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1999年4月15日号 266

NUDとは

  Non-ulcer Dyspepsia:潰瘍の無い消化不良

Functional(機能的) Dyspepsia(注1)ともいわれ、「非器質的上腹部不定愁訴群」と考えられています。最近外国で用いられるようになった概念で、保健診療ではまだ使用できません。

 最近の消化管運動促進薬の適応症は、慢性胃炎に付随する消化器症状になっていますが将来はNUDが本来の適応症となるべきです。なお、現在慢性胃炎は組織学的に炎症が起こっているものを指しています。

  {参考文献}OHPニュース 1999.3

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NUDの自覚症状による分類〜アメリカ消化器学会

1.胃食道逆流型(reflux-like)
  〜胸やけ、呑酸、逆流感、げっぷ
2.運動不全型(dysmotility-like)
  〜早期飽満感、腹部膨満感(注2)、食欲不振、悪心、嘔吐
3.潰瘍症状型(ulcer-like)
  〜夜間痛、空腹時痛、周期的不快感・腹痛
4.非特異型(non-specific)
  〜上記の1〜3に該当しないもの

 これらの中で2の型が半数以上を占め60.7%、1が11.6%、3が16.1%との報告があります。
1.は胃排出能が悪く、かつ胃酸分泌能が高い。2.は胃排出能が悪いが、胃酸分泌能は正常。3.は胃排出能は正常で、胃酸分泌能は少し高いNUDは胃の萎縮度には関係せず、ヘリコバクタピロリ感染には関係していないことがいわれています。

 胃食道など消化器運動異常には次のことが影響していると考えられています。
1.空腹時の収縮運動として前庭部の収縮運動の低下
2.食後期の運動異常として胃排出遅延
3.胃食道逆流や十二指腸胃逆流の増加
4.NO(Nitric Oxide)の減少に伴うgastric  adaptive relaxation(胃適応性弛緩)と
  gastric receptive relaxationなどの生理的な反応の欠如があります。

NUDの類型治療方針

 器質的疾患の除外診断(内視鏡・胃腸造影など)を行った後NUDの治療を行います。Dyspepsiaを訴える患者の半数以上はNUDです。

1.胃食道逆流型:胃酸分泌抑制薬(H2ブロッ
カー、PPI、ムスカリン受容体拮抗薬)
消化管運動機能改善薬。これらで約80%の改
善率の報告があります。
2.運動不全型:消化管運動機能改善薬が中心。
2〜4週間投薬で約70〜80%の改善率の
報告があります。ヘリコバクタ・ピロリ除
菌は今後の課題。
3.潰瘍症状型:胃酸分泌抑制剤が中心
4.非特異型:抗うつ薬又は抗不安剤が中心。特に消化管運動機能改善薬や胃酸分泌抑制薬が効かない患者には抗うつ薬などで効果が見られることがあり、臨床的には軽症うつ症の合併の診断が重要となっています。
 
*NUDで強い痛みを訴える場合

 痛みが中心の人は、酸が関係していることがあるのでPPI,H2ブロッカー、防御因子系薬剤を用いられます。もたれ感の無い人には、ブスコパン、マーロックスなどを併用すると、よく痛みが取れます。もたれ感のある人には、さらに消化管運動機能改善薬を毎食後または毎食前に与薬します。 ストレスを感じている人には、抗不安剤を併用します。

(注1)機能的ディスペプシア
 持続または繰り返す上腹部の痛みや不快感の症状があり、消化管に関連すると考えられているが、臨床的、生化学的内視鏡的、超音波画像的に器質的疾患が証明されないもの。また病悩期間が1ヶ月以上の慢性的なものを言う。

(注2)NUD患者の腹部膨満感には2種類有り、まず摂食早期の膨満感で、胃適応性弛緩の低下によるもの。もう一つは食後持続する膨満感で、胃排出能低下、または膵外分泌機能低下(慢性膵炎)によるものがある。膨満感の閾値は、健常者で水600ml、NUD患者では200mlといわれている。

次号でもNUDをとりあげています。

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ディスペプシア
dyspepsia
上部消化管機能性疾患


 ディスペプシアとは上腹部の不快症状(心窩部痛・心窩部不快感、胃もたれ、胸やけ、心窩部膨満感感、易満腹感、悪心、嘔吐)の総称です。日本人の4人に一人が上部消化器症状に悩まされ、そのうち3人に一人が受診しているとのことです。

 米国消化器学会(AGA)作業部会では、上腹部の不快症状が慢性的(4週間以上にわたり間欠的あるいは持続性)に出現し、運動とは関係無く、器質的異常を認めないものをNUDと定義しました。そして自覚症状によって胃食道逆流型、運動不全型、潰瘍症状型、非特異型の4つのサブグループに分けています。

