当する医薬品としては、不眠薬、不安神経症、心身症、てんかんの発作、抑うつ等各種の適応症の物があり、医療の分野で有用性が認められ使用されています。



麻薬取締り法に伴う注意点

1990年11月15日号 No.76


 麻薬取締り法が一部改正され「麻薬及び向精神薬取締り法」と成り細則が変更になっています。

 大阪府環境保険部薬務課の麻薬取扱についての手引書より、主な注意点を抜粋してみます。


○免許 麻薬施用者 *新規申請には医師免許が必要(コピーは不可)

 麻薬施用者が大阪府内で2つ以上の病院または診療所に従事する場合は、主として診療する施設で免許を受けるとともに、他の病院についても免許所に記載が無ければ、その施設では麻薬の使用はできません。


*免許証の記載事項変更届〜継続申請時の記載変更は不可

 免許証に記載されている事項に変更が生じたときは、15日以内に手続きを行なってください。


○譲渡(返品)〜外来からの譲り受け(MSコンチン錠など)

 患者または患者が死亡した場合にその相続人から残余の麻薬の返却の申し出があった場合は、譲り受けることができます。なおこの場合は記録が必要になります。


○管理〜入院患者に施用のため交付された麻薬の管理

 病院等の実情により入院患者に施用のために交付された麻薬を、ナースステーション内で保管する場合は、鍵をかけて麻薬を他の医薬品と区別して保管することが望まれます。


○麻薬中毒者診断届、転帰届

 医師の判断で提出のこと。従来のように服用後2週間2週間経過しただけでは、届を出す必要はありません。


<麻薬帳簿>

*診療録の記載

1.麻薬を施用のため交付したときは、診療記録表紙上欄に「麻」(○で囲む)と朱書きし、他の診療録と区別できるようにする。

2.麻薬を施用した場合の診療録の記載は、施用した実際量を記録し、「麻」(○で囲む)と朱書きするか、赤線を付すなどする。


<その他> 麻薬の携帯輸出入

 患者は、自己の疾病の治療の目的で厚生大臣の許可を受けて麻薬を携帯して出国又は入国することができます。


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大麻について

 2009年2月1日号 No.491

 最近、大学生による大麻栽培事件などで大麻が社会問題となっています。大麻とは、線維物の麻(あさ)で、非常に身近な存在です。マリファナは大麻の葉のことで、乾燥させ、細かくしてタバコのようにしたものが出回っています。また、花穂や乾燥葉を樹脂で固めたものをハシッシュあるいは、チャラス、有機溶媒を使って樹脂から有効成分を抽出したものをハシッシュオイルと呼んでいます。さらにアヘン、ヘロインとの混合物もあり、より強力な幻覚作用を持っています。

 大麻の幻覚作用の本体はTHC(テトラヒドロカンナビノール)です。脂溶性が高いため、喫煙では肺から、経口の場合は腸管から吸収されやすく速やかに全身に分布します。

 脳-血液関門を容易に通過して脳内に入ります。排泄されにくく、1ヶ月間体内にとどまる場合もあります。

<大麻の作用>

 大麻乱用者は、幻覚作用による、1)気分・情動の変化(陶酔感、幸福感)、2)感覚、知覚の変化(音感、視覚、味覚、体感の鋭敏化)、3.嗜好の変化といった日常の自分とは異なった体験を求めています。

 摂取量が増えれば、攻撃性や妄想等の急性の精神症状も認められ、さらに耐性や依存性も報告されています。

<危険性>

 THCのLD50はニコチンに比べて100倍近く高く、タバコより安全と言われています。しかしニコチンの作用は神経節のブロックで、一過性ですが、THCの中枢作用は持続的です。

 大麻の乱用が精神障害を誘発するという点でもタバコと大きく異なります。また、大麻の煙の中には発癌物質である、ベンゾ〔α〕ピレンがタバコの約1.5倍も含まれています。さらに心臓に対する作用もタバコより強く、生殖能力にも障害を生じさせることが認められています。

