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白質脳症

昭和63年8月15日号 No.28

   フルオロウラシル系抗悪性腫瘍剤の副作用として、言語障害、歩行障害、意識障害等の重篤な精神障害が知られていますが、厚生省医薬品副作用情報No.91では白質脳症にまで至る症例が報告されています。

 薬剤による白質脳症は、腫瘍の脳転移との鑑別が困難な場合がありますが、CTまたはMRIでの診断により早期に確定診断が可能です。

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*1日使用量に注意

 白質脳症と体重あたりの用量は密接な関係にあり、重篤な症状を呈した患者の大半は
10mg/kgを越える高い1日量の症例でした。
従って、体重の軽い患者には1日量に注意して減量する必要があります。

*早期発見と服用中止

「口のもつれ、めまい、ふらつき、歩行時のふらつき、もの忘れなど」の異常が認めら
れた場合、直ちに中止して下さい。(その他、見当識障害、眠気、しびれ、眼振など)

*転帰

44例中37例が軽快または回復していますが、初期症状発現から服用中止までの期間
の長いものほど回復に長時間を要しています。

*発現頻度

 重篤な精神神経症状の発現率はおよそ0.04%と推定されます。

1999年追記現在も白質脳症の副作用の記載のある薬(当院採用分)

5FU錠・注、サンフラール、フトラフールズポ、フルツロン、ヤマフール、UFT、ティーエスワン

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追記〜出典:重大な副作用回避のための服薬指導情報集(1)薬事時報社

 白質脳症は、大脳白質が障害されるために、臨床的に意識障害、精神症状、運動障害を中心とした様々な精神障害を呈する病態です。白質脳症は可逆的な神経障害であるため、初期症状をできるだけ早期に発見し、原因薬剤を中止する必要があります。そのためにも、患者自身が白質脳症の初期症状を理解できるように説明を行ない、日常生活の上での体調変化に絶えず注意を払うように指導する必要があります。

 一方、白質脳症は中枢神経系の障害であるために、患者自身で症状発現に気づくことができないおそれもあり、患者家族に対しても十分に説明を行なっておく必要があります。さらに、白質脳症には再現性が認められており、白質脳症の既往のある患者に対する5−Fu系薬剤の再与薬は避けなければなりません。

患者さん用:「ときに言語障害、歩行障害、意識障害、知覚障害、記憶力低下、まれに見当識障害、錐体外路症状、四肢麻痺等」
 これらの症状に先立って、下肢筋力低下等の訴え、歩行時のふらつき、口のもつれ、めまい・ふらつき、しびれ、物忘れ傾眠等


<好発時期>

 カルモフールによる白質脳症を発症した症例では、1日量300〜1000mgを16〜311日間、総量として4〜260g用いられていた。これらの症例の中には、1日量が300mgで発症した症例や、16日という短い期間で発症した症例も報告されています。

<転帰>

 早期に症状に気づき、速やかに内服中止した症例では50%が7日以内に回復し、その平均回復期間は18日でした。一方、進行してから内服を中止した症例では平均回復期間が83日と有意に延長していました。白質脳症発症例のうち、死亡例は28%、重篤な後遺症を残した症例が13%、改善例6%、回復例53%となっています。また、原因薬剤別では、5−Fuとフトラフールによるものの方がカルモフールによるものに比べ一般的に症状が軽く、予後も良好でした。

<治療法>

 現段階では、症状を早期に発見し、一刻でも早く原因薬剤の内服を中止させることが最善と思われます。そのためにも、患者およびその家族に白質脳症とはどういうものなのかを十分に理解してもらうことが大切です。

<機序>

 5−Fuとその誘導体であるテガフール、カルモフール3者の共通の代謝産物であるα−Fluoro β-alanine(FBAL)が、第3脳室壁の脳弓柱に選択的に沈着・蓄積しますと、アストラサイトの資質代謝が障害され、空胞を形成し、慢性神経毒性を発現すると考えられています。しかし、本症の神経障害は可逆的で、原因薬剤を中止することにより改善することが知られています。

 白質脳症の治療には、副腎皮質ステロイド剤、マンニトール、脳循環改善剤、脳代謝賦活剤および各種ビタミン剤が用いられてていますが、治療効果は少ないとのことです。


<医学・薬学用語辞典>

プレミクスト製剤


 プレミクスト製剤とは、一般に注射剤のうち薬剤が溶けた状態でソフトバッグに充填されている点滴静注用製剤をいいます。したがって、本製剤はすぐに使用する状態にある製剤で、ready to use製剤ともいわれています。