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FD
function dyspepsia

 従来、上腹部の不快症状は内視鏡診断の下で胃粘膜病変が症状と結び付けられ、酸分泌が原因と考えられてきました。しかし、現在では胃食道逆流型を除いては、酸分泌がNUDの病態の中心ではないと考えられており、FDの病態は胃排出能などの消化管運動機能異常の他、知覚異常、心理的要因などの関与が想定されています。

・胃運動とFD(NUD)
 胃排出能が低下している割合が高く、40%に認められます。特に運動不全型、胃食道逆流型で胃排出能低下が多く見られます。その他には、空腹期胃運動の欠落、胃噴門部の適応弛緩の異常、前庭部収縮運動の低下が認められます。

・胃酸分泌とFD
 FD患者の胃酸分泌は健常人と差が無いとの報告があります。また酸分泌抑制薬の臨床試験の成績はプラセボとの間に有意差が有るものと無いものとがあり一定していません。

・Hピロリ感染とFD
 ヘリコバクタピロリの急性感染は上部消化管症状を引き起こし、組織学的活動性胃炎の要因となります。しかし多くのHピロリ感染は無症状で、組織学的胃炎と症状の程度は関連しません。これらのことからHピロリ感染がFDの症状すべてと直結していると考えるのは無理があります。

・心理的側面とFD
 FDの患者さんでは心理的異常の頻度が他の病気や健常者に比べて高く、心理介入が有効とされているため、重症例では専門医への紹介が必要なことも考慮に入れておくべきです。

FD(NUD)の診断・治療の問題点
 人体の機能は正常でも多少の変動はあり、ある一定の範囲内であれば異常とは認識されません。症状として自覚されるには、生理機能の変動(機能変動)の大きさと、異常を認識する認知機能の変動(認知閾値)の2つの要素が関係します。

 機能変動に幅が大きくなる、あるいは機能変動の幅は正常でも異常と認知する閾値が低くなれば症状が発現します。しかし、生理機能と認知閾の把握は測定法が無く、もっぱら治療者の主観によらざるを得ないので、時として医師と患者の間で異常と認識する閾値のずれが存在することになります。従って「患者の訴えを聞かない医者と神経質で気にし過ぎの患者の争い」にならないよう注意が必要です。

わが国での「胃炎」「慢性胃炎」の概念

 現在、日本で慢性胃炎という病名には3つの概念が含まれています。
それは
1)H.ピロリ感染症などによる組織学的慢性胃炎、
2)内視鏡、レントゲン所見で診断される形態学的慢性胃炎
3)胃もたれなどの症状に対する症候群性胃炎です。

 現状ではこれらすべて慢性胃炎という保険病名をつけて診断、治療しています。しかし今後は、H.ピロリ感染症などの組織学的胃炎には除菌療法、胃痛、胃もたれなどの機能性dyspepsiaには消化管運動機能改善薬を中心とした治療が求められます。

<薬物療法>

 機能性疾患であるDyspepsiaは対症療法で対応します。

 ・胃食道逆流型〜酸分泌抑制薬、制酸薬、消化運動改善薬
 ・潰瘍症状型、運動不全型〜消化管運動改善薬
 ・非特異型〜消化管運動改善薬、抗不安剤、抗うつ剤

 FDは潰瘍に似た症状を持つため経験的に酸分泌抑制薬が用いられてきましたが、胃食道逆流型を除けば消化運動機能改善薬がDyspepsiaの治療の中心となります。

 5HT4受容体刺激薬は消化管全体(食道、胃、腸)の運動を基本的に促進するのでDyspepsiaだけでなく便秘の改善にも有効です。

 H.ピロリ感染の治療は除菌しても効果がわずかであることから、あくまでも他の治療が有効でない場合の一つの選択肢と考えます。

     出典:大阪府病院薬剤師会雑誌 2005.11


情報は量より質だ

バイアスとは(2)


[参考文献}月刊薬事 1998.2

 1920年米国の新聞社で大統領選挙予想をしました。その時の立候補者はランドンとルーズベルトでした。
 ダイジェスト誌では238万人に調査し、ランドンの勝ちをギャラップ誌では3千人に調査し、ルーズベルトの勝ちを予想しました。結果は、皆さんご存知のようにルーズベルトが勝ちました。