 <依存性薬物の法規制>

・大麻取締法〜マリファナ、ハシッシュ
・麻薬及び向精神薬取締法、あへん法
 *モルヒネ型〜あへん、モルヒネ、ヘロイン、コデイン
 *バルビツール酸系、催眠剤、アルコール型〜バルビタール、サイレース、アルコール
 *コカイン型〜コカイン
 *カート型〜カチノン、カチン
 *幻覚剤型〜LSD、PCP、メスカリン、MDMA
・覚せい剤取締法〜アンフェタミン、メタンフェタミン
・毒物及び劇薬取締法〜シンナー、トルエン、酢酸エチル

<治療法>

 麻薬依存症には短期解毒療法とカウンセリングが行われますが、再発が多く、よりより治療法が求められています。

 米国では若年麻薬患者の治療にブブレノルフィン(レペタン)・ナロキソン合剤(日本では未発売)が用いられています。従来の低用量・短期解毒療法よりも、高用量・長期解毒療法を行ったほうが、効果が高かったとの報告があります。

 {参考文献} PharmaTribune December 2008
 


      尿酸値が人類で高いわけ(失楽園との関係)     はこちらです。
 


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麻薬事故とは

〜〜〜麻薬の取り扱いには十分注意してください。〜〜〜


2009年7月15日号 No.502


 麻薬及び向精神薬取締法で事故とは「麻薬取扱者が所有し、又は管理する麻薬につき、減失、盗取、所在不明その他の事故が生じたとき」と規定されています。

 麻薬の量が何らかの理由でなくなったか、減ってしまった場合、速やか(事故発生当日、又は翌日)に保健所に届けることが義務づけられています。

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 麻薬の事故例(他院での例)

<所在不明、減失等>
・病棟の麻薬金庫内の麻薬点検時に金庫外にこぼしてしまい、そのことに気づかずに所在不明となった。
・薬剤師が麻薬を調剤した際に、薬剤の一部を麻薬金庫に戻し忘れ、そのまま所在不明となった。
・医師が、手術前に麻酔の準備をしている際に、誤って麻薬を床に落としバイアルを破損してしまった。

<無届廃棄>
・看護師が、麻薬を蓄尿場に落としてしまい不潔と感じ、とっさに捨ててしまった。
・患者を取り違えて配薬し、薬剤部に連絡しなかった。

 所在不明、または、減失の原因が明確でない場合、強奪、盗難などの可能性の考えられますので、事故届けを提出するとともに、最寄の警察署にも通報することも考慮してください。

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 麻薬事故届けの流れ

 ・事故当事者→麻薬管理者→大阪府知事
 ・大阪府知事→麻薬管理者に事故調査→厚生労働大臣

<注射麻薬の場合>

注射針を挿入し(吸い上げた時)後

 ・施用を中止した場合→調剤済麻薬廃棄届け

 ・施用後注射器内に残液があるとき→施用に伴う消耗(手続き不用)
  (残液は捨てないこと)     薬剤部で廃棄し記録する。

注射針を挿入中また吸い上げ中の汚染、誤調剤、誤調整(希釈間違い)

 ・回収可能→麻薬廃棄届け
 ・回収不可→麻薬事故届け

<麻薬事故発生の状況についての書き方>

1.事故発生年月日、時刻
2.事故発生場所
3.事故の種類(減失、盗取、所在不明その他の別を記載すること。)
4.麻薬のの使用状況及び施用状況
5.事故の経緯及び原因(できるだけ詳細に記載すること。なお、事故発生の状況欄に記載できない場合は「別紙のとおり」と記載し、別紙を添付すること。
6.提出先 薬剤部 → 保健所

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入院患者に交付された麻薬の管理

 入院患者に施用の為に交付された麻薬をナースステーション内において保管する場合は、カギをかけて麻薬を他の医薬品やその他の物品等と区別して金庫内に保管し、残余量についても記録し、把握して下さい。