<3つのメリット>

1.安全性 2.効率性

3.コスト

・無駄な薬剤使用の低減〜混合調整中の間違いによる廃棄ロスが無くなる。混合ミスによる患者さんへのダメージ回復にかかってコストもかからない。

・人員配置の向上やスペースの節約

・プラスチックの廃棄コストはガラスに比べて安価

<トータル・コストという考え>

 プレミクスト製剤は価格が高いのだから単純にコストが低くなるとは言えないのではないかという議論が成り立ちます。

 しかし、プレミクスト製剤のもらたす安全性・効率性もコストに影響します。

 ・調剤を間違えれば、薬剤を無駄にしてしまう。
 ・院内感染や針刺し事故が起きれば、病院が訴えられる。
 ・廃棄コスト。

※ 凍結製剤

 凍結した状態に製剤化されたプレミクスト製剤

 通常のプレミクスト製剤の共通のメリットがあり、凍結することで液中で不安定な薬剤をクローズドシステムとして使うことが可能になります。

 院内製剤としてよく利用される注射用抗菌剤などは特に便利。

 安定化剤の添加も不要なことから欧米で10数社20種類の薬剤が販売されています。

     出典:ファルマシア 2004.9


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通風・高尿酸血症と食生活

2008年11月15日号 No.487

 尿酸はプリン体の分解産物であることから、プリン体を多く含む食品の過剰摂取が、高尿酸血症をきたしやすいことは容易に推測できます。また、アルコールが通風と深い関係にあることはよく知られており、健常者にアルコールを1.8g/kg(ウイスキーダブル5〜6杯)を飲むと、血清尿酸値は1.5mg/dLほど増加します。

 プリン体の多い食品と少ない食品

極めて多い(300mg〜):鶏レバー、マイワシ干物、イサキ白子、:あんこう肝酒蒸し、鰹節、ニボシ、干し椎茸

多い(200〜300mg):豚レバー、牛レバー、カツオ、マイワシ:大正エビ、マアジ干物、サンマ干物

少ない(30〜100mg):うなぎ、ワカサギ、豚ロース、豚バラ、牛肩ロース、牛肩バラ、牛タン、マトン
          :ボンレスハム、プレスハム、ベーコン、ツミレ、ほうれん草、カリフラワー

極めて少ない(〜50mg):コンビーフ、魚肉ソーセージ、かまぼこ、焼きちくわ、さつま揚げ、数の子、スジコ、ウインナ、豆腐、牛乳、チーズ、バター

:鶏卵、とうもろこし、米飯、パン、果物、じゃがいも、さつまいも、うどん、そば、キャベツ、トマト、人参、大根、白菜、
:ひじき、わかめ、こんぶ


アルコール

 飲酒量に比例して、通風リスクは高まります。毎日50g以上の飲酒する人は、全く飲まない人に比べて通風リスクは、2.53倍高くなります。ビールや蒸留酒では飲酒量が増加するほど通風は発症しやすく、毎日ビール大瓶(エタノール11.0g)2本飲む人では危険度は2.51倍に増加します。

 一方、1日少量(エタノール11.0g)のワインを毎日飲む人では通風リスクを18%減少させる結果が出ており、ワインが虚血性心疾患の発症を抑えるというフレンチパラドックスが通風においても示されています。

 コーヒー

 大規模調査(HPFS)によるとコーヒーを飲まない男性と比べて、毎日4〜5杯飲む男性では、通風リスクが40%低減され、毎日6杯以上飲む男性では60%も低減しました。この結果はカフェインとは関係せず、紅茶では通風リスクに影響しませんでした。

 第3次国民保険栄養調査(NHANES V)でも、コーヒーを全く飲まない者でと比べて毎日4〜5杯飲む者では血清尿酸値が0.26mg/dL低く、6杯以上では0.43mg/dLも低値でした。

 コーヒーによる血清尿酸値の低下はカフェイン以外のキサンチン誘導体によってキサンチン酸化酵素が制限される結果ではないかと推測されていますが、コーヒーがインスリン分泌を抑制するとの報告があり、コーヒーによってインスリン感受性が高まり血清尿酸値の低下に繋がる可能性も考えられます。

