HS病院薬剤部発行     

 薬 剤 ニ ュ ー ス

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1995年

6月1日号

NO.177

チトクロ−ムP−450 3Aとは

  〜薬物相互作用との関連で急激浮上〜

 チトクロ−ムとは、分子中に鉄を含み生体内の酸化還元反応にかかわるタンパク質の総称で、中でもチトクロ−ムP−450(以下CYP)は肝臓での脂質代謝や薬物代謝に大きな役割を果たす酵素として、最近特に注目を集めています。

薬剤ニュ-ス関連記事 (フロリ-ドとの相互作用)

 176号:ハルシオン、アセナリン、RFP、174号:グレ-プフル-ツジュ-ス(ジヒドロピリジン系Ca拮抗剤)、ハルシオン、172号:アセナリン錠、171号:トリルダン

 {参考文献}大阪府薬雑誌 Vol.46 No.5 1995

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 肝ミクロソ−ム中のCYPが補酵素NADPHの存在下、薬物に対し一原子の酸素を添加する反応を触媒することによって、薬物は水酸化体などの水に可溶の物質に変化して排泄されやすくなります。

 ヒトのCYPとしては、その由来する遺伝子によって2D6や3A4などをはじめとする20種以上の分子種が確認されていますが、それらが外界から体内に入りうる一万種以上もの薬物の代謝に関与するために、一つのCYPが異なる化学構造を持つ多の薬物に働きかけることが出来るようになっています。このためCYPに係わる薬物相互作用が問題となります。

グル−プ1〜CYP3A4を含むCYP3A群により代謝されるもの。これらが併用された場合競合的代謝阻害が起こる可能性

グル−プ2〜CYPを不活化することで併用薬の代謝を非競合的に阻害

グル−プ3〜CYPにより代謝をうける薬物と酵素を誘導する薬物を併用している時に、後者を中断すると継続服用中の薬物の血中濃度が急激に上昇する危険性

[グル−プ1]〜CYPにより代謝される

 マクロライド系抗生物質(エリスロマイシン等)、ジヒドロピリジン系Ca拮抗剤(アダラ−ト等)、ベンゾジアゼピン系薬剤(ハルシオン等)、ヘルベッサ−、性ホルモン剤

ノルバデックス、キシロカイン、キニジン、トリルダン、アセナリン、イトリゾ−ル、フロリ−ド等

[グル−プ2]〜CYPを阻害する

 タガメット、グレ−プフル−ツジュ−ス等

[グル−プ3]〜酵素誘導(CYPを誘導する)

 デキサメタゾン、リファンピシン、フェノバルビタ−ル等

(注)グル-プ分類は、筆者が便宜的につけたもので一般的ではありません。

グル−プ1同志〜作用増強

グル−プ1+グル−プ2〜グル−プ1の増強

グル−プ1+グル−プ3〜グル−プ1の代謝促進(作用減弱)

グル−プ1+グル−プ3〜グル−プ3を中断すると(急に中止)グル−プ1血中濃度が急激に上昇

   関連項目代謝多型(1) 、(2)(3)

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CYPのCYはcytochrome
Pは
pigment:色素 波長450nm

 ヘム鉄が生理的に酸化還元をすることにより,電子伝達系の成分となっている細胞内のヘムタンパク質の総称。還元型はヘモクロム型の吸収を示し,α帯がそれぞれ600,560,550nm付近にあるものを大別してシトクロムa,b,cと呼ぶ。最近はα帯の波長からシトクロムb559のように命名されるようになりました。

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エリスロマイシン・ブレステスト

 チトクロ−ムP−450(CYP)3A4の基質であるエリスロマイシン(14C標識体)を服用し、呼吸(ブレス)呼気中の14CO2(エリスロマイシンの代謝に由来)を測定することにより肝臓のCYP3A4の活性を評価する方法


<医学・薬学用語辞典>

FIC index
fraction inhibitory concentration


相乗効果または、相加効果を現す指標

FIC index={(薬剤Aの併用時のMIC値/薬剤A単独時のMIC)}+{(薬剤B併用時のMIC値/薬剤B単独時のMIC)}

 その結果を元に、

  FIC index≦0.5 相乗
    >0.5〜≦1  相加
    >1〜≦2 不関
    >2    拮抗

      出典:日本病院薬剤師会剤 2004.9


肺動脈性肺高血圧症
PH:Pulmonary Hypertension

ボセンタン水和物
エンドセリン(ET)

 肺動脈圧の異常上昇をきたした状態。WHOでは安静時の肺動脈圧平均が25mmHg以上をPHと定義しています。

 PHの成因は多様で、原発性と続発性に分けられます。原因疾患が見とめられない症例は原発性PH(PPH)とされます。また、膠原病にはPH合併症が多く、なかでも混合性結合組織病(MCTD)と重複症候群にはPHが高率に合併することが知られています。

 PHでの治療目的は、肺動脈圧の正常化、肺血管抵抗の軽減と心拍出量の増加です。PHのうちPPHはこれまで難治性とされてきましたが、1900年代後半PGI2の発見により薬物治療の道が開けました。

 2001年11月に米国等でエンドセリン(ET)受容体ボセンタンが承認され、日本でも2005年4月に承認されました。

 ボセンタン水和物はET受容体拮抗作用を示し、ETによる血管収縮、血管透過性亢進、肺動脈壁の肥大やリモデリング、肺線維化を抑制します。

 ETにはET1,ET2,ET3の3つのアイソフォームが報告されていますが、血管内皮にはET1が発現します。病的状態では、血管内皮細胞局所でのET1の産生が血管障害に関係するとされています。ボセンタンはETAとETBの両受容体と拮抗します。

原発性肺高血圧症(PPI)

 PPIは原因不明の肺高血圧症で、難病(特定疾患)に指定されています。肺動脈圧平均は正常者の安静臥位では15mmHgを超えないこと、また年齢を加味しても20mmHgを超えないこととされていますが、安静時の肺動脈圧が25mmHgを越えると肺高血圧症と診断されます。

 本症には成人型と小児型があり、26〜35歳の30歳を中心にピークがみられます。
全体の男:女比は1:2.6に対して30歳前後では、その比は1:10となり圧倒的に女性が多くなっています。

 本症は原因不明の肺血管抵抗の上昇が主たる原因で、進行すると右心室不全を併発して死亡に至り、突然死することもあります。
 

 

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