<入院患者の麻薬の自己管理について>

 入院患者の麻薬については、本来病棟で管理することが望ましいが、患者からの要望があり、かつ麻薬施用者(医師等)が患者に管理させて問題がないと判断される場合に限り、患者に必要最小限の麻薬を保管させることは、差しつかえありません。また、患者が自己管理する麻薬の保管については、従前より病棟詰所等に設置し、保管しているような麻薬保管庫の設備でなくても良い。

【留意事項】
*入院患者が交付された自己管理の麻薬を不注意で紛失した場合、麻薬管理者は、麻薬事故届けを提出する必要はありません。しかし、紛失等の状況を患者等から聴取し原因を十分に精査した上で、他の原因が考えられず、盗難、詐取の可能性が高い場合は、所管の保健所へ状況を報告し、警察へ連絡する必要があります。

【Q&A】

Q1:入院患者に処方され、患者自身が管理していた麻薬が中止になった場合、その残薬はどうするのか?

A:院内で処方されたものであれば、廃棄、再利用の2つの方法があります。再利用する場合は、カッコ書きまたは朱書きで帳簿に受け入れ在庫に加えます。再利用しない場合、また、入院時に持参したもの(外来処方分)は、調剤済麻薬として薬剤部で廃棄します。(病棟で廃棄しないで下さい)

Q2:外来処方分の麻薬は、患者本人の管理の問題であるのに、入院したら、自己管理を止めさせてまで病院が責任を負うのは不合理ではないか?

A:麻薬については、患者に施用され消費されるまでは実質的に麻薬管理者に管理責任があります。院内においては、法第33条第2項に、麻薬診療施設においては、麻薬を管理しなければならないと規定されています。盗難等による事故防止の見地からも、患者に自己管理させる場合は責任ある十分な配慮が必要です。

     {参考文献} 大阪府県健康福祉部薬務課資料 等


<<用語辞典>>2008年6月1日号(No.476),2008年6月15日号(No.477)

クラッシュ症候群
Crush syndrome
挫滅症候群

CSM:confined space medicin

 挫滅症候群は、地震などにより倒壊した家屋や家具などで四肢が長時間にわたり圧挫、圧迫を受け、その状態が解除された後、虚血部位の血流再開と出血、浮腫などで患肢が腫脹し、さらに挫滅した筋肉からミオグロビンなどの腎毒性物質の血中流出。脱水、出血などによる循環血液量の減少で急性腎不全となります。

 一方、筋肉細胞破壊により、高カロリー血症、代謝性アシドーシスが急速に進行します。早期に対応しなければ、多臓器不全や敗血症などを合併して死亡する全身性の病態で、機序的には外傷性横紋筋融解症です。

 そのため、長期の臥床に起因するものや骨折後のコンパートメント症候群と呼ばれる障害等、抗精神病薬などによる薬剤性挫滅症候群なども同じ病態として包括されています。

 過去、本症は、第二次世界大戦のロンドン大空襲、ベトナム戦争などで報告があります。日本では1995年の阪神・淡路大震災でよく知られるようになりました。

 急性腎不全の発現は、ミオグロビン円柱による尿細管閉塞、ミオグロビンと代謝産物による尿細管細胞の直接障害、ミオグロビンによる腎虚血、循環障害、挫滅筋肉により遊離する尿酸による尿細管閉塞が原因と考えられています。

 循環動態が安定し、尿量が確認できれば強制利尿と尿のアルカリ化を図ります。それでも尿量の減少があれば、血液浄化療法を行います。

 JR福知山線脱線事故で被災者救出時に施行された治療は、CSM:confined space medicin(瓦礫の下の医療)として、すでに米国では取り入れられているそうです。

   出典:日本病院薬剤師会雑誌 2007.8
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  クラッシュ症候群とは、四肢の筋肉に長時間圧迫がかかって筋肉細胞が傷害・壊死し、その結果として骨格筋の崩壊によりカリウムが流失して高カリウム血症となり、またミオグロビンの遊離による急性腎不全が生じ、全身に対し種々の影響を及ぼす状態のことをいいます。