 清涼飲料水

 砂糖(ショ糖)の入った種々の炭酸飲料を毎日2杯以上飲む習慣の男性は、ほとんど飲まない男性に比較して通風リスクは1.85倍高まりましたが 砂糖を含まないダイエット飲料では、これを多く飲む習慣であっても通風リスクは高まりませんでした。

 コーラよりも他の炭酸飲料の方が通風リスクはくは高く、また、オレンジジュースやリンゴジュースでも1日グラス2杯以上飲む人のほうが飲まない男性に比べて1.81倍通風リスクは高くなっていました。

{参考文献} 日本薬剤師会雑誌 2008.10


結晶脱落説:痛風発作のメカニズム

 尿酸濃度は血清中と関節液中でほぼ等しい状態で存在し、7.0mg/dl以上で飽和になります。これまでは、この値を超えると尿酸の結晶が関節液に析出し、これを白血球が異物と認識して貪食することで強い炎症反応を起こすという結晶析出説で説明されてきました。

 しかしその後、尿酸の針状結晶(尿酸1ナトリウム:MSU)が関節の滑膜に生じて、蓄積した後、関節内に脱落し、これを好中球が貪食することで強い炎症を起こすという結晶脱落説が発表されました。

 この説のほうが臨床的事象との整合性が高いといわれています。

「尿酸値が高くても発作は必ずしも起こらない」、「尿酸値が低くても発作が起こることがある」、「ある期間高尿酸値が継続した後に痛風発作が起こる」等の事実を結晶脱落説で説明できます。

 ※通風発作が出ている時に尿酸を下げる薬を飲んではいけない??

 血清尿酸値を下げると関節液内で尿酸も下がるので尿酸塩が蓄積している状況で尿酸濃度を急に下げると関節内面に付着している尿酸塩が剥がれ落ちて崩落するため、痛風発作をが現れている時に尿酸を下げる薬は飲まないほうが良いのです。

 この左記の結晶脱落説で説明できます。ですから発作時は急激に尿酸値を変動させないようにして、発作が落ち着いてから尿酸値のコントロールを行う必要があります。

*ビールには利尿作用があるので尿量が多くなり結石が出来にくいといわれていますが間違いです。ビールを飲んだ後は脱水になりやすく尿が濃くなるので尿路結石の原因になります。ビールには酵母の核酸成分が含まれるのでプリン体を多く含むだけでなく、他の酒類に比べてエネルギーが高く、肥満も助長するので特に問題です。

{参考文献}大阪府薬雑誌 2008.11


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人類で尿酸値が高いわけ(失楽園との関係)


 人の血中尿酸値は他の哺乳動物の5〜10倍も高くなっています。これは人類が進化の過程で尿酸を分解する酵素(ウリケース)の遺伝子を失ったため、プリン代謝系の最終代謝産物が尿酸でストップしているからです。

 なぜウリケースを失ったかというと、活性酸素から生体を守る抗酸化作用を持つ尿酸の適度な料を確保するためであった言われています。尿酸は生体内で活性酸素を壊す抗酸化物質として働いていることが臨床的に証明されています。

 人間の血中の尿酸値は結晶化する限界近くまで高くなっています。これは人類の祖先である類人猿が、抗酸化物質あるビタミンCを豊富に含む果物を自由に摂取できたジャングルから出て(失楽園)、世界に進出して広がっていく際に自分で作れる水溶性酸化物が尿酸しかなかったため、一種の代償的適応として尿酸値が高くなっていったからだといわれています。

 尿酸の抗酸化作用は癌誘発の低下や、寿命の延長に関わっていると考えられています。
 

   出典:大阪府薬雑誌 2008.11


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尿路結石でのカルシウム摂取

   〜〜再発予防の食事指導ガイドライン〜〜

2011年3月15日号 No.540

 尿路結石のうち、発生頻度、再発率が最も高いシュウ酸カルシウム結石の再発予防を主目的とする食事指導ガイドライン(日本泌尿器学会:2002年)によりますと、食事内容により腸管内のシュウ酸の吸収に影響があることから、指導の基本はシュウ酸成分の過剰摂取制限と一定量のカルシウム摂取、動物性蛋白質の過剰摂取制限となっています。

