1997年2月15日号 216
口腔乾燥症と舌痛
舌痛症 glossodynia
最近、舌が痛いという高齢者の患者が増えています。この原因として口腔乾燥症が考えられています。 粘膜は乾いただけで炎症を起こします。さらに、ひとたび乾燥状態に陥ると、口腔常在菌である真菌が増殖し、舌背の小溝に付着します。舌の感覚は、きわめて鋭敏であるため、患者さんにとってはかなり大きな痛みとなります。また、口腔乾燥症の原因として薬の副作用が考えられています。 舌痛は当初、特に異常が認められないため、何か心理的も問題があると疑われてきました。 {参考文献}薬局 1997.2 |
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舌痛を訴える人の舌は全般的に赤く、テカテカと光沢があります。痛みを訴える部位は舌尖から舌背の前方で、ときに舌側縁部の場合もありますが、そのような際は、舌に接触する歯列に何か障害のあることもあり、小隙に舌が強く当っているケースです。舌には小さな深い溝が多数刻まれていて、その溝を、探針で探ると、溝の深部の粘膜は著明に発赤しており、そこに炎症が存在します
そのような患者は問診中にも舌が張り付いていてしゃべりにくそうで、水を飲んだりします。よく観察すると口腔乾燥症の状態が起こっているのがわかります。
舌背に小溝のある場合には、その小溝に食渣が付着して、そこで真菌とくにCandida
albicansの繁殖が始まります。舌は筋肉の固まりで、通常、その小溝はよく観察しないとわからないほどで、舌背の多数の小溝は舌診の際とくに舌を弛緩させてみないと見つかりません。そして舌はきわめて血液循環の良い器官であるため、小さいが各所で起こった炎症はただちに拡大して、痛みとなります。
小溝は本来固有のもので、炎症の惹起によってはっきりしてきます。舌乳頭のない舌下面や厚い重層偏平上皮で覆われている歯肉部では炎症が起こっても、あまり痛みはありません。
<対策>
簡易カンジダ検査等を行い、抗真菌剤の含嗽を行うことで、3〜5日舌の炎症による発赤や痛みは消退し、眠れないなどの症状もなくなります。
また、口が乾いたら、水道水でもお茶でも湿らせておくことが必要です。
症例によっては、従来あった口腔乾燥状態も軽減することがあります。おそらく長期間、原因不明とされていたため、神経症的な状況によって自律神経のバランスが失われていたものが、自然に解消されたものと思われます。
抗不安剤などを使用すると、口腔乾燥症を生じやすく症状がさらに悪化することもあります。
(上記参照)
薬剤ニュース No.55に関連記事掲載
* 口腔乾燥症を生じやすい薬剤
中枢神経用剤:催眠鎮静剤、抗不安剤、抗てんかん剤、 NSAIDs、抗パーキンソン剤、精神神経用剤、末梢神経系用剤、骨格筋弛緩剤、鎮痙剤等
循環器用剤:利尿剤、血圧降下剤、血管拡張剤
その他:制酸剤、抗ヒスタミン剤など
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追加記事 2003.6
歯科心身症
舌痛症
glossodynia
歯科心身症(下記)の代表的疾患として舌痛症が良く知られていますが、その患者の65%が口腔乾燥感を伴うという報告もあります。
このような患者には抗うつ薬などの向精神薬がしばしば奏効します。一般的には抗うつ薬の副作用で唾液分泌は減少するはずなのに口腔乾燥感は改善するという局所所見と自覚症状の乖離が認めらます。
本症の病態は脳内の神経伝達物質や受容体に関する生化学的異常と、思考や判断、記憶との照合などに関する高次脳機能(連合野機能)の異常という2つの側面を持っています。
本症特有の自覚症状と局所所見の乖離は、視床下部より高位の中枢での生体内情報の解釈過程に障害があることを示唆しています。
一般的に口渇感は脱水などによる血漿浸透圧の上昇を視床下部の受容器が感受することによって生じるとされています。
<歯科心身症>
歯科治療の後などに原因不明の疼痛や口腔内異常感などを執拗に訴え、長期にわたり医療機関を転々とする患者群を、「歯科心身症」あるいは「口腔心身症」と呼んでいます。