< 初期症状>
1.意識ははっきりしている。(意識清明)
2.運動・知覚麻痺が局所に起こる。下半身麻痺が生じ脊椎損傷と診断される場合があるが、肛門括約筋の機能は保たれている。
3.外表所見は乏しいが、圧迫された四肢の腫脹と広範な点状出血が生じている。
4.乏尿、着色尿

<薬物治療>

・輸液療法
初期から強制利尿に匹敵する大量の補液負荷や利尿剤が必要です。基本的にはKを含まない開始液を選択しますが、利尿やK排泄が良好であれば乳酸リンゲルも選択可能です。

受傷現場では早期に開始する必要があり、その場にある補液(生食)などでもかまいません。

・高カリウム血症(血清K値が6.5〜7.0Eq/l以上)

 1.イオン交換樹脂の注腸〜ポリスチレンスルホン酸Na 50g、ブドウ糖液200ml;1日数回注腸

 2.心電図変化がR波、T波のみの場合GI(グルコース・インスリン)療法
 インスリン10単位 10%ブドウ糖500ml 点滴静注

 8.4%炭酸水素Na液を追加することもあります。

3.QRS幅開大などの変化のある場合〜カルシウム製剤 1A静注

・急性腎不全筋組織から遊離したミオグロビン、体液シフトにより生じた腎血流量の低下と尿細管虚血、腎神経の緊張、アシドーシスなどの複雑な要因により発症します。
本症が発症した場合、十分な補液を行い、体液を補正する必要があります。全身状態により持続血液透析(CHD)または持続血液ろ過(CHF)を選択します。

  出典:臨床と薬物治療 2003.3


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食育基本法について

2006年8月1日号 No.434
 


 食育基本法という法律が昨年6月に公布され、7月より施行されています。その後、この法律に基づき「食育推進基本計画」が本年3月31日に内閣府の食育推進会議で策定され、今後は都道府県において「都道府県食育推進計画」が策定されることになります。

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 食育基本法 第1条(目的)

 この法律は、近年における国民食生活をめぐる環境の変化に伴い、国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育むための食育を推進することが緊急な課題となっていることにかんがみ、食育に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかににするとともに、食育に関する施策の基本となる事項を定めることにより、食育に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来にわたる健康で文化的な国民の生活と豊かで活力のある社会の実現に寄与することを目的とする。

 つまり、"健康で文化的な国民生活”として“豊かで活力のある社会”を実現することを目的として食育基本法を制定し、食育を推進しようというものです。食育とは、“食に関する知識”と“食を選択する力”を習得し、“健全な食生活を実践できる人間を育てる”ことで、知育、徳育、体育の基礎となるべきものです。

 “食”の概念は幅広く、食品だけでなく、医薬品以外の摂取するものやその原料、食料の生産から消費までのプロセス、更には食事という行為までも含んでいます。

 また、近年の食生活での問題点として次の6つの事項が、法律の前文に明記されています。

 1.栄養の偏り、2.不規則な食事 3.生活習慣病の増加、4.食の安全上の問題 5.過度のダイエット志向、6.食の海外依存

<食育推進の目標>

 次の9項目(一部略)について平成22年度までの目標値を示し、効果的で実行性のある施策を展開することを求めていますが、一方安易に目標値の達成のみを追及することのないように留意する必要があるとも指摘されています。

1)食育に関心を持っている国民の割合の増加

   平成17年度 70% → 90%以上

2)朝食を欠食する国民の割合の減少

 ・小学生:   4% → 0%
 ・20代男性:20% → 15%以下
 ・30代男性:32% → 15%以下

3)学校給食での地場産物を使用する割合の増加

 平成16年度21% → 30%以上

4)「食事ガイドバランス」等を参考に食生活を送っている国民の割合  60%以上

5)内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)を認知している国民の割合 80%以上

6)食品の安全性に関する基礎的な知識を持っている国民の割合   60%以上

7)その他:食育にかかわるボランティアの数の増加、教育ファームの取り組みがなされている市町村の増加、
      食育推進計画を作成・実施している都道府県及び市町村の割合の増加