 ダイジェスト誌の調査にバイアスがあったのです。調査した238万人というのは自動車の顧客名簿に基づいたものだったのです。1920年代で車を持っている人は大抵白人で裕福です。ダイジェスト誌の調査方法では黒人や女性、貧民層の意見は反映されませんでした。これに対してギャロップ誌は調査方法を工夫して米国全体での人種、所得の分布にほぼ等しくなるように調査対象者を選択しました。

 先週と今週の2つの例からバイアスの混入した調査方法を用いたのでは、いくらN(調査例数)を増やしても正しい結果は得られないことがよく分かると思います。対象の選択をあやまるとバイアスが発生するのです。

 対象者選択時のバイアスの例

 癌患者で手術を受けた患者と、受けなかった患者で5年生存率を比較した結果、手術を受けた患者では70%、受けなかった患者では30%になったとします。
この結果から、単純に手術した方が5年生存率が向上すると考えるには問題があります。

 例えば手術を受けた患者は元々体力がある人や疾患の程度が軽症である可能性があり、手術を受けなかったとしても延命していた可能性が高いわけです。

 このような患者選択のバイアスを避けるため、臨床試験(治験)では患者の無作為化割付けが必要となります。無作為化を行わない観察研究では、比較したい要因以外の因子(年齢、疾患の重症度)が群間で偏っていないか確認し、必要に応じて背景因子の偏りを調整した解析を行う必要があります。

[参考文献}月刊薬事 1998.2


Selection bias(自己選択バイアス)

lead time bias(リードタイムバイアス)

length bias(レンクスバイアス)

       出典:治療 2002.10

<EBMによる診断評価の落とし穴>

 EBMにより診断を評価する際に、とくに考慮すべきバイアスとしてスクリーニング評価で問題となるバイアスがあります。EBMでも信頼性の高いとされる「前向きの介入研究」であるRCTは、評価対象の診断がすでに公的に導入されている場合、実施が相当困難です。現実には多くの場合、「後ろ向きの観察研究」で議論されます。

 その場合に生じうるバイアスについて1)selection bias(自己選択バイアス)、2)lead time bias(リードタイムバイアス)、3)length bias(レンクスバイアス)、この3者が良く知られています。

 自己選択バイアスは、健診受診の有無の割付がランダマイズ化されていず、受診者の自発的な選択に任せられている場合に起こり得ます。一般的に、健診受診(したいと思う)者は、健診受診しない(したくないと思う)者より、自分の健康に関心が強く、健診受診以外の因子(たとえば禁煙、運動、適切な食事など)の条件が良い傾向があります。普段から健康的な生活習慣を守っている者の比率が高い健診受診者で、健診の効果が過大に出てもおかしくなく、評価する際に考慮が必要です。

 リードタイムバイアスは、疾患の自然経過の中で健診受診者はより早く(リードして)発見される分だけ、その後死ぬまでの期間が長くなるものです。

 医療的な介入の有無に関わらずほぼ同じ時期に死亡する人たちの中で、たまたま健診受診者が、全く症状がでない時期に診断されたとします。一方、健診を受けない者は、症状が出てはじめて病院外来を受診したとします。健診受診者は、診断がついてから亡くなるまでの期間が長く、あたかも健診を受診したことが延命させたと把握され、やはり健診効果を過大評価することになります。健診受診者は診断が単に早かっただけである(実際は、精神的な苦痛がその分長くなるマイナス面の可能性も否定できませんが、、、。)

 レングスバイアスは、長経過疾患選好とも言われ、定期的に健診を行っていると、進行の遅い(経過が長い)者が健診で発見されやすいと言うことです。経過が長いということは慢性疾患で、とくに癌の場合は低悪性度の疾患罹患者を捕えやすいのです。このことも健診受診者により条件の良い者が含まれやすく、健診効果を過大評価してしまう可能性があります。

 また、職域の健診受診者と、健診受診していない一般住民を(わが国では労働安全衛生法により職場で健診を受けることが通例であり、同じ職場で受けない人を捜すのが困難であるため)比較する場合には健康労働者効果(Healthy worker's effect)に注意が必要です。

1.就職時のバイアス(病気がちの者は就職できない率が高く、職場に元気な人が多い)、2.就業時間中の健康管理による効果(職場では、健診以外のさまざまな介入を受けやすい)、3.退職時のバイアス(病気がちの人は早期に退職する→中途脱落例になりやすい)が起こりうる。


薬局の窓(7)

 先週に引き継いで今週もDI業務の話です。

 メーカーによる添付文書の改訂は、1週間で約20件近くあり、ほとんどが副作用、相互作用の追加です。

 当薬剤部では、データベースに採用薬品の添付文書をすべて入力しており、改訂があったものについても、その都度、最新のものに更新しています。

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