歯科心身症は、口腔領域の固有感覚の認知障害、口腔の異常感覚、様々な要因(咬合わせ、アレルギー、薬害など)と関連づけられており、患者のゆがんだ身体感覚の修復には向精神薬が有効です。
臨床所見や治療に対する反応から、口腔内の異常感や疼痛などは脳内神経伝達物質系の異常が想定されています。
<歯科心身症の臨床像>
1.患者の愁訴は、顎顔面の疼痛、口腔内の違和感など口腔感覚に関する内容で、それらの感覚は、患者自身は実感しながらも表現する言葉に困るようなものが多い。
2.患者の訴える症状と実際の口腔内所見とが乖離している。
3.口腔内の疼痛、違和感や全身的不定愁訴などは、抗うつ薬で改善することが多い。
4.遠隔地でも治療を求めて受診してくる患者が多い。
5.ドクターショッピングを繰り返す傾向が見られる。
6.さまざまな内科的治療や歯科的処置の繰り返しにも関わらず、症状が改善しない。
7.自分で診断を行い、自分から検査・治療を医師に要求する場合がある。
8.“歯と全身症状との誤った関連づけ”が形成されている場合が多い。「金属アレルギー」や「薬害」といった思いこみ
9.器質的原因へのこだわりや自己確信などを持っており、それらは薬剤では変化しにくい。
10.精神科・心療内科での治療に拒否的で、精神科専門医でも手こずる場合がある。
11.発症の契機が歯科治療に関係する場合が多い。
本症の患者の態度・言動
・これだけ医学が進歩したのだから、、、
・原因が分からないはずがない
・治らないはずがない
・どこかに良い先生がいるはず
背景として、マスコミ情報の氾濫、化学万能主義、医療不信、権利意識の向上があります。
治療
基本的には、各種心理療法は効果が少なく、いくら説教や講釈を重ねても、口腔の異常感が続く限り、患者の訴えや受療行動は止みません。
抗うつ薬を中心とした薬物療法が主となりますが、副作用の発現に注意する必要があります。
ポイント
医師:検査では問題はないのに執拗に訴えを繰り返す迷惑な患者
患者:検査で問題ないと言われても、次回受診日まで待てないほどの病を抱えている
1.大げさでしつこい訴えは、「このまま治らないのではないか」「もっと悪くなるのではないか」という不安から来ています。安易に「気のせい」などと決めつけないこと。
2.何でもかんでも治してやろうと思わないこと。完全な健康を与えるなどという幻想を持たないこと。
3.「症状が精神的なもの」というメッセージをなるべく患者に与えないこと。人生相談ではなく治療に徹すること。
4.“話を聞けば良くなる”といった甘いものではない。(とってつけたような心理学の勉強をしても歯が立たない)
5.手に負えなかったらすぐにしかるべき施設に紹介する。
出典:医薬ジャーナル 2003.6 福岡大学医学部歯科口腔外科教室 豊福 明
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身体表現性障害
出典:治療 2000.6
身体表現性障害は、患者が器質的に説明されない身体症状を訴え、これにとらわれ、医療を求めようとする疾患の総称です。
この疾患の頻度は高く、多くの患者が精神科以外の診療科を受診します。
<定義> DSM-III(1980)で初めて登場
DSM-10では「患者の訴える身体症状にはいかなる身体的基盤もないという医師の保証にもかかわらず、医学的検索を執拗に要求するとともい、繰り返しその症状を訴える疾患」
<分類>
・身体化障害〜比較的若年の女性に多く、数多くの器質的に説明できない身体症状(消化器症状、呼吸・循環器症状、皮膚症状、性的な症状など)を訴え慢性経過となる。
・鑑別不能型身体表現性障害〜上記の身体化障害の軽症型、訴える症状の数がより少なく、生活を妨げる程度もより軽い。
・心気障害〜従来の心気神経症との区別が紛らわしいが、疾病恐怖が明確。醜形恐怖など。
・身体表現性自律神経機能不全〜自律神経系の機能障害、または特定の器官や器官系の障害を示唆するような症状を訴えるが、それが器質的に説明されないもの。