 ・都道府県:100%、市町村:50%以上

 <家庭での食育の促進>

・生活リズムの向上〜朝食摂取など
・子供の肥満予防
・妊産婦や授乳婦に関する栄養指導
・青少年及び保護者に対する食育促進など


<NST関連用語解説>Immunonutrients:免疫賦活物質 はこちらです。
 


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夜間摂食症候群〜朝食欠食者のライフスタイル

   NES:Night eating Syndrome

2008年7月1日号 No.478

 NESは、1955年に米国で、夜間に偏った異常な食行動と睡眠障害として提唱されました。その特徴は、朝の食欲不振、19時以降の夕食後に一日の総摂取カロリーの50%以上を摂取すること、夜間に睡眠覚醒があることが挙げられます。

{参考文献}日本薬剤師会雑誌 2008.4

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 医学部生を対象とした食生活実態調査の結果から、朝食を取らない学生が20.6%で、このような学生はエネルギー摂取が夜間にずれ込みNESの徴候があるのではないかと考察されています。

 また不摂生な夜型生活を送ることにより、夜間の血清メラトニンとレプチン濃度が低下しインスリン過剰分泌と高血糖と翌朝の低血糖が出現したと報告されています。

 さらに、NESのうち夜間にスナック菓子を過食するものは、健康関連のQuality of life(QOL)が低く、抑うつ症状が強いとも報告されています。

<朝食欠食の対策>

 若年成人における朝食欠食の対策の鍵は、夜型生活から朝型生活への行動変容にあることが容易に推察されます。

 現代社会では、若年世代の夜型化が進み、睡眠時間が短縮されているため、体内時計の不調による概日リズム睡眠障害の人が増加しています。概日リズム睡眠障害の治療には、近年我が国で開発されたメラトニン受容体作動薬が欧米では認可されていますが、薬剤を使用しなくとも朝に太陽光を浴びることと日中の活動性を高めることで改善されうると報告されています。

 すなわち、朝の早起きと日中の運動を生活指導に取り入れることが大切なのです。また夕方から夜間にコンビニエンスストアなどの明るい場所に行くことも避けなければなりません。メラトニンは夜間の入眠と睡眠の質を高める重要な役割を担うホルモンであるが、光曝露によって抑制されてしまうからです。

 さらに食事の面から夜型から朝型に変えるためには、トリプトファンを多く含む食品を朝食に摂取した方が良いことが報告されています。トリプトファンは食事によってのみ摂取することができる必須アミノ酸で、魚の干物や納豆などの大豆製品に多く含まれることから、和風の朝食がセロトニン神経を活発化させることが広く言われています。

 一方で、夜眠れないからといって、安易に睡眠薬を服用することはあまり勧められません。睡眠薬により朝の不快感が増す場合もあり、必ずしも朝食の摂取につながらないからです。また昼間のストレスや心の問題から不眠症になっているケースには、抗不安薬や抗うつ薬も必要になりますが、依存症になるケースもあるので、専門医師の診察に任せるべきでしょう。

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 これまでの先行研究を検討した結果では、朝食欠食者のライフスタイルとして多いのは、喫煙、飲酒、運動不足、不適切な睡眠時間です。多くの朝食欠食者にとっては、不健康な生活を改善することは、疾患の予防につながるので、生活指導において規則正しい朝食の摂取を進めることは大切です。 特に朝食を欠食しがちな喫煙者や飲酒者にターゲットを絞り、朝食摂取を勧める健康教育を促すためには、昼間の運動を習慣化し、ストレス解消を勧めることも得策と思われます。


   <医薬トピックス>  アサーション:assertionはこちらです。

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