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 *適量のカルシウムを摂取する。

 摂取されたカルシウムは腸内でシュウ酸と結合し、便に含まれて排泄されますが、カルシウム摂取が少ないと、カルシウムと結合できないシュウ酸は腸管から吸収されて尿中に排出され、尿中のカルシウムと結合して結石の原因になります。

 以前は、食事からカルシウムを多く摂取するとカルシウム結石形成の危険性が増すと考えられ、再発予防指導としてカルシウム摂取量を控える食事指導が行われてきました。しかし、上記のようにシュウ酸成分を制限し、適量のカルシウムを摂取することが再発予防対策に重要であることが判明し、ガイドラインの食事指導に記載されました。(600〜800mg/日)

 *脂肪の過剰摂取制限

 脂肪の過剰摂取により、腸管内の脂肪酸がカルシウムと結合してしまう為、シュウ酸イオンがフリーの状態になって体内に吸収され、尿中に出てくることになります。このため、過剰の脂肪の摂取を制限する必要があります。

 *クエン酸の適量摂取  腎臓には、クエン酸、マグネシウムなど結晶化を阻止する物質が含まれています。蛋白質過剰の食事は尿中クエン酸を減少させ結石形成を促すことになります。このためクエン酸の適量摂取が勧められています。

 *ビスホスホネートによる予防

 国際宇宙ステーションでの尿路結石予防の実験によりますと、重力のある地上環境化では、運動などで体に負荷をかけると、骨がカルシウムを取り込みますが、重力がほとんどない宇宙環境では、体に負荷がかからない為、骨にカルシウムが蓄えられないので骨塩量の低下と尿中カルシウム排泄量の増加を来たします。この結果として骨粗鬆症と尿路結石の発症リスクが増大します。

 この環境下で骨粗鬆症治療薬であるビスホスホネートを服用した場合、これらの異常を防止できることが確認されました。(若田飛行士による)

 この結果からビスホスホネートによるカルシウム結石予防ができる可能性が考えられています。


 *アロプリノール(サロベール錠等)による予防
 
 再発性シュウ酸カルシウム尿路結石症に対するアロプリノールの結石再発予防効果が検討された結果、アロプリノール(サロベール錠等)により、再発率の有意な低下が認められています。
 アロプリノールは本来、高尿酸血症治療薬ですが、尿酸結晶を核としてシュウ酸カルシウム結晶が沈殿・凝集するという説があり、特に高尿酸血症を伴うカルシウム結石症の再発予防に用いられています。

<尿路結石の結石の種類>

1)カルシウムを含むもの(カルシウム結石)〜 シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウムおよびこれらの混合物

2)カルシウムを含まない結石〜尿酸、シスチン、感染結石等

 上部尿路結石は、カルシウム結石が最も多く、男性で86%、女性で83%を占めています。
 下部尿路結石でのカルシウム結石は男性で59%、女性で43%と上部尿路結石に比べて少ない反面、男性では尿路結石、女性では感染結石が多いのが特徴です。結石の形や大きさは、人によってさまざまです。

 尿管結石に激しい痛みが起こるのは、結石によって尿の流れが悪くなり腎臓に尿が逆流して腎臓に尿がたまる「水腎症」を引き起こすからです。また、膀胱を出て尿道に詰まった尿道結石も激しい痛みを伴いますが、多くの場合は尿と一緒に排出されます。腎臓結石、膀胱結石では痛みはありません。


<結石の形成機序>

 尿路結石の成因は、結石の無機成分が尿中で過飽和状態になって形成されると考えられてきましたが、最近の研究で結晶内に数%含まれている腎組織由来の微量の有機物質(マトリックス)が、核形成に関与していることが明らかになってきました。

 尿路結石の核は腎尿細管細胞に氷柱のように成長して、やがて尿細管中に剥がれ落ちて尿に入り、尿中成分が付着して結石が形成すると推定されています。そしてオステオポンチンが結石成分マトリックスの主成分として同定されました。

 このオステオポンチンは石灰化を起こす臓器に特異的に存在し、血管で石灰化が起る動脈硬化に深いかかわりがあることが分かっています。

 さらに、尿路結石と動脈硬化には類似点も多く、両者の形成機序が共通していると考えられることから「尿路結石は、メタボリックシンドロームの初期症状である」と指摘されています。

{参考文献}大阪府薬雑誌 2011.3



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