・持続性身体表現性疼痛障害〜強い疼痛を主訴とするが、それが器質的な所見だけでは説明できず、何らかの心理社会的因子の影響を受けて症状が強められていると考えられる疾患。(常用量の三環系抗うつ剤が有効であることが確認されている。三環系抗うつ剤は有効な鎮痛補助剤でもある)
<メカニズム(仮説)>
身体感覚の増幅(somatosensory amplification)
「ある身体感覚に注意が向かうことによって、それが強まり、さらに注意が集中するという悪循環が生じ、その身体感覚がしだいに増強し、慢性化する」という考え
<治療→対応>
精神科医の併診療が有効とされていますが、このような患者は身体症状のみを訴え、心理面の症状を否定するために、精神科への紹介を拒否することが多い。
・向精神薬の効果は不十分。もし処方する場合は、長期にわたる可能性と、このような患者では薬物への依存が形成され易いとされていることを考慮して、効果は弱いが、依存形成のないセディールなど用いることが望ましい。
・慢性化しやすいが、回復可能なので医師自身が焦らないように注意する。
メタアナリシス(パニックinUSA3)
シリーズ:情報を考える3
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L-カルニチン
カルニチンシャトル
L-カルニチンは、肝臓、腎臓、筋肉などの末梢組織でミトコンドリアによる長鎖脂肪酸の輸送を促進することによって脂肪酸のβ酸化に対して生理的に重要な役割を果たしています。
これはカルニチンシャトルと呼ばれていて、L-カルニチンを使用して脂肪酸をミトコンドリア内に効率よく取り入れるシステムです。中枢神経系でも脂肪酸輸送が存在することが知られています。
カルニチンの欠損は、心筋症、骨格筋症、低ケトン性昏睡、低血糖症、高アンモニア血症などの重篤な疾患の臓器組織の形質膜を透過するL-カルニチンの能動輸送システムが欠落していて、細胞内に十分なL-カルニチンが補給されないことが主要な原因と考えられています。
L-カルニチンは肝臓で主に合成され、神経組織にも蓄積すると考えられています。
生体内のカルニチンはL型で、D型は拮抗阻害作用を現します。
カルニチンは、エネルギー生産を行う遊離脂肪酸がミトコンドリア内に入る際に必要で、一部は食物から吸収され一部は肝で合成されます。
β酸化
脂肪酸酸化
動物組織の遊離脂肪酸はまずミトコンドリア外膜でCoAにより活性化されアシルCoAチオエステルとなり、次いでこれをアシルカルニチンに転化し、この型で内膜マトリックスに入りアシルCoAチオエステルが再形成されます。これ以後の脂肪酸酸化はすべてCoAチオエステルの形でマトリックス内で起こります。長鎖脂肪酸カルボキシル基末端から順次酸化的にアセチルCoA単位が除かれることをβ酸化β‐oxidationと呼んでいます。
これに対し、肝で脂肪酸のω‐炭素原子が酸化され最終的にα‐,ω‐ジカルボン酸を生ずる経路をω酸化ω‐oxidationと呼びます。哺乳動物での役目は不明です。
またカルボキシル炭素がCO2として除かれ、α‐炭素が過酸化水素を消費してアルデヒド基となり、酸化されカルボン酸となります。つまり一つ短くなった脂肪酸に対して,二酵素反応が連鎖的にくり返される経路をα酸化α‐oxidationと呼び、種子中に認められます。
しかしα,ω酸化は微量経路で、基本となる酸化方法はあくまでもβ酸化です。
一般に炭素原子2 m個の飽和脂肪酸では(m−1)回,β酸化経路をくり返し,m分子のアセチルCoAを得ます。この間,2回の脱水素反応で得られた電子は呼吸鎖を流れ酸素に達しATPが産生されます。一方アセチルCoAはTCAサイクルによりCO2とH2Oとに完全に酸化されます。この結果,酸化反応全体では(17
m−6)分子のATPが産生されます。パルミチン酸では熱燃焼エネルギーの約40%をATPとして回収していることになり、つまり生体は脂肪を酸化してエネルギーを獲得しており、β酸化がその主な経路となっています。
出典:薬事 2